[EPISODE2]CHAPTER2-NEST
雨が降る。
全てを洗い流すかのように雨が降る。
だが、悪意はまだ流れ落ちない。
◇
〔THE CITY|中央島|北区|ヴァレス三丁目|都市警察CPD中央島北署地下・死体安置室モルグ|PM 11:31|ジョウホウキョウユウ〕
「それで、この潜入捜査官の遺品は?」
二階堂はフィリスに尋ねる。
「それが全部持ち去られていたみたい」
フィリスは答える。
「さっき署内の職員名簿で確認した情報よ。彼の名は【ジョッシュ・バートランド】、特別捜査部隊の一員よ」
「特別捜査部隊……確かアルの奴が居たところだったな」
二階堂は少し思案する。
「フィリー、悪いけどすこし電話するわ」
「ええ、もしかして……フォータス元捜査官?」
フィリスの問いに二階堂は頷いて答える。二階堂はそのまま腕輪型スマートフォン、通称【リングフォン】の電源を立ち上げ、空間投影された画面を操作する。
『ニカイドー?』
「アルか、お前確か特別捜査部隊に居たんだよな?」
『ええ、そうだけど……』
「潜入捜査は?」
『残念ながら私は強制捜査専門だったわよ……でも、【ミサキ】なら分かるかも。あの子、特別捜査部隊を統括しているから』
「分かった、そっちから【黛】さんにこう聞いてほしい。『潜入捜査官が隠れ家を選ぶ基準は?』って」
『了解。少し待っててね。あと、フィリーちゃんによろしく伝えておいて』
「ああ」
通話を終え、二階堂はフィリスの所へ戻る。
「今、アルに隠れ家に選ぶ基準を確認してもらっているところだ」
「なるほどね。それにしてもフォータス元捜査官か……あの子の現役時代の噂は聞いているわ」
フィリスは、ふと思い出したように話し始める。
「噂?」
「ええ、進撃のフォータスって異名があってね、彼女の強制捜査は銃弾の雨あられだとか」
「なんじゃそりゃ」
二階堂は苦笑する。
◇
〔THE CITY|中央島|北区|モードル一丁目|バーネットアパートメント401号室|PM 11:42|カクレガソウサク〕
アルフィン経由で聞いた隠れ家の選定基準を基に、死体発見現場に程近いバーネットアパートメントの401号室にたどり着いた二階堂とフィリスは、互いに銃を構える。二階堂はドアノブに手をかけ、少しだけ動くのを確認する。
「鍵は……かかってないな」
「そうね、ニカイドー君がポイントマンで私がバックアップでいいの?」
フィリスの問いに二階堂は頷く。二階堂はドアを静かに開け、自動拳銃【G18C】の銃口を部屋の中に向けながらそっと入る。
あたりを見渡し、異常がないことを確認した二階堂は銃を下す。
「……異常なし」銃を下した二階堂はフィリスに告げる。
「了解」二階堂の言葉にフィリスは応える。
二階堂は部屋に踏み込む。フィリスが自動拳銃【SP226】を構えながら二階堂のすぐ後ろを追う。人の気配が感じられない部屋の中、二人は警戒しながらリビング、寝室、トイレ、バスルームを回る。
「あとはこの部屋だけだな」
「そうね」
二階堂とフィリスは、互いに銃を構える。二階堂はドアノブに手をかけ、ドアが動かないことを確認する。
「鍵がかかっているみたいだ。時間が惜しい、突入するぞ」
「分かったわ」
二階堂は一呼吸おいて、ドアを蹴破る。
「……こいつは」
二階堂が中に入ったとき、そこは何者かの手で荒らされたかのような部屋の散らかりようであった。本の類は床に散らばり、窓ガラスは外側から破られたのか室内に割られたガラスの破片が散乱していた。
「書斎っぽいけど……先客はかなり焦って探していたのかしら」
「さあな、とはいえ俺たち以外にもここを探し当てた奴がいたのは間違いない」
二階堂とフィリスは、書斎を調べ始める。
「先客は何も見つけられなかったみたいだけど……」
「それでもここは潜入捜査官の隠れ家だ、何かあるはず……」
進まない!!