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唇をブルブルと震わせ、堪えきれなくなったローリエが涙を流し始めたのを、オレガノとクミンは目を丸くして見つめる。
「一体なんなのじゃ? なぜ泣くのじゃ?」
「ひくっ、ご、ごめんなさい……その、久しぶりに、えぐっ、同類にっ、出会えたから」
「同類? あなたまさか」
泣きじゃくるローリエが、おもむろにポケットからローリエの葉っぱを取り出して頭の上に乗せる。
するとポンっと小さな煙が上がり、ローリエの頭に丸い耳と、太くて丸い尻尾が現れる。
「たぬきの獣人……まさか魔族がこんなところに」
そう言いながらクミンが指を鳴らすと、クミンに狐の耳と尻尾が生え、オレガノに羊の角と悪魔の尻尾と小さな翼が生える。
「うちらも魔族なわけですが、あなたはどこの所属なのです?」
丸い耳を揺らしながらローリエは涙を拭く。
「えぐっ、私、魔王オレガノ様の魔王軍物流部、倉庫管理課、会計係で働いていました……うぐっ、隣町にお使いに行って帰ってきたら倉庫が人間に襲われて、ひくっ、皆いなくなっていて……どうしていいか分からなくて……うぅ、ひくっ!」
しゃっくりを混ぜながらも必死にローリエが話しを続ける。
「聞けば魔王オレガノ様は勇者一行に倒されたと聞いて、私もうどうしていいか分からなくて……ひくっ、日銭を稼ぐため日雇いをしながら食いつないでいたら、今回の儲け話が……嘘で……もう……ひくっ、そしたらオレガノさんたちが魔族だったから……嬉しくて、嬉しくて」
同胞に会えた嬉しさとこれまでの苦労を思い出して泣きじゃくるローリエを見ていた、オレガノとクミンは目を合わせると、二人は静かに頷く。
「すまなかったの。余のせいで苦労をかけたのじゃ」
オレガノが口を開いて出た言葉にローリエが目を向けるが、言葉の意味が理解できないようでただじっと見つめている。
「こんな姿にはなっておるが、余は元魔王のオレガノじゃ」
その言葉に信じられないといった感じで、目を見開くローリエにクミンが話しかける。
「本当のことです。うちの目の前で勇者にやられ、そして廃墟となった城から這い出てきたのを見ましたから」
クミンの話した内容を聞いてなんとなく理解したローリエが、目に涙を浮かべ唇を震わせる。
「ほ、本当に……オレガノ様……なのですか?」
大きく自信を持って頷くオレガノを見たローリエが、オレガノに飛びつき泣きじゃくる。
「いたっ、痛いのじゃ。そんなに強く抱きつくと、苦しぃ! 骨がっつ! あいたたたっ」
「今のオレガノ様はただの雑魚なので、もっと優しく扱ってください」
「雑魚とはなんじゃ! トゲのある言い方なのじゃって、いたたたたっ」
「申し訳ありません! 嬉しくてつい」
痛がりながらもクミンに文句を言うオレガノを、ローリエは慌てて解放する。
「ま、まあいいのじゃ。余の存在を知って喜んでくれたのはローリエが初めてじゃし」
オレガノがクミンをチラッと見ながら言うと、クミンは目を逸す。
「ところで、なんでオレガノ様はそのお姿なんですか?」
「これか? 余にもよく分からんのじゃが、気がついたらこの姿になっていたのじゃ」
「はぁ~、昔のお姿からは想像もつかない可愛らしいお姿ですね。ところで今お二人はなにをされているのですか? 魔王軍の復興や勇者への復讐とかですか?」
期待に満ちた目のローリエの質問にオレガノとクミンが目を合わせ、ローリエを見ると同時に首を振る。
「食いつなぐためにお金を稼いでいるのじゃ」
「えっ……私と一緒なのですか」
驚くローリエにオレガノは言葉を続ける。
「魔王軍の復興や勇者どもへの復讐なんてことも、考えないわけではないのじゃが現状生きることで必死なのじゃ。ところで、ローリエは会計係に所属していたと言っておったの? お金の稼ぎ方とか詳しいのかえ?」
オレガノの質問にローリエは勢いよく首を横に振る。
「い、いえ全然詳しくありません。私は帳簿をつけてお金の流れを計算するだけだったので、稼ぐことは詳しく分からないので、こうして今苦労しているわけです」
「確かにそうですよね。……お金を稼ぎ方を知らない元魔王と暗殺者、会計係がそろったところで今後の改善はないでしょうし、貧乏魔族が増えただけですね」
クミンの言葉を合図に、三人がどうしようもない現状を改めて実感し同時にため息をつく。
重苦しい空気を突き破るように、上空から急降下してきたサフランが、オレガノの頭に着地し翼をバサバサさせ動かす。
「アンジェリカから通信だ。オレガノたちに伝えたいことがあるってよ」
一方的にそう告げたサフランはオレガノの頭の上で翼を広げると、口を大きく開く。
「「聞こえてる? お久しぶりね」」
サフランの口から聞こえてくるアンジェリカの声にオレガノとクミンが驚きの表情を見せる。
「「いつもあなたたちを監視してるわけじゃないことだけは先に言っておくわね。サフランが有益、不利益だと判断したとき情報を私に知らせてくれるの。それはさておき、そこのローリエは会計業務をしていたのよね。数字の計算は得意かしら?」」
「えっ? あ、は、はい。計算にはそこそこ自信があります」
ローリエは状況を理解できないまま突然振られて驚きながらも答えると、サフランから声が聞こえてくる。
「「オレガノ、その子は今後ダンジョンを経営するとき使えるわ。数字に強いのが一人いると有利よ。ダンジョン経営のためにもその子を仲間に入れることをおススメするわ。じゃあ、そういうことで頑張ってね」」
一方的に話し終えるとアンジェリカは通信を切る。
残されたオレガノとクミン、そしてローリエは目をパチパチさせて見つめ合う。だがすぐに、
僅かな沈黙を経てオレガノがクミンに真っ直ぐ目を向ける。
「詳しい話はまた後でするが、余たちにはローリエが必要なのじゃ。余たちの仲間になって一緒に来てほしいのじゃ」
「は、はい! こちらこそよろしくお願いします」
オレガノの言葉に目に涙を溜めたローリエが嬉しそうに返事をする。




