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26 前世 ( 7 )

ネネの招待を受けて夕食に間に合うように魔塔主はセラルーシュの王都にある『魔法師の部屋』に転移した。


『魔法師の部屋』がある宿は各地にあり、国を超えて飛び回り仕事をする魔法師のために様々な魔法で守られた部屋で、魔法師はその部屋をいつでも自由に使う事ができた。だが、魔塔主だけは誰も驚かせる事なく転移できる場所として使う事が多かった。


魔塔主がネネの家を訪れるとネネの夫バロンとバロンに抱えられた長男ゲイルが出迎えてくれた。挨拶を交わすうちにキーライもやって来た。


夕食が終わり、バロンがゲイルを寝かせるために場を離れると、魔塔主はキーライに嘘が吐けなくなった時の話を聞いた。そしてその時一緒に飲んだ男がどんな男だったか聞くとキーライは、顔はあまり覚えていないがと言いながら教えてくれた。


「確か髪は黒くて目は茶色だったような…背丈は俺より少し高かった。若いのに気のいい男で会ったばかりだと言うのに取り引きをしたいから奢ってやると向こうから声を掛けてきたんだ」


「その男と酒を飲んだのはこの国に来てからの事ですか?」


「いや、この国に来る前の話だからエルノアに居た時だよ。セシルさん、もう何十年も前の事であまり覚えていなくて申し訳ない。何しろ酷く酔ってたんだよ」


「もしかして知ってる男かもしれないと思ったものですから。こちらこそ色々聞いて申し訳ない」


そこにネネが新しいお酒を持って来て


「キーライ、こっちのお酒も試してみて。珍しい綺麗なオレンジ色のお酒なの。少し甘いけど美味しいのよ」


と言いながらコップにお酒を注いで渡そうとするとキーライは嬉しそうにオレンジ色の酒を見つめた。

その時こっそりとキーライに眠る魔法をかけたネネは魔塔主に合図した


(今です!)


魔塔主はキーライに駆け寄ると手を握り、魔法の痕跡を探った。


(あった!)


キーライの中には微かだがミルバルドの時と同じ魔法の痕跡があった。


バロンが戻って来た時、キーライはソファーでぐっすり眠っていて、魔塔主は帰り支度を始めていた。


「お帰りですか?」


「ああ、今日はバロンとネネのおかげでとても楽しかったよ。可愛いゲイルにも会えたしな。

バロン、これからもネネを頼む。

今日はほんとうにありがとう。キーライにもよろしく伝えてくれ。また来るよ」


見送るバロンとネネの姿が見えない所まで来ると、魔塔主は転移の魔法を使い魔塔に帰って行った。


翌日魔塔主がセグルス王と話をするために王宮に向かうとすぐに王の私室に通された。


「セグルス、アリアローズの事で分かった事があったら教えて欲しいんだ。そもそも公爵令嬢を離宮に行かせる必要があったのか?」


「あの時はいつも温厚なダニエルが飛び込んで来て、何故娘を捕らえたのかと聞かれた時、私はそれがなんの事だか分からなかったんだ」


「報告が来ていなかったのか?」


「そうだ。すぐに牢から出そうとしたが、エミリアが調べもしないで出すのかと言って反対して来た。元はエミリアの食事に毒が入っていた事が原因。エミリアの言葉を無視する訳にはいかなかったのだ。

そこでダニエルとも相談して王宮内の部屋で軟禁させようとしたが、それもエミリアに反対されてしまったんだ」


「なるほど。そして離宮か」


「そうだ。離宮に行くには馬車で3日はかかる。近くに居られたら怖くて食事が出来ないと言われ、そうするしかなかった」


「そして離宮に向かう途中にあんな事になってしまったのか」


「そうだ」


王が調べた事を話し始めた


「毒見役はホーリーという名で、殺されたのではなく、自死だった事が分かった。ホーリーの妹から聞いた話だ………」


ホーリーには夫に先立たれ、ひとりで幼い息子を育てている妹がいた。ホーリーはそんな妹と甥を気遣い、何かと面倒をみていた。


病気で夫を失った妹が少し落ち着いた頃、今度は息子が高熱を出し、熱が下がったかと思うと身体中が赤く腫れあがり皮膚が裂けてベロベロと剥け始めた。何人もの医者に見せたが、どの医者も息子の身体に薬を塗り布で巻くと、少しでも楽になるようにと、痛みを抑える薬や眠れる薬を置いて帰って行った。


そんな中ひとりの医者が、もしかしてこれならと思う薬はあるが、とても高価で手に入り難いのだと教えてくれた。

何とかしたいと思っても、今、医者に払うお金で精一杯。


そんな生活が1年続いた頃には夫の遺してくれた蓄えも底を尽き始め、姉にお金を借りに行く度、他の人には言えない愚痴を言ったり、悩みを相談した。


「薬があると聞いたのに、手に入れる事が出来ない」


「こんな生活が続くのなら夫の元へ息子を連れて一緒に行きたい 」


そんな弱音を吐いてしまう事もあった。


そんなある日、姉から美味しいケーキのお店を予約するから久しぶりに街に出かけないかと誘われた。息子にもたまには外で息抜きしておいでと言われ出かけることにした。

姉が予約してくれたお店