33 前世 ( 14 )
マーカスの出迎えを受けて王宮内の部屋に戻ったエミリアは、両陛下と王子への謁見を申し出たが何日経っても許可が降りず、部屋から出られないままだった。
エミリアは苛立ちを我慢できず、日が経つに連れて周りにいる者に当たり散らし始めた。
部屋に来るのは最低限の侍女や女官だけで、食事も部屋に運ばれて来る。エミリアが部屋から出ようとすると、侍女に止められる。侍女のいない隙を狙っても扉の前にいる衛兵に
「部屋でお待ちください」
と冷たく言われた。
(なんで部屋から出してもらえないのかしら? ……もしかして私のやった事がばれてしまったのかしら…いいえ、そんなはずない。お兄様がやった事になっているはずだもの。実際私は誰も殺してないのだから大丈夫。アレン様もお兄様の事とか色々調べていて忙しいのかもしれないわね )
エミリアは何も言われずにただ閉じ込められている事に不安や怒りを感じていたが、もう少し我慢すれば大丈夫と自分に言い聞かせた。
エミリアを部屋に軟禁している間に集められた証拠を調べあげ、これでエミリアを追求できると判断した王子達は王の許可を取ると、謁見の日を決め、魔塔主にエミリアを糾弾する日が決まった事を伝えた。
エミリアの所にも侍従が謁見の日を伝えに行くと、エミリアは喜んで了承した。
魔塔主の所にグレイが戻ったのは
エミリアが糾弾される当日だった。グレイは宿も取らず早馬を乗り継いでほとんど休む事なく、魔塔主の所に駆け込んできた。
グレイは挨拶もそこそこにすぐに身体に巻き付けた布の中から1冊の古い手帳と薬瓶を取り出すと、魔塔主に渡しながら言った。
「これは『森の家』の中にある作業台の床下に隠されていたものです。今すぐ確認してください」
手帳には 喉が痛い時の薬。お腹をくだした時の薬。等々、色々な薬の作り方が材料も含めて丁寧に書かれていた。
その中には、他人を思い通りにさせる薬。として操りの魔法の薬の作り方も書かれていたが、それは魔塔主の知る作り方とほとんど同じだった。そしてこの薬を作るために森に住む事を決めた話や使い方に関する事が細かく書かれていた。
最後の方はロイという男からムーリャンへの言葉が綴られていた。
ロイも親に捨てられて、こどもの頃は奴隷のような生活を送っていた事。
当然魔力測定も受けることはなかったが、ある時自分に魔法が使える事が分かり、家を飛び出して苦労した事や親切な年寄りに文字や計算を教えてもらった事。
こっそり魔法を使ってお金を稼いだ事。魔法の薬を作る事に夢中になった事。
そしてムーリャンを育てた事。ムーリャンのお陰で楽しくて幸せだと初めて思えた事。そしてムーリャンにも幸せになって欲しいと書かれていた。
魔塔主は手帳を持ったままグレイに言った。
「グレイ、無理を聞いてくれてありがとう。何日も寝ていないのだろう?
今日は帰って休みなさい」
グレイを見送ると魔塔主は、魔塔主だけが知っている『秘密の部屋』へと転移した。
そこは転移の魔法でしか入れない部屋で丸い形をしており、部屋の中央には、まるでルビーのように赤い色をした大きな魔石が部屋中を染める程輝きながら浮かんでいた。
魔塔主は自分がまだ魔法師だった頃を思い出した。
魔塔主という存在は特別で、凄いことを沢山するのだと思っていた。そして魔塔主になるために連れて来られたのがこの部屋だった。
ここで魔塔主にとって1番大事な仕事はこの魔石に魔力を注ぐ事だと教えられた時は正直がっかりしたな。と苦笑いしつつ、今ならそれがどんなに大切な事か分かると思った。
世界を変えるような魔法を使うためには莫大な魔力が必要になる。最初に魔塔を作った魔法使い達は、魔法が正しく使われる事を望んだ。そして初代魔塔主は将来また魔法が悪用され悲劇が起きた時のために魔石に魔力を蓄える事にしたのだ。
魔塔主は真っ赤に輝く魔石に両手を置くとその膨大な魔力を自分の中に取り込んでいった。




