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その頃ムーリャンはエルノアにある『森の家』へ向かって旅を続けていた。

今までは帰る途中でも宿に泊まる度に商売をしていたムーリャンだったが、もう商売はやめて、残りの人生は『森の家』で過ごしながらロイが作った操りの魔法の薬のような凄い薬を自分も作りたいと考えていた。


何日も旅をして国境に着いたムーリャンは、いつものように『この者はエルノア国の商人ムーリャンに間違いない』と書かれた証を取り出すと警備兵に見せようとした。すると警備兵はムーリャンのすぐ側まで近づいて来て


「よく見せてください」


と言って手を伸ばしてきた。


(カチッ)


(あっ!)


と、思った時にはもうムーリャンの首には魔法を封じる首枷がはめられていた。

周囲を見れば、いつの間にか警備兵は増えており、ムーリャンは力では無理だろうと魔法を使って逃れようとしたが使えず、あっという間に捕らえられてしまった。


警備兵はムーリャンの両手にも枷をはめながら告げた


「私達は魔塔からムーリャン捕縛のため国境に派遣された魔法師です。これからムーリャンを魔塔へ連行します」


ムーリャンを魔塔へ連行する馬車の窓には布が掛けられており、どこを走っているのか分からないようにしてあった。馬車の中にはムーリャンと一緒に魔法師が2人乗っていて逃げ出す隙もない。


(俺が捕まったという事は、ライエルもエミリアも捕まったという事か。ライエルの魔法が解かれたという事なのか? いや、あれを解くには時間がかかるはずだ。

何にしても俺は王子には何もしていないんだから処刑される事はないだろう)


ムーリャンは自分の罪は暴かれることはないと思っていた。


ところが隣に座っている魔法師が何度目かの食事を持って来てくれた時だった


(カシュ)


ムーリャンは自分の中で、小さな音を感じた。それは大切な物を隠してある物入れの蓋に仕掛けておいた小さな魔石が壊れた音だった。


捕らえられても平然としていたムーリャンが顔色を変えた。突然目を見開いて驚いたような顔をしたと思ったら今度は黙り込んだまま動かなくなってしまった。


馬車の中でムーリャンは考えていた。あの手帳が見つかったという事はロイの事も操りの魔法の薬の事もバレてしまったという事だ。こうなったらもう仕方ない。


ムーリャンは魔塔の牢に入れられてから、少し明るい表情を見せるようになった。



魔塔主はグレイが届けてくれた手帳と薬瓶を受け取ると、手帳を読み、薬瓶はリクに預けた。手帳は前世で見たものと同じだったが前世と違いムーリャンが考えた薬の事が書き加えられていた。


ムーリャンは高価な材料を使ってでも、病気で苦しむ人のために他の薬師が作らないような薬まで作ろうとしていた。


(もしかすると、ロイという男もムーリャンも天才なのかも知れない。この知識を生かせたら良かっただろうに、本当に残念だ。

2人とも魔力測定を受けられていれば、もしかしたら俺達の仲間になっていたかもしれないな)


魔塔主はなんとも言えない気持ちになり、自分に出来ることは魔力測定が全てのこどもに確実に行われることだと思った。

自分はたまたま魔力が多く、魔法師になったが、魔力の少ないこどもも同じように大切にされるようセグルスにも相談しようと考えていた。



エミリアの尋問はすぐに終わった。エミリアには罪悪感がほとんど無くて、なんでも


「そうよ!」

と認めたからだ。



ムーリャンの尋問はグレイが行った。初めの頃ムーリャンは素晴らしい薬を作ったロイのためにもそれを活用しただけだ。と言っていたが、ではライエルには何をさせる気だったのか?と聞かれると答えなかった。


グレイがこの魔法の薬は許可なく使うだけで罪になるんだと言うと、ムーリャンは反論してきた。


「それはおかしな話だ。俺はその薬を使って何人もの人を助けた。踊れなくなった踊り子は自信を取り戻して踊れるようになったし、離婚しそうな夫婦を仲直りさせた事もある。病気が治せるわけではないが、痛みを楽にしたりする事もできる。使い方によっては人を助ける良い薬だ。使うだけで罪になるなんて納得できない」


グレイは椅子に座ると穏やかな口調で話し始めた。


「確かに、全ての物事もそうだろうが、全ての薬にも良い効果と悪い効果がある。この魔法の薬は作るのは難しいが、使うのは誰でも使える。これを使えば人を思い通りにできるとなると、みんな使い始めるだろう。こんな楽な事はないからな。他人を殺すのも簡単だ。

だがそれをやり始めるといずれは全ての人間が誰かに操られる事になり、誰も信じられなくなってしまう。


操りの魔法は薬と言葉によって成立する。解除も難しく、魔法と言うよりも呪いに近いものだ。恐ろしいのは本人の本当の気持ちとは関係なく、強制的に魔法の言葉に従ってしまうだけでなく、本人がその事にすら気付かない事だ。


ムーリャンも知っているだろうが、人の心に掛けた魔法はやがて解ける。それはその人の心が抗うからだと言われている。操りの魔法は、魔法が解けた後、掛けられていたほとんどの人が正気を失うそうだ。どれだけ心を捻じ曲げられて、辛い選択を強いられたかが分かるだろう。


良い事に使えると言うが、さっき聞いた踊り子を励ますのも、離婚しそうな夫婦を仲直りさせるのも、他にも方法があったはずだ。それは手間がかかる面倒な事かもしれないが、呪いの魔法をかける必要があったとは思えない。それに、自分の事を決めるのは自分であるべきだ。


操りの魔法の薬は世界を滅ぼす可能性のある薬だ。許可なく使うだけで罪になる理由が少しは分かってくれたか?」


ムーリャンは怒鳴られるだけだろうと思っていたのに、グレイはちゃんと説明してくれた。その事が何だか嬉しかった。


「分かったよ。確かに俺は良い事ばかりした訳じゃあないからな」


それからムーリャンは自分のやった悪い事を喋り始めた。



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