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30 前世 ( 11 )

マーカスが居なくなるとエミリアは、テーブルの近くのソファーに移動してお菓子を食べ始めた。

エミリアにムーリャンさんもどうぞとお菓子を勧められ、近付いた時にエミリアに話し掛けようとしたが侍女がいる。そこでムーリャンは侍女にお茶のお代わりを頼み、侍女が離れた隙にエミリアに小さな声で囁いた。


「王宮に戻ったら捕まるぞ」


それを聞いたエミリアは驚いて目を見開いた。


しばらくしてマーカスが戻り、今日の調査が終わった事を告げてきた。


「今日の調査はこれで終わります。明日も来ますので調査中の部屋の前には隊員を立たせておきます。

ムーリャンさんは帰っていただいてかまいません。長い間お引き留めして申し訳ありませんでした」


するとエミリアがムーリャンに宿を引き払ってここに泊まって欲しいと言い始めた。葬儀の事も遺言状の事もある。執事にも頼まれ、ムーリャンは伯爵家に泊まることにした。


マーカスは隊員を数名残して王宮へ帰って行った。


クルージュ伯爵家では、当主が亡くなったばかりだったが調査中のため人の出入りはなく、静かな夜を迎えていた。


エミリアとムーリャンの夕食が終わると、待っていた執事にこれからの事を相談したいと言われてムーリャンだけが連れて行かれてしまった。エミリアもムーリャンと話をしたかったが侍女に疲れているだろうから寝るように言われ仕方なく寝台に入った。


ムーリャンは執事の話を聞いた後、何枚か書類にサインをすると客室に戻った。寝台に入り落ち着いて考えてみると、やはり、王子の魔法は解かれ、すぐにでもエミリアが捕まるように思えてきた。


(こんなはずじゃなかったのに)



ムーリャンはまだ赤ん坊の頃、森に捨てられていたところをロイという名の男に拾われて育てられた。ロイは変わった男で森に1人で住んでおり、たまに訪ねてくる客に自分で作った薬を売って生活していた。


ロイは無口で無愛想だったが、ムーリャンには優しくて、幼い頃から字の読み書きや計算のやり方を教え始め、魔法の事や薬の作り方まで教えてくれた。


ムーリャンが10歳を過ぎた頃、ロイはムーリャンを魔力測定に行かせなかった事を謝り、魔法が使える事は秘密にしておかないと国の決まりを破った罪で捕まるだろうと話した。ムーリャンはどうせ自分の生まれた日なんて誰も分からないし、捨てられた人間だ。このまま自由に魔法が使えた方が便利だと思い気にしなかった。


それから何年目かの冬に、ロイは流行病にかかってしまった。ムーリャンは必死で看病したがロイは高熱に苦しみ、徐々に起きれなくなっていった。そんなある日、ロイは古い手帳と薬瓶をムーリャンの手に握らせると言った。


「俺のものは全ておまえにやるからな。ムーリャン、ありがとう」


それから何日も経たないうちにロイは亡くなってしまった。


ムーリャンは泣きながらロイを埋葬すると、ロイの残してくれた手帳を見ては薬を作り売りに行くようになった。

すぐにムーリャンの薬はよく効くと評判になり、ムーリャンはもっと凄い薬を作りたいと思うようになった。


『魔法を使った薬は凄いらしい』

そんな噂を聞いて今度は魔法を使った薬も作るようになった。ロイの遺してくれた古い手帳には魔法を使った薬の作り方も書いてあったのだ。


その中で最も作るのが大変でロイからの注意書きが多かったのは人を思い通りに出来る薬だった。ムーリャンは夢中になってその薬を作ると今度は試してみたくなった。


その頃まだ若かったムーリャンを馬鹿にして騙そうとした商人がいた。ムーリャンはちょうど良いと思い、その男に薬を飲ませると


「これからお前は嘘が吐けなくなる」


と、囁いてみた。すると手帳に書いてある通り、男はそのまま寝てしまい、起きたら嘘が吐けなくなっていた。男はすぐに今までの悪事もばれて商売ができなくなってどこかへ行ってしまった。


魔法の薬を作るにはお金がかかる。ムーリャンは酒場で知り合った男で金儲けができるか試す事にした。


「お前は一生俺に金を運んでくる」


そう囁いてはみたが、それが本当になるとは思っていなかった。だがそれから時々その男はムーリャンにお金の入った袋を届けに来るようになったのだ。


ムーリャンは面白くなり、思い通りになる薬を使って珍しい材料を集めたり、人脈を広げて行った。


自分でお金を稼がなくても困らなくなると、魔法の本を読み漁り勉強も始めた。そうしている内に、だんだん魔法の効果が弱くなる人がいる事や酷い頭痛に悩まされる人がいる事にも気付いた。


(なるほど、心に掛ける魔法の特徴だと書いてあったがこれの事だな。そういう時はまた魔法を掛けてやれば良いはずだ)


ムーリャンはますます魔法の薬にのめり込んで行った。


そんな生活を続けて20年くらい経った頃、流行病の特効薬を見つけたライエルの話を聞いて、すぐに会いに行った。


ムーリャンはライエルにも薬を使い特効薬を扱う許可を取ると各地を周り、流行病に苦しむ人のために働いた。病で苦しんでいると聞くとロイの事を思い出し何だか放っておけなかったのだ。


そうしているうちに、ムーリャンはエルノアだけでなくロイシエン国の王宮への出入りも許されるようになり、2つの国を行き来するようになった。

そのお礼も兼ねて久しぶりにライエルの家を訪ねた時に、ライエルがエミリアの事で悩んでいる事を知り、ライエルにちょっと悪戯をしたくなった。


(生まれた時から金持ちで、特効薬を偶然に見つけるなんて運が良過ぎるだろう。この運の良い男がこの薬を何に使うのか見てみたい)


ムーリャンはライエルに操りの薬を渡すと使い方も教えた。



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