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魔塔主は部屋を出た後すぐにリクを呼んで、応接室にいる2人の事を頼むと、バルトレイ公爵に宛てた手紙を書き始めた。


そしてリクが戻って来ると、バルトレイ公爵に宛てた手紙を渡し、各国の国王宛に、操りの魔法に似た魔法の薬を自力で作った者がいるという噂があり、実際に使われた形跡がある。


突然2時間程眠った後で急に性格が変わったり、今までできなかった事ができるようになったりと、操りの魔法が掛けられた可能性のある者がいれば報告して欲しいという旨の書簡を送るように指示した。


さらに魔塔主は、『森の家』を調査した魔法師を『森の家』の搜索に向かわせるように指示を出した。


次に魔塔主はグレイを呼ぶと、バルトレイ家への派遣が終わった事を伝えた。


そしてムーリャンという男が『タラの森』で見失った強盗団の首領であり、魔法の薬を作り人を陥れている疑いがあるので人数を絞って極秘で調べるよう指示を出した。


その後魔塔主は『これはグレイにしか頼めない事なのだが』と前置きした後、怪しい人間がいたら出来るだけ魔法の痕跡がないか調べて欲しいと頼んだ。


「グレイ。無理をする必要はないぞ。女性を調べる事は出来ないしな」


「分かりました。魔塔主様が探している魔法の痕跡は私がミルバルドから感じたような痕跡でしょうか?」


「そうだ、ミルバルドと同じ痕跡を探している。操りの魔法の痕跡だ。もしも見つけたらすぐに教えてくれ。ただしこれは他の者には言うなよ」


「そうですか、ミルバルドの中にあった痕跡は操りの魔法のものだったんですね。分かりました出来るだけやってみます」




学園の長期休みも終わり、生徒が学校に戻ってきた。エミリアも謹慎処分が解けて登校してきた。


アリアローズは変わらず魔法科での授業を受けながら王宮で妃教育を受けていたが、学園生活もあと少しだからと王子に頼まれて、妃教育のある日は王子の馬車で一緒に王宮に行くようになっていた。


妃教育は10日に1度しか休みがない。王子が毎日のようにアリアローズの手を取って、他の者には見せない笑顔で馬車に乗せる姿は、王子がアリアローズをとても大切にしている事を知らしめて、2人は理想の婚約者としての憧れの存在になっていった。


そんな中エミリアだけは王子を諦められず、何とかして近付く方法はないかと考えていた。



ライエルは国王とのお茶会の日に、王子に飲ませた薬はいつになったら効果が現れるのだろうかと思っていた。


エミリアの謹慎期間が終わり登校するようになってからも王子の様子は何も変わらず、やり方を間違えたのだろうかと思い始めた。


そして1ヶ月過ぎた頃にはムーリャンの言った事は冗談だったのだろうと思うようになっていた。


ライエルはそれならそれで構わないと気にしないようにしていたが、ローラの事だけはそうはいかなかった。


ローラはライエルが王宮に行くと、必ずと言って良いほど見掛ける事が多くなった。


つい先日の事だ。ライエルが仕事で王宮の医療室に行くと待ち伏せていたローラにいつになったら結婚してくれるのかと聞かれた時は驚いた。その時はちょうど他の人に呼ばれたため、うまく誤魔化せたが、いつまでもほっとく訳にはいかないだろう。

だからと言ってローラと結婚する気はライエルにはなかった。



クルージュ男爵家は曽祖父が船を使った事業で大成功した事により賜った爵位で、元は平民だった。


ライエルとエミリアの父は男爵位を継いでからも家よりも船に乗っている方が長く、母はライエルが幼い頃は可愛がってくれたが、エミリアの事は使用人に任せたままだった。

そして夫が帰らない寂しさを埋めるようにドレスや宝石を買うと、着飾ってどこかへ出掛けて行った。


使用人達は皆エミリアを可哀想に思い、何でも思い通りにしてやり、ライエルも両親の代わりをしてやりたいとエミリアを可愛がった。


ローラは王子に薬を飲ませるのを手伝ってくれてからすぐにライエルに高価な宝石やドレスを買って欲しいと言ってきた。ライエルは手伝ってもらったお礼としてローラが欲しがる物を贈ったが、そのローラの姿がいつも着飾る事ばかりに夢中になり、自分と妹を蔑ろにした母と重なり嫌悪するようになっていた。



ある日ムーリャンがロイシエン国の王宮内にある医療室に薬を届けに行くと、そこにはライエルも来ていた。久しぶりに飲みに行こうという話になり、飲んでいる内に、ライエルは酒に酔い恨み言を言い始めた。


「ムーリャンさん、酷いじゃないですか。私はあなたを信じて大変な思いをして薬を飲ませたんです。それなのに何も起こらないなんて酷すぎます。その上あの時頼んだ侍女には結婚しろと迫られて…」


「おい!こんな所でその話をするな!」


ムーリャンは慌ててライエルを店から連れ出すと、ライエルの家に運び、呼び鈴を鳴らすとすぐに執事が玄関を開けてくれた。


「ライエルを飲ませ過ぎたみたいだ」


「ムーリャンさん、ライエル様を連れて帰ってくださりありがとうございます」


「このまま寝室まで運ぶから手伝ってくれ」


ムーリャンは執事と一緒にライエルを抱えて寝室まで行こうとしたが、目が覚めたライエルが嫌がり連れて行けない。


「ムーリャンさん!私は酔ってなどいませんよ。ほんとうのことを言ってくれるまでは帰しませんからね!」


ムーリャンは困り執事に謝った。


「すまない。ほんとうに飲ませ過ぎたみたいだ。少し酔いを覚まさせよう。ここは俺に任せてくれ」


執事にそう言うと、ムーリャンはライエルを居間のソファーに連れて行き水を飲ませた。


しばらく待っているとライエルは

酔いが覚めてきたようで


「ムーリャンさん、飲み過ぎたみたいですみませんでした」


と言ってきた。ムーリャンは言った。


「飲むのは良いが、酔って薬の話をされるのは困る」


「私が薬の話を? それは申し訳ありませんでした。私は外で飲まない方が良いみたいですね」


ライエルが苦笑いする。ライエルとは何度か一緒に飲んだ事があったが、酒に飲まれるのを見たのは初めてだった。


「ライエル、何かあったのか?」


ライエルはため息をつくと、執務室に移動しようと言った。


「この屋敷の執務室は特注で、絶対に話が外には漏れないように作られているんです」


その方がムーリャンもありがたい。2人が執務室に行くとライエルは話し始めた。


「実はムーリャンさんから聞いた通りに王子に魔法の薬を使ったのですが、全く効果がなかったんです」


ムーリャンは信じられなかった。


「そんなはずない。やり方を間違えたんじゃないのか?」


「そんな事はないと思うんですが…」


それから王子にこうして飲ませて耳元でこう囁いたんですと、ライエルが説明すると、ムーリャンもではどうしてなんだろうと考え始めた時、ノックもなく執務室の扉を開けてエミリアが入ってきた。




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