第一章☆お年頃
「ただいま、おばちゃん」
「おかえり」
学校から帰ると、仕事に出かけた父さんと母さんは家にいない。父さんの姉のおばちゃんが離れにいる。
「公司。学校では英語は習ってるかい?」
「やだなあおばちゃん、最近は小学校で習い始めるんだよ。僕中学生だから」
「そうかい。……なぞなぞ。エレベーターに女の子が一人乗っていました。このエレベーターは、あがる?さがる?」
「へ?」
英語と関係あるのかな。
「うーんと、あがる、かな」
「正解。女の子が一人、つまりa girl 、あがーる」
「うへえ」
「そこまで考えてなかった?」
「うん」
おばちゃんは僕から目を逸らすと、手元の編みかけのブランケットを編み始めた。
僕はきびすをかえすと、部屋から出ていこうとした。
「公司、こーし!」
「何?」
「ガールフレンドはできたかい?」
「ばっ!なんでだよ」
「もう中学生なんだろう?ガールフレンドの一人や二人いたっておかしくないさね」
「なんのこっちゃ」
僕は動揺してたんだと思う。おばちゃんはじろじろ、僕の頭のてっぺんからつま先まで一分の隙もなく観察した。
「ら、ラブレターもらったんだ」
「へえ」
「でもなんでかな、後からやっぱり嫌って言われちゃって」
「それはなにかやらかしたんだね」
「そうかな?」
「たとえばラブレターを友だちに見せたりしなかったかい?」
「した!したよおばちゃん。まわし読みしたんだ」
「だからだよ。女心がわからないねえ」
僕は顔を真っ赤にして、そのくせ力が抜けていくのを感じた。
「明日、謝ってくる」
「明日じゃ遅いね。携帯で今話してごらん」
おばちゃんはラブレター見てないのに、彼女の電話番号が書かれていたことをわかっている様子だった。
どきどきする。番号をプッシュして、彼女にかける。あがっちゃって、何を話したかわけわかんないけど、彼女は許してくれた。つきあうかどうかはもうしばらく様子見しよう、とお互いに言った。
「ふふふ」
「何、おばちゃん」
「青春だねえ」
「うっさいよ」
でも、よかった、という気持ちでいっぱいだった。
「おばちゃん、ありがとう」