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妃教育が終わるとアリアローズはマーサと一緒に王子の執務室に向かった。


執務室の中に招かれると魔塔主は先に来て待っていた。魔塔主がマーサに控え室で待っててくれるように頼むと、マーサは紅茶だけ淹れさせてくださいと言って、紅茶を淹れてくれた後で退出して行った。


3人になったところで魔塔主は執務室に遮音の魔法を掛けるとアリアローズに聞いた。


「これで誰かに聞かれる心配は無い。バルトレイ嬢、何があった?」


アリアローズがエミリアからの手紙の話をすると、魔塔主はエミリアがローラを通じてムーリャンから何かの薬を手に入れた話をした。


「リア、私は賛成できない。それが何の薬なのか分からないんだ。もしも毒薬だったらどうするんだ。頼むから行くのはやめてくれないか?」


「ムーリャンが渡した薬だからな。俺も行くのは危険だと思う」


アリアローズがエミリアの誘いを承諾した事を話すと、すぐに2人に反対されてしまった。


「急用が出来た事にして行かないのは簡単なのですが、それではエミリア様が誰を狙っているのか分かりません。私にはマーサがいます。いくら個室と言ってもマーサを他所へ行かせる事はできないでしょう?

口に入れる物にも充分に気を付けますし、こんなチャンス、もうないかもしれません」


確かにエミリアが誰かに薬を飲ませる気ならむしろ事情を知っているアリアローズの方が危険は少ないだろう。


「それなら、このペンダントを着けて行ってくれ」


魔塔主は赤い宝石の付いたペンダントをアリアローズに渡しながら言った。


「何かあればその宝石を握るんだ。そうすればどこにいたとしても俺に伝わり、すぐにその場に転移する事ができるからな」


「ありがとうございます」


「ただ、万能な物などないという事を忘れないでくれよ。俺がすぐに転移してもバルトレイ嬢を助けられるとは限らないんだ」


「分かりました。充分に気を付けます」


王子が言った。


「お茶会の最中は私も同じ店の中で待機させて欲しい。絶対に見つからないように個室を用意させるから。頼みますセシル様、リア」


「個室が用意できるなら魔法師も一緒にそこで待機させてくれないか」


「もちろんです」


それから少し話し合った後、魔塔主と王子は残り、アリアローズはマーサが待っている控え室に向かった。



エミリアとのお茶会の日、アリアローズがマーサを連れて約束の時間にお店に行くとすぐに個室に案内された。


ソファーに腰掛けてテーブルの上にある沢山の美味しそうな焼き菓子やケーキを眺めていたエミリアはアリアローズが来たことに気付くと笑顔で言った。


「よく来てくださいましたわ。アリアローズ様」


座ったまま嬉しそうに挨拶をするエミリアに呆れたマーサが言った。


「ここは学園ではありませんよクルージュ男爵令嬢。アリアローズお嬢様は公爵家のご令嬢。男爵令嬢のエミリア様が座ったまま挨拶するなど失礼にも程があります」


(なっ!侍女のくせに何てことを!)

エミリアは腹が立った。


「あなたは侍女でしょう?侍女なら侍女らしくしていればいいのではないかしら?。侍女が私に意見を言うなんてその方が余程失礼ではありませんの?」


エミリアの馬鹿にしたような言い方に今度はアリアローズが我慢できずに言った。


「マーサは私の侍女ですが、子爵家から私のところに来てくれた今では公爵家の人間です。馬鹿にするなら帰らせていただきます」


(何を言ってるのかしら?侍女は侍女でしょう。まあいいわ。今日は薬を飲ませるために呼んだんだもの。面倒だけど謝るしかないわね)


エミリアはそう思うと気分を変えようとして言った。


「せっかく準備したのに帰るなんておっしゃらないでください。失礼をお詫びします。アリアローズ様、機嫌を直して座ってくださらない?」


アリアローズも来たばかりだし、仕方ないと思いテーブルを挟んでエミリアの向かいのソファーに腰掛けた。すると途端にエミリアは楽しそうに話し始めた。


「アリアローズ様、今日用意したお菓子も紅茶も私の実家の商会がアリアローズ様のために特別に取り寄せた一流品ですのよ。この店のお菓子でも良かったんですが、やはりアリアローズ様には特別な物を準備したくて、お店に無理を言って部屋だけ借りることにしたんです。


