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28 前世( 9 )

王子は王宮に戻り、心配をかけた両親に挨拶に行き抱きしめられた。そしてすぐにアリアローズの死の真相を調べ始めた。


魔塔主もグレイとエルノアへ行き、王都にある『魔法師の部屋』に入ると商人に変装して夜の酒場で情報を集める事にした。


酒を飲みながら人を見て声を掛けて、打ち解けてくると


「旅先で会えたのも何かの縁だ1杯奢らせてくれ」


と言えば周りにいた男達も話に加わってきた。色々な話を聞きながら珍しい薬を手に入れたいので扱える商人を探しているのだと言うと、すぐにムーリャンと言う商人の話が出た。


ムーリャンは流行病の特効薬も扱う商人で、何の薬でも扱っているが各地を転々としており紹介してやりたいが最近は見かけないと言う話だった。

髪は白髪の混じる黒で目は茶色。親しみやすい40代くらいの男でお金はあるが店を持つでもなく、いつも宿に泊まっているから家がないのかも知れないと1人が言えば、他の男が、いやいやムーリャンは店は持ってないが森の中に家を持っていて、薬を作る時だけはそこに篭もるようだと教えてくれた。


(ムーリャンか)


この男で間違いない気はしたがまだ特効薬を扱う商人という話だけだ。

ムーリャンの情報を書いた手紙をセグルス王に送ると、ふたりは各地を周り、話を聞いたり、薬を扱う商人がいれば訪ねて行った。



その頃クルージュ伯爵家では大変な騒ぎになっていた。


その日の朝早い時間に前触れもなくムーリャンが商談を装いライエルを訪ねて来た。ライエルはすぐにエミリアの薬の事だろうと思い、邪魔が入らないようムーリャンを執務室に案内した。


以前エミリアが手に入れる事が難しい薬をライエルに頼んだ時、ムーリャンに分けてもらった事があったのだ。


「あの時は助かったよ」


ライエルはお礼を言ったがムーリャンは怒っているようだった。


「ライエルはエミリアが何をしたのか知っているのか?」


「なんの事だろう?」


ライエルは会えて嬉しいという顔で紅茶を用意している。


「チッ!」


ムーリャンは舌打ちすると部屋に遮音の魔法を掛け、ライエルを睨みつけて言った。


「2年前、アリアローズ・バルトレイを殺したのはエミリアだ。そしてそのために自分の毒見役も殺したんだ」


ライエルは驚きのあまり、何も言えなかった。その様を見てムーリャンは続けた。


「ライエル、お前が王子に薬を飲ませてエミリアは王子の婚約者になった。それなのにエミリアはまだ足りなかったんだ。アリアローズが目障りだと言って毒見役を殺して犯人に仕立てあげ、目の前から消す事にしたんだ。

毒見役には病気の甥がいて、どうしてもあの薬が欲しかった。それを利用したんだ。

もっと上手くやってくれたらよかったんだが、驚いた事にエミリアは自分の侍女にあの薬を届けさせた。

アリアローズにもやり過ぎた。ただ、アリアローズを家に帰らせれば良かっただろうに、自分を殺そうとした酷い女にしたかったんだろう。

エミリアは王子の婚約者だ。それを殺そうとしたかも知れないとなると、重罪だ。公爵家もどうなっていたか分からない。あの後すぐにアリアローズが死んで公爵家もそのままだったから良かったものの、そんな事を何も考えずにやってしまったんだよ!お前の妹は!

だが、アリアローズが何もやっていない事を知っている侍女がいたんだ。確かローラって名前の女だった。

エミリアの計画がばれてたんだろうな。その侍女に脅されたエミリアが誰に助けを求めて来たと思う?」


(いつの間にかローラからの連絡が途絶えたのは…まさか…)


ライエルは青くなり、ガタガタと震え始めた。ムーリャンはそんなライエルの目をじっと睨みながら唸るように言った。


「俺だよ!お前の妹は俺を脅しに来たんだ!」


ムーリャンは乱暴に棚にある酒を掴むとコップに注ぎ一気に飲み干した。


「エミリアは毒見役の甥の薬を用意したのが俺だと知っていたし、俺が時々王宮に出入りしている事も知っていたんだ。

薬草を届けに行った時に呼ばれて、侍女を何とかして欲しいと言ってきた。このままだと自分がやった事がばれてしまう。そうなったらあんたも道連れにしてやると脅してきたんだ。

それでなくても俺は目立ちたくないのに、エミリアは何もかも俺のせいにしてやるとわめいたんだ。

仕方ないからその侍女を連れ出して話をしようとしたら、他にもエミリアの事を知っている女官がいるだの、もっと凄いことも知っているから一緒にライエルからも金をもらおうだのうるさくてな。

黙らせて埋めてやった。

その後エミリアに腹が立ってきてどんだけお前は馬鹿なんだと文句を言いに行ったんだ。そうしたらエミリアは言ったんだよ。『 アリアローズを殺せばいいのよ』と。『 そうなればもう全部終わりだから何とかなる』って、そう言ったんだよ」


ムーリャンは何故か笑い出し、おびえるライエルのそばに近寄ると言った。


「お前の妹はアリアローズは王宮から追い出すからその時を狙えばいいと言って金も渡してきたんだ。『このお金でアリアローズを殺してくれる人を雇って欲しい』と言ってな。金で雇われる奴を1度でも頼ればこっちが危ない。

俺は仕方なくあの薬を使って何とかしたが、あの時はギリギリだったから俺も焦ったよ」


ライエルは急に体の力が抜けるのを感じた。もうおしまいだと思った。自分がやった事から始まって人が何人も死んだ。もうどうでもいいから楽になりたいと思った。


「私にどうして欲しいんだ」


「そんなの決まっているだろう?俺のやった事も全部引き受けて、死んで欲しいんだよ」


「分かった」


ライエルはムーリャンに言われるまま遺書を書き、毒を飲んで死んでしまった。


ムーリャンは魔法を解くと部屋から出て エミリアにもプレゼントを持って来たと言って呼び出した。

エミリアが喜んですぐに侍女と一緒に来てプレゼントを探し始めると、ムーリャンはこっちに置いてあるのだと2人をライエルの遺体のある執務室へと案内した。


2人は遺体を見て驚いた。エミリアはその場に立ち尽くし、侍女は廊下に出て助けを呼んだ。

ムーリャンがライエルに近付き脈を見る振りをしていたら誰が呼んだのか王都の警邏隊が駆け付けて来て、すぐにその場を仕切り始めた。


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