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31 前世( 12 )

『タラの森』が通れなくなりそうだ。


商人仲間から時々強盗が出るとは聞いていたが、今回の強盗団は酷いらしい。そんな噂を聞き始めた頃からお金を持って来る男から受け取る袋が重くなっていた。


ムーリャンが袋の中を見ると血の付いたお金が混じっている。どうしても気になり男に『タラの森』の強盗団を知っているかと尋ねたら、それなら俺が仕切っている強盗団だと嬉しそうに答えた。

そして、笑いながら言った。


「お前に金を渡すために頑張っていたら仲間も増えて今じゃ怖いもの無しだ。ここまで来れたのはお前のお陰だから仲間には首領はお前だと伝えてある。これからも金を運んで来るからな」


お金は欲しいが捕まりたくはない。考えた挙句ムーリャンは強盗団に魔法で地下室を作ってやり、その下に魔法の通路を作ると森の中の家に繋いだ。


(これで誰にも見られずにお金を運ばせる事が出来る)


ところがある日『タラの森』に大規模な討伐隊が来て、地下室が見つかってしまった。

このままでは捕まると思ったムーリャンは、ちょうど手伝いに来ていたミルバルドを家の中に隠し、自分の身代わりにする事にした。


ミルバルドは腕の良い猟師で、何年も前から獲物を分けてもらっていたが、ミルバルドの弟が病気で苦しんでいると聞いてからは、薬を作ってやり、その代わりに欲しい薬草を採って来てもらうようになった。

ミルバルドは弟が亡くなってからも、恩義を感じたのかムーリャンの手伝いを続けたいと言ってくれた。ムーリャンもミルバルドだけは『森の家』に出入りする事を許したが、念の為


「誰かに聞かれてムーリャンの特徴を話し始めると苦しくなり死んでしまう」


という操りの魔法を掛けておいた。だからミルバルドには自分の名前の他は喋るなと言っておいたのに、喋って死んでしまったのだ。


(喋らなければ助けてやったのに)


ミルバルドが死んだ事が分かるとムーリャンはすぐに『森の家』に繋がる魔法の通路を閉じた。


その後は次々と嫌な事が起こった。


(全部エミリアのせいだ)

ムーリャンは思った。


(エミリアに会うまでは俺の人生はまずまずだった。それなのにアリアローズを殺す事になって毒味役のホーリーも殺す事になった。あのうるさい侍女もそうだ。

考えてみればエミリアのせいで俺は自分の手で人を殺す事になってしまったのに、エミリアは自分では誰も殺していないじゃないか!)


ムーリャンの中でエミリアへの怒りがどんどん膨らんでいった。


(俺ももう歳を取った。それなりに楽しい人生だったし、これで終わりになるのも仕方ない。だが、俺の最後をこんな形にしたエミリアをこのままにはしてはおけないな)


ムーリャンはニヤリと笑った。


翌日の朝、昨日と同じようにマーカスが調査隊を連れて来た。調査の間は出来るだけ自室に居るように言われ、夕方になると応接室に呼ばれた。

皆が応接室に集まるとマーカスは言った。


「調べた結果問題はありませんでした。これで調査は終了します。ご迷惑をお掛けしました。

ところでエミリア様、葬儀のご予定は決まりましたか?」


執事が答えた

「お嬢様に代わり答えさせて頂くことをお許しください。お嬢様は未だ悲しみに暮れておられますので葬儀の予定をご存知ないのです」


「執事でかまいません。教えていただけると助かります」


「ライエル様をきちんとお見送りをして差し上げたかったのですが、明日、埋葬だけする事になりました」


「分かりました。事情が事情ですから仕方のないことでしょう。

エミリア様もムーリャンさんも調査への協力、ありがとうございました。それでは失礼致します」


ムーリャンは調査隊が帰って行った夜、ライエルの話をしようと言ってエミリアを呼び出した。

ライエルとの思い出話をしていると、エミリアがムーリャンと2人きりで話がしたいと言い始めた。侍女は


「エミリア様を男の方と2人きりにする事は出来ません」


と言ったが、エミリアが扉を閉めないからと頼み込み、侍女は困った顔をしながらも部屋から出て行ってくれた。


「ムーリャンさん、聞きたいことがあるの」


2人になるとすぐにエミリアが近くに来て、小さな声で話し始めた。


「昨日、王宮に戻れば捕まるって言ったでしょ? あれはどういう事なの?」


ムーリャンは申し訳なさそうな顔して言った


「エミリア様、その事なんだが、どうやら俺の勘違いだったみたいだ。調査隊も問題なかったって言ってたしな。

ライエルの埋葬をすませて落ち着いたら王宮に戻っても大丈夫だろう。ただ……」


「ただ何?」


ムーリャンはエミリアにソファーを勧めると紅茶を渡しながら言った


「ライエルがいなくなって、この伯爵家がどうなるんだろうかと心配なんだよ」


ムーリャンが悲しそうに言うとエミリアは困ったような顔をして紅茶を飲み始めた。ムーリャンはエミリアの様子をうかがいながら話し続けた。


「俺も歳だしそろそろどこかでのんびりしようと思ってるんだ……」


エミリアが朦朧としてきたのを見てムーリャンはすぐに耳元で囁いた。


「エミリア・クルージュは必ずアレン王子を殺す」


そのままエミリアは眠ってしまい、ムーリャンは執事を呼ぶと、


「よほど疲れていたのだろう、話しているうちにウトウトと眠ってしまったようだ」


と言っていたら、侍女が戻ってきたので、後は2人に任せると言ってムーリャンは客室に戻った。



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