この焼き菓子なんてこの国で食べた事のある方はほとんどいないと思いますわ。こちらのケーキは珍しい果物が使われていて、私でも滅多に食べる事が出来ないくらい貴重なんです。アリアローズ様も絶対気に入ると思うわ。


紅茶もとても珍しい物を用意しましたのよ…」


まだ喋ろうとするエミリアにアリアローズは冷ややかに言った。


「クルージュ男爵令嬢、エミリア様と呼んでもよろしいかしら?」


「もちろんです」


「では、お聞きしたいのですが、エミリア様からのお手紙には私にお詫びしたいからお茶会に来て欲しいと書かれていたと思いますが間違いないですか?」


「そうよ、間違いないわ。私はアリアローズ様にお詫びしようと思い、この場を用意したのよ」


「では、お聞きしますが、私に何を詫びるためにこの場を用意されたのでしょう? エミリア様と私の共通点は学園の生徒であるという事だけです。その学園でさえ、私とエミリア様との関わりはありません。エミリア様が何を謝りたいのか教えていただけませんか?」


考えてもいなかった事を聞かれたエミリアは答えに詰まり何も言えなくなってしまった。


(何も詫びる事がないのに、お詫びしたいと言って私を呼び出したのかしら? これでは魔塔主様からお聞きした薬の確認をする事もできそうにないわ)


「エミリア様、何も詫びる事がないのにお詫びしたいと言って私を呼び出したという事ですか?」


最初から謝る事など考えてもいなかった。ただ一緒に楽しく美味しいものを食べて、隙を見て紅茶に薬を入れればよいと考えていたエミリアは、戸惑い、どうして良いか分からなくなってしまった。


戸惑うエミリアを見てアリアローズは立ち上がった。


「やはり今日は失礼した方が…」


「ま、待ってください!」


エミリアが慌てて立ち上がり、アリアローズに駆け寄った時、マーサは自分の足元に小さな包みが落ちている事に気付いた。


「これはなんでしょう?」


マーサはすぐに小さな包みを拾うとアリアローズに渡した。


それを見て慌てたエミリアが怒鳴るように言った。


「私のよ!返して!!」


マーサから小さな包みを受け取ったアリアローズは、それが薬だと気付くとエミリアが伸ばしてきた手をサラリとかわしながらペンダントの宝石を握りしめた。


その場に現れた魔塔主はテーブルを回るようにしてエミリアから逃げるアリアローズを見てどうなっているのか分からなかったが、マーサの説明を聞いて、なんて間抜けな話だと思いながらエミリアを拘束した。


そして、魔塔主が来たことで非常事態を感じた魔法師や王子もバタバタと部屋に入って来た。


「リア!」


王子は真っ直ぐにアリアローズの所に来て思わず抱きしめた。


「リア、無事で良かった」


魔法師達に拘束されたまま、アリアローズを抱きしめる王子の姿を見たエミリアは


「なんなのよ!」


と叫ぶと、部屋の外へと連れて行かれた。


王子はアリアローズを腕の中に納めて離そうとしない。アリアローズは真っ赤になり、ただ固まっていた。仕方ないなと魔塔主が王子に言った。


「アレン、あと1年の我慢だ。そろそろ離さないとバルトレイ嬢が苦しがってるぞ」


王子は慌てて離れると、屈むようにしてアリアローズの顔を下から覗きこんだ。


(良かった。苦しんでいない)


そこにマーサも

「あと1年の我慢ですから!」


と言いながらアリアローズの手をグッと引いて部屋の隅に連れて行ってしまった。


その後、魔塔主は改めて何が起きたのかをアリアローズから聞くと、その場は解散となった。



エミリアはそのまま魔塔に連行されて牢に入れられた。持っていた薬もすぐに調べられて、操りの魔法の薬だと判明した。


その事で魔法師がエミリアを尋問しようとしたが泣き喚くばかりで必要な事は何も話そうとしない。仕方ないからしばらく牢に入れておくことになった。




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