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洞窟の中にある小さな泉の前に立つクミンは、前に立っている看板を凝視している。
「泉の中にお金を投げると、アイテムが手に入ります……ってなんですかこれ?」
「「書いてある通りなのじゃ。お金を泉に投げ入れることでアイテムが手に入るのじゃ。さあ、お金を投げてみるのじゃ」」
オレガノの言葉にクミンは思わずスカートのポケットを手で押さえる。
「い、嫌です……せっかく手に入れたお金を泉に捨てるなんて、私にはできません」
スカートをぎゅっと握るクミンが抵抗の意思を見せると、目の前にポンと煙が上がり一枚の紙が現れる。
「なんですかこれは……こ、これは!?」
「「アイテムが手に入る確率表よ。当然非公開だけど、こういう泉があると、確率表を作る熱心な冒険者が絶対現れるの。その表を参考にしてレアアイテムゲットしようと結構いいお金落としてくれるのよ」」
耳に響くアルシテクトの声を聞きながら、驚愕するクミンはもう一度紙面に視線を落とす。
「激レア、オリハルコンシリーズ0.005パーセント・アダマンタイト製の剣。レア、0.012パーセントでダイヤコーティングシリーズ……他にも色々ありますが、最終的に30パーセントで薬草などの消耗品ですか。一回1,000円で、9,000円払えば10連で引ける……なるほど。これってお釣り出るんですか?」
「「お釣りはないのじゃ、泉に落ちたお金は回収あるのみなのじゃ」」
「むむむ……」
クミンはポケットのお札を取り出し数えると1,000エン札を九枚取り出し、泉の上に掲げる。しばらく葛藤し、震える手でお金を泉に落とすと1,000エン札は泉に触れた瞬間に光となって消える。
ゴゴゴゴゴゴと音と共に小さな振動で泉が震えたかと思うと、泉が金色に光り、その光が中心に集まったかと思うと、丸い球が九つ生まれ三角形に並ぶ。そしてクミンの足下に三角形の方向をさす矢印が現れる。
「引け? これを引っ張るってことですか?」
矢印の上に書いてある『引け!』の文字を読んだクミンはしゃがんで矢印に触れてみる。触れると揺れる矢印を見てクミンは、そのままグッと後ろに引いてみると手に付いてきた矢印がプルプル震え出す。
「弓でも引っ張っているみたいな感覚ですね。離せば飛ぶってことでしょうか」
クミンがパッと手を放した途端、飛んでいた矢印は三角形に並んでいる光の球にぶつかる。矢印に跳ね飛ばされた丸い球は泉の縁に当たりはね返りながら、やがてクミンの前に横一列に並ぶ。
一番左の球が空中に浮くと、神々しい音と光と共に光の柱を作りだし中から薬草が現れる。
「えっと……一個目ってことですかね」
クミンが戸惑っている二つ目の光も柱となって、薬草が出てくる。次々と光からアイテムが現れる。
「薬草・薬草・小瓶・湿布・傷薬・薬草……微妙なラインナップ、ん?」
七つ目の光が空中に浮いた瞬間ピカっと青い光を放つ。今までにない動きにクミンが光の球を凝視していると、光の柱からナイフが出てくる。
「レア系ではない普通のナイフ……いやこれは、有名ブランドのDPDのナイフ!? 普通に買ったら10,000エンはする代物ですよ!」
投資以上のものの出現にテンション高くなるクミンは、残り二つが薬草であったことは気にせず、目の前に並んだ品物を満足気に眺める。そしてフワフワ自分の方に向かって来た品物に囲まれ満足気な笑みを浮かべると、ナイフを手に取る。
「ふふふふ……このナイフ欲しかったんだよねー。今度の給料日に買おうって思ってたから丁度よかったぁー。ふふふっ」
頬を赤くし口角を上げ、ふっふっふと嬉しそうに笑うクミンの耳に、アンジェリカの声が聞こえてくる。
「「これ仮想空間だから持って帰れないわよ。ちなみにそのナイフの仕入れ値は3,000円なの。薬草と小瓶などなど含めて5,000エン分を手に入れたことになるから、実質マイナス4,000エンね」」
「分かってます……分かってますって……」
欲しかったナイフが手の中にあるのに、本当は手に入っていないことに肩をガックリ落とす。
「「そんながっかりされると申しわけないわね。そうそう、ダンジョン経営者は、ハヌマーン商会系列の割引が利くの。DPDってうちの子会社だから割引利くわよ。えーっと最低でも30パーセントは利くから、6,860エンで買えるわね」」
「本当ですか! なるほどダンジョン経営するとそんな特典があるんですね」
安く買えると聞いてテンションが戻ったクミンは、手に持ったナイフをくるくる回し喜びを露わにする。
「そうと決まれば、とっととテストを終わらせましょう!」
鈍足ではあるが走るクミンは、迫りくるスケルトンの集団の一体が振った剣を避けつつ、腕を掴むと相手の勢いを利用して投げる。
衝撃で取れた頭を蹴って、別のスケルトンの足下に転がし躓かせると、顔面から倒れるスケルトンの背中に飛び乗り自分の背中をつけ体重をかけ地面に押しつぶす。
体が砕けるスケルトン落とした剣を手に取ると、次のスケルトンの攻撃を回転しながら避け、その勢いのまま膝裏に剣を振り下ろし膝から崩れたスケルトンの首をはねてしまう。鮮やかな動きでスケルトンの集団を全滅させたクミンは、意気揚々と進み始める。
「ステータスは初心者の設定じゃなかったのかえ? この動き初心者とは思えんのじゃが?」
物陰に隠れ魔物に気付かれないように、罠を予想して石ころを投げ先に発動させ回避していくクミンの活躍を画面越しに見るオレガノは目を丸くして、隣にいるアンジェリカに尋ねる。
アンジェリカは瞬きもせず、ジッと画面を見つめたまま口を開く。
「これは、経験からくる動きね。ステータスの数値変化はないから今ある力を上手く利用して戦闘をこなし、今までの培った技術で気配を消し、敵の目を掻い潜っているのね。あの子、面白い逸材ね」
「確かに凄いのじゃが、これではテストプレイにならんのではないかえ?」
「ええ、ならないわね」
「えー」
画面を見つめたまま話すアンジェリカは、高揚した表情を見せ、最早テストよりもクミンに興味があるようで、オレガノとの会話を適当にこなす。
それを感じたオレガノは不満の声を出しつつも、それ以上は会話を続けずに、ダンジョンを駆け抜ける鈍足のクミンを見つめる。
(うむぅ、余のダンジョンの凄さを自慢しようと思ったのに、とんでもない戦闘メイドなのじゃ。余のことを脳筋とか言うが、クミンもたいがい脳筋なのじゃ)
言いたいことを胸の内で呟くオレガノは、頬を膨らませ不満をクミンへ向ける。




