序章☆ロッキングチェアと編み物
おばちゃんは、僕が会うときはいつもロッキングチェアに揺られて編み物に精を出している。
「編み物ばかりで退屈じゃない?」
「そうさねえ」
鼻メガネを押し上げて、下から覗き込むように僕の顔を見る。
黒いまなこが印象的で、ドキリとさせられる。
「じゃあ、なぞなぞでもするかい?」
「うん」
「百人乗りの船に十人乗ったら船が沈みました。なぜでしょう?」
「えー?うんと、お相撲さんが十人でおもすぎたから?」
おばちゃんはあきれ顔で首をふりふり、
「答えは船が潜水艦だったから」
「なんだー」
「なぞなぞなんて、みんなそんなものさね。すごくわからなくてモヤモヤするけれど、答えがわかるとあっけない」
「うん。うん。わかったから次の問題」
「……あがるばかりでさがらないものは?」
「物価?」
「違うね」
「エレベーター、は違うし、なんだろう」
「答えは年齢」
「なるほど」
バタン。
ドアを勢いよく開けて父さんが部屋に飛び込んできた。
「何事だい」
「困ったことになった」
「ゆっくり、順を追って話してごらん」
「会社の大事な書類を入れた茶封筒がなくなった」
「どこに置いてたんだい」
「車の後部座席」
「律子さんは車に乗らなかったかい?」
「乗った!でも、買い物にちょこっと出かけたくらいですぐ降りたよ」
「律子さんを呼んでおくれ」
母さんが呼ばれてやってきた。
「茶封筒?それなら」
「それなら?」
「居間のマガジンラックに置いたわ」
「なんだって!」
「なにか大事なものだったの?」
きょとんとして母さんが聞いた。
父さんは一目散に居間に行き、マガジンラックから書類の入った茶封筒をとってきた。
「ありがとう!なくしたら大変なことになるところだった!」
「ちゃんと保管場所を考えなさい」
おばちゃんはそっけなく言った。
僕はおばちゃんはなぜわかったんだろうって、ちょっと不思議だった。