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今世に戻りました。
19話からの続きになります。
操りの魔法を解除してもらった王子は魔塔の2階にある客室で目を覚ました。
トントントン
「アレン様、リクです。手伝いますか?」
「大丈夫。すぐ行きますから食堂で待っててください」
王子がすぐに支度をすると食堂に行き、リク達と朝食を食べていると魔塔主も食べに来た。皆が挨拶をして魔塔主が食べようとした時思い出したように王子に言った。
「そうだ、アレン今日の午後俺の部屋に来てくれるか?」
「分かりました」
その後お昼までの間は、リクの説明を受けながら魔石を作る所を見せてもらった。
「こうして魔力を凝縮して固めると魔石になるんです。そして魔石に魔力を込めて色々な魔石として使えるようになります。
魔法の薬を作る時とやり方はだいたい同じですが、これは硬い石のようにした魔石に魔力を入れているので薬のように飲み込んだりはできませんけどね」
「これはどんな魔法に使う魔石なんですか?」
「これは防御やバリアの魔法に使う魔石なんです。『魔法師の部屋』にも使われていますし、魔塔の周りにこれを魔法で固定して侵入者に備えているんですよ。
アレン様の身近な所だと、王族の部屋の明かりにも使われている魔石があります。アレン様のお部屋にも明かりの魔法を込めた魔石が使われていると思うんですが見たことありますか?」
「あまり気にした事がなかったから、帰ったら見てみてみますね」
昼食が終わると王子は魔塔主の部屋に行った。
「昨日はよく寝れたか?」
「はい」
「確認させてもらうが、アレンは誰と結婚したいんだ?」
「私が結婚したいのは、アリアローズだけです」
魔塔主は嬉しそうに笑うと言った。
「よし、良かった」
そして紅茶を淹れ、アレンに前世の出来事を話し始めた。
「アレン、俺には前世の記憶があるんだ。前世でのアレンは操りの魔法を掛けられて学園の卒業パーティでバルトレイ嬢に婚約破棄を告げてエミリアとの婚約を宣言した。そのあと・・・・・・そして俺は魔塔主に与えられた魔力の全てを使い時を戻した。
そして15歳の時に前世を思い出して、まずはアレンに操りの魔法が掛けられた時にすぐに解除できるように準備していたんだ。
前世の記憶があると言っても、いつそれが起こるかは分からないのでアレンに何かあれば俺のところに来るように頼んでおいた。
そして昨日アレンがここに来てくれたおかげで操りの魔法は解除する事が出来たが、これからどうなるのかは分からない。
そこでここからはアレンに協力して欲しいと思い、打ち明けることにしたんだ」
魔塔主は最後まで話し終わると紅茶を飲みながら王子の様子をうかがった。王子は視線を落としたまま話し始めた。
「そうだったのですね。たまになんですが、来たことない所なのに懐かしい感じがしたり、王宮でうつむいているリアを見ると胸が張り裂けそうな気持ちになるんです。
そしてだめだと分かっていても仕事を放り出してお茶に誘ってしまうんです。
後で溜まった仕事を片付けていると、婚約者を甘やかせ過ぎだと言われる事もあるんですが、どうしてもそんな顔をリアにさせたくないんです。
セシル様の話を聞いて思ったのですが、前世の私がリアに償おうとしているのかも知れませんね」
(そんな事があったのか)
魔塔主は思った。
(リアが王宮内でうつむいて……アリアローズか……そういえば前世の俺の記憶と全く違う事をしているのはアリアローズだけだ。もしかしたら……)
「アレン、もしかしたらバルトレイ嬢にも前世の記憶があるのかも知れない」
「えぇっ! リアにですか?」
魔塔主は、アリアローズは前世では魔法の勉強をしなかったが今世では魔法を勉強し、前世とは違う魔法科に入った。これほどに
前世と違う事をしているのはアリアローズだけなんだと話した。
「私もなぜリアが魔法科に?とは思いましたが、私の大叔母も魔法が好きでしたし、ユーリスも凄いのであまり考えていませんでした。
