34 前世 ( 15 )
謁見の日、エミリアは朝早くから湯浴みして、謁見の準備に追われていた。
(やっとアレン様に会えるのね)
昨夜はどのドレスにしようかと散々迷い、エミリアが選んだのは赤い生地の上に光に当たるとキラキラと光る小さな宝石を散りばめた派手なドレスで確かにエミリアの白い肌にはよく似合っていた。
(ライエル様がお亡くなりになったばかりだというのにこれは......)
いつも付き添っている侍女はやんわりと地味なドレスを勧めてみたが、エミリアを怒らせただけだった。
約束の時間が近付くと部屋の扉がノックされ、侍従がエミリアを迎えに来た。
侍従の後ろにエミリア、侍女、そして衛兵と1列になり着いた部屋は謁見室ではなく、まるで尋問室のように簡素な机と椅子があるだけの部屋だった。
エミリアは驚き帰ろうとしたが、衛兵がそれを許さなかった。
「エミリア、座ってくれ」
声のする方を見れば部屋の奥に王子が立っているのが見えた。思わず駆け寄ろうするエミリアの前にはマーカスが立ちはだかり、強い口調で言った。
「エミリア様、ここに座っていただけますね」
エミリアが座らされるとすぐに衛兵が近くに立った。
よく見ると、扉にも王子の後ろの方にも衛兵がいる。エミリアはこれから起こることが怖くなった。
王子は力強く言った。
「エミリア、君との婚約は破棄させてもらう。そして君は自分の犯した罪を償うんだ」
エミリアは言った
「そ、…そんなのおかしいです。私は何もしていません」
「はぁ……マーカス頼む」
王子は深く息を吐くと疲れた顔をして、マーカスに頼んだ。
マーカスはエミリアが犯した罪と証拠を挙げて丁寧に証明していった。
それを聞いたエミリアは立ち上がり
「違う!全部お兄様がやったのよ!違うのに!」
と叫ぶとその場で気を失ってしまった。
衛兵がエミリアを運んで行った後、王子はマーカスを執務室に呼んだ。
そして、自分もまたアリアローズに償わなければならない。自分は王太子にはなるつもりがないとマーカスに告げた。
マーカスは何となくそんな気がしていましたと苦笑いした後、アレン様の思い通りにしてくださいと言ってくれた。
その後王子はこれから陛下の所に行って話をすると言い、部屋を出た。
王子の執務室から王の部屋まではかなり歩く。 まだ身分は王子の婚約者だったエミリアを糾弾するため、王宮内の人数を少なくしてあったため、すれ違う人もいなかった。
王子が慣れた廊下を歩いていると突然柱の影から人が現れたかと思うとそのまま体をぶつけてきた。ドン!という衝撃と共に王子のお腹のあたりに焼けるような痛みが走った。
「ぐっ……」
王子はよろよろと後ろに倒れ込んだ。その様子を見てすぐにエミリアは倒れた王子に近付くと両膝を床につき、両手で握った短刀を持ち上げると王子に向かって振り下ろした
「やめろ!」
叫びながらエミリアを突き飛ばした魔塔主はすぐに倒れた王子の傷の位置を確認すると服の上から強く押さえた。
「誰か来てくれ!」
王宮に着いてすぐに王の所に向かおうとしていた魔塔主は2人の事を見て慌てて駆け寄りエミリアを突き飛ばしたのだ。
「すぐに助けが来る!頑張るんだアレン!」
すると王子は苦しみながらも笑顔を浮かべると言った。
「セシル様…これで良いのです。これで…リアの所へ行けます…」
その時魔塔主はもう取り戻す事のできないアリアローズの事を思い、辛くてたまらなくなった。そしてどうしてもアレンを助けたいと願った。
(今しかない!)
その時魔塔主は自分と魔石の力を全て使い時を巻し戻したのだ。
前世の話がやっと終わりました。
読んでくださってありがとうございます。




