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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
甘い誘惑は罠でしかない

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6

 ローリエを抱えたまま会場となった酒場から逃げ出したクミンは、近くの建物の屋根から警備隊らしき者たちが大勢いて、騒ぎになっている様子を覗き見る。


 ちょうどコーアと、ラッハが縄で縛られ連れて行かれるところを見たクミンは顎に拳を当て考え込む。


「コーアコアとやらは犯罪集団だったということでしょうか……」


「た、多分そうだと思います」


 屋根の上を這って移動してきたローリエが、隣に来てクミンの呟きに答える。


「ふぅ、うちとしてはあのカードが本当に幸運を呼ぶものなら使わせてもらおうかと思ったんですけど、偽物を渡す犯罪者だったとは」


「あ、そ、それよりもお金を騙し取ろうとしていたんだと思います……」


「なんじゃと! 余たちからお金を取ろうとしていたのかえ?」


 屋根にしがみつきながらオレガノが声を上げると、ローリエがビクッと体を大きく震わせる。


「ふむ、なんともバカなヤツラじゃ。なにせ余たちは、お金なんぞ全く持っていないからの。取れるものなんぞないのじゃ!」


「ええ、借金しかありませんから」


 腕を組んで胸を張る二人をローリエは驚きの表情で見つめる。


「あ、あの……お二人は借金をしていて不安とかないんですか?」


「不安ではありますが、不安で動けなくなったら現状は改善はしませんから」


「そうなのじゃ! 今回は失敗だったが次は稼げる方法が見つかるかもしれんのじゃ!」


 堂々と言い張る二人の言葉を聞いて、ローリエはふふっと可笑しそうに笑う。


「確かにそうですね。楽に稼げる方法があると誘われて来て、それが嘘だと分かってショックでしたがまた次の方法を探せばいいんですよね」


 両手をグッと握って笑顔を見せるローリエに、オレガノとクミンも笑顔で応える。


 そのときだった、オレガノの頭に勢いよく、徴収バードことサフランが飛んできて止まる。あまりの勢いに飛び蹴りを喰らったかのように、オレガノは前のめりになってこけそうになる。


「今までどこへ行っていたのですか?」


 クミンが尋ねるとサフランは石でできたくちばしを開く。


「定時連絡に決まってんだろ。それよりも詐欺集団、愛のギフトのボスが捕まったと人間どもが騒いでる。お前たちなんかしたか? というかなんでここにいる?」


 サフランの質問に対しクミンが簡単に説明すると、石でできた翼を組みそのまま右の翼の先端をオレガノとクミンに向ける。


「お前たちあの胡散臭い男について行ったのか? はぁ~、いいか? ハヌマーン商会に借金を返してくれればなにをしても自由だが、くだらない詐欺に引っかかるなよ。それにさっき、お前たち何度失敗してもめげないみたいな雰囲気出してたけど普通に反省しろよ。楽して稼ごうとすんな」


 それだけ言うとサフランは飛び立ってどこかへ行ってしまう。


「むむぅ、確かにサフランの言うことは正しいのだが、それでも余は一発逆転も狙いたい人生なのじゃ」


「1,300万エンの借金があるとその気持ちも分かります」


「いっ、1,300万⁉ お二人は没落貴族だったのではないのですか? 一体何をしたんです……」


 驚くローリエをチラッとクミンが見る。


「うちたちはまあ、いろいろあるのです。そう言えばローリエはなぜお金が必要なのです?」


「わ、私ですか? そ、その……生活のためといいますか。私もいろいろあるので……」


 クミンとローリエはお互い胸の内を明かさず、あからさまな作り笑いで誤魔化す。


「お金は誰だって必要なのじゃ。全てを失った余たちは常にゼロスタートなのじゃ。慣れぬ環境だが、それもまた楽しいのじゃ」


「なんだかカッコイイこと言ってるのかもしれませんが、常にゼロスタートはまずいと思うのですが」


 クミンのツッコミにニヘヘと笑うオレガノ、そんな二人をじっと見つめていたローリエがポツリと呟く。


「私も雇い主が突然消え、全てを失ってしまいました。慣れない環境に苦しんでいましたが、逆境を楽しめるオレガノさんって凄いお嬢さま……あれ? オレガノ?」


 言葉を切ったローリエがじっとオレガノを見つめる。


「なんじゃ? 余の顔に何かついているかえ?」


「い、いえ……南の魔王の名前がオレガノさ……だったので。同名でしかも女の子だなんてことがあるんですね」


「そ、そそそ、そうじゃったのか。余の名前は魔王の名前じゃったのかぁー。へぇー知らなかったのじゃ、びっくりなのじゃー」


 誰の目から見てもわざとらしいくらい目を泳がせながら答えるオレガノの頭を、クミンが掴みローリエの視線から反らす。


「魔王オレガノさまぁ……って結構有名なんですけど知らないですか? ということはオレガノさんたちは知らない地方から来たんですか?」


 目を逸らすクミンとオレガノを回り込んで見るローリエだが、二人は必死に目を逸らし続ける。


「なんだか……怪しいです」


 ジト目になったローリエの視線はクミンに向けられる。


「クミンさんの戦闘能力って一般的な人の域を超えていますよね」


「に、人間にもチート持ちがいるので、そんな感じです」


「むうぅ」


 目を細めてじーと見つめるローリエに、クミンは思わず後ずさりしてしまう。


「私魔力感知とか苦手ですけど……クミンさんの頭の上にあるのって」


 ローリエがクミンの頭の上に手を伸ばすと、なにもないはずの空間をつかむ。

 頭の上にある耳を掴むローリエの手を払いのけ素早く後退し、ナイフを手にしたクミンは戦闘態勢に入る。


「あなた、うちの術に触れるとは何者です」


 殺気立つクミンに対し、ローリエはポカンと開けていた口を閉じると、唇を震わせ涙をポロポロこぼし始める。


 思いもよらないローリエの涙に、戸惑うクミンとオレガノは目を合わせる。

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