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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
ダンジョン経営してみます

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6

 大きなガラスが張られた部屋に入ったクミンは、部屋の外にいて手を振るオレガノと腕を組んで笑みを見せるアンジェリカを見て、ため息をつく。


 クミンと一緒に入ったハヌマーンのスタッフに手伝ってもらい手袋と、専用のブーツを身につけ、ゴーグルを見つめる。

 ゴーグルといっても目を保護するものではなく、丸みを帯びた箱のような形をしている。このようなものを見たことがないクミンは警戒しつつ装着すると、視界が真っ暗になるが、すぐに光がさしどこかの洞窟の入り口らしき場所が広がる。


「うわっ⁉ すごいです! えっと……本物の岩ですよねこれ?」


 クミンは目の前にある洞窟の入り口に近づき、岩肌をペタペタと触って感触を確かめる。その感触が本物に違いないと興奮気味に声を上げるが、口が半開きのままガラスの部屋で中腰になってなにもない空間で手でペタペタ触る姿を見たオレガノが声を上げて笑っていたりする。


 現実で笑われているなんてことは知らないクミンは、耳につけたイヤホンから聞こえるアンジェリカの指示で洞窟内へと侵入する。


「えっと武器は……ってロングソードしかないんですか? もっと短い方が取り回しが利くのですが」


「「ショートの方がいい? えーと、長さを変えてと」


「うわっ、剣が短くなりました!」


 クミンの耳にアンジェリカの声が聞こえてすぐに、手に持っていたロングソードがショートソードに変化して思わず驚きの声を上げる。


「これなら、戦えそうです」


 クミンが洞窟内を進んですぐに足を止める。


「分かれ道ですか、とりあえず左に行ってみます」


 分かれ道を左に行くと、開けた場所に出る。下に地下水が流れる道を歩きながら、地面の湿り具合に感心するクミンがふと右側を見ると、離れた場所になにかがあることに気がつく。


「宝箱……右側に行けば取れたってことですか」


 少し考えたクミンは元来た道を戻り、今度は分かれ道を右に進む。そして同じく開けた場所に出て、すぐ目の前にある宝箱を開けて中身を取る。


 中にあった千エン札を広げニンマリとクミンは笑みを浮かべる。


「「現実世界じゃないから、持って帰れないわよ」」


 スカートのポケットに千エン札を突っ込もうとしていたクミンは、突然聞こえてきたアンジェリカの声にアタフタするが、咳払いをして誤魔化す。


「ここが現実でないことくらい理解してます。ただ、こういうのは現実と同じように喜ぶべきだと、うちは思うんです」


「「クミンはゴーグルはめて、ニヤニヤしてたのじゃ」」


「なっ!? だ、だからそれは演技ですー。人が折角楽しんであげてるのに口出すとか最低だと思いますよーだ」


 突然聞こえてきたオレガノの声に、クミンは顔を真っ赤にしてなにもない空間で剣を振り回す。


「クミンよ剣を振り回さずに、早く先に進んでほしいのじゃ」


「誰のせいだと思ってるんですか、誰の!」


 キレながらも、クミンは最初の分岐点まで戻り水辺の通路を歩く。

 突如飛び出してくる半魚人の集団に、クミンはショートソードを構える。


「「クミンよ。コヤツらの弱点は火属性なのじゃ! 火の武器が有効なのじゃ」」


「いや、そんなこと言われてもこの状況で火の武器とか持ってませんし」


「「じゃあ頑張れなのじゃ」」


 耳に響く声に苛立ちの表情を見せながらも、クミンはショートソードを一体の半魚人目掛け投げる。

 半魚人の体を覆う鱗にショートソードは弾かれるが、わずかに口角を上げ涼しげに笑うクミンは指に繋がっている糸をくいっと……


「あれ? くいっと……」


 そこでクミンはここが現実でないことを改めて自覚する。


「「なんで剣を自ら手放すのじゃ?」」


「うっさいですね。こんなヤツ素手で……」


 クミンがオレガノに悪態をつきながら、一体の半魚人の攻撃をギリギリで避け腕を掴み、関節技を決めようとするがビクりともしない。


「力、よわっ!」


 自身の驚きの弱さに声を出したクミンは、別の半魚人が足下の突き出してきた槍をジャンプして避ける。


「ヤバっ、全然飛べないっ」


 ギリギリで槍先を避けたクミンは、着地と同時に走り始める。


「足、おっそ!」


 ドテドテと大きな足音をたてながら走るクミンだが、日頃の素早さは欠片も感じさせないほど鈍足に駆ける。


「「んなこのぉぉ!!」」


 気合の入った声と表情とは裏腹に、ドテドテと走るクミンは半魚人の間をなんとか抜け、岩の間のくぼみに入り、追いかけてきた数体の半魚人から身を隠す。


「「初心者ダンジョンだから、ステータスも平均的な初心者レベルに設定してるの。弱いから気をつけてね」」


「そこはせめて普通レベルにしてもらえませんかね。テストプレイなのに、こんなに苦労しなきゃいけない意味が分からないんですけど」


「「そこはリアル路線ってやつ?」」


 クミンはぜえぜえ息を切らしながら、耳から聞こえてくるアンジェリカに抗議するが、当の本人はくすくす笑うだけである。


 らちが明かないと先を、進むと再び現れる分かれ道に迷いながら、今度は右を選ぶと壁の上にある割れ目に宝箱があることに気がつく。


「登る道具が取れるのか、左側の通路を通れば取れるのか……さっきから思っていたんですけど視界にギリギリ入るところに宝箱が設置されてませんか?」


「「おおっ、よく気づいたのじゃ。宝箱をあえて見えるように設置したり、天井を低くして絡むと見えるなどして宝箱を取りに行きたい欲求をマックスにさせる算段なのじゃ」」


「なるほど、確かに気になりますね。でもこんなに宝箱設置したら、採算が取れなくなりませんか?」


「「前半こそ宝箱を多めに設置しておるが中身は安いものしか置いておらんのじゃ。後半は難易度をやや高めにして、ウキウキ気分の冒険者共から装備や金品を奪い盗るのじゃ」」


「日頃バカっぽいようで、意外と考えてる……ってわけですか」


 少し感心して呟くクミンの耳に「「聞こえておるのじゃ」」とオレガノの声が響くが無視して先に進む。

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