でも魔法とは関係ない事なのですが、もしもリアに前世の記憶があるとすれば思い当たることはあります」
「例えば?」
「…少し言い難いのですが、私を避けているように感じる時があるんです。王宮内の廊下を歩いていて向こうにリアが見えたと思っても居なくなっていたり、学園でも、私とできるだけ関わりたくないと思っているようです。
前世の記憶があるのならば当然かも知れませんね」
「俺はバルトレイ嬢が前世の記憶を持っているかどうか確かめたいと思うんだが、アレンはどうかな?」
王子は悩んだ。前世でアリアローズは自分に婚約破棄され、どんな思いで王宮勤めをしていた事か、そして牢に入れられて殺された。もしもアリアローズがその全てを覚えていたとしたら自分の存在自体がアリアローズを傷付けているのではないかと思うと知るのが怖かった。
でもそれと同じくらいに今世は違うと伝えたい気持ちも強かった。今世では、操りの魔法は解けて自分はアリアローズしか望まないと伝えれば、少しはアリアローズの不安を取り除けるかも知れない。
それに自分だけがこの話を知っているのは卑怯な事ではないかとも思えた。こんな秘密を抱えたまま結婚して上手くいくのだろうかと。そして魔塔主の提案を受け入れることにした。
「セシル様、確認する時、私もその場にいさせてください。アリアローズにもしも前世の記憶があるのなら、何があったのか、どんな思いでいたのか知りたいのです。そして許しを乞いたいのです。そうしなければ、今世でのほんとうのアリアローズの事を知る事ができない気がするのです。
私はあと半年で学園を卒業し、王太子となる為には誰かと結婚しなければなりません。私が望むのはアリアローズ唯ひとり。アリアローズがどうしても私を許せないというのならば無理に結婚する事はできません。ですから……」
「ちょっと待て!」
魔塔主は王子の言葉に動揺した。
「それはどういう事だ。まさか王太子にならないと言い出すんじゃあないだろうな?」
王子は魔塔主から目を逸らすことなくはっきりと言った。
「アリアローズとの婚姻が叶わないのであれば、私は誰とも結婚する気はありません」
魔塔主は王子の真剣な表情を見てセグルス王の事を思い、これは大変な事になるかも知れないと心の中でため息をついた。
それから2人はアリアローズとどこで話をするか考え始めた。
王子が言った。
「やはり魔塔で話すのが1番良いと思います」
「それしかないな。グレイの派遣の事でそろそろ話をしなければならないと思っていたからそれを利用させてもらおう」
魔塔主はすぐにアリアローズに手紙を書いて届けさせた。公爵に一緒に来られては困るので念の為、まずはアリアローズの希望を聞きたいので他の人はご遠慮くださいとも書いておいた。
数日後、約束の時間の少し前にバルトレイ公爵家の馬車が魔塔の前に止まった。迎えに出たリクが帰りの馬車は用意してありますし、魔塔には呼ばれた人しか入れない決まりがあるのです。と言うと付き添いのマーサも仕方なさそうに馬車と一緒に帰って行った。
アリアローズは1人になり、始めは緊張していたが魔塔の中に入ると、出たり消えたりする扉や上り坂になってる廊下を見ている内に緊張する事も忘れてしまった。
そして中央にある吹き抜けから注ぐ陽を浴びる花園を見て感激した。
「凄いです。この塔も花園も凄く素敵です。ここを作った人はどんな方なのか会ってみたかったです」
「俺もそう思うよ」
そこには魔塔主が立っていた。
「俺は魔塔主のセシルだ。よく来てくれたなバルトレイ公爵令嬢」
驚いたアリアローズだったが、すぐに美しいカーテシーをした。
「お初にお目にかかります。本日魔塔主様からの呼び出しによりまいりましたバルトレイ公爵の長女、アリアローズ・バルトレイと申します」
「丁寧な挨拶ありがとう。だが俺は平民出身なのできちんと返せなくて申し訳ない。早速だが、上の部屋に行こう」
魔塔主の後について廊下を登り部屋の中に入るとそこは中庭に面した応接室だった。
読んでくださり、ありがとうございます。
後10話くらいで終わりになります。
よろしくお願いします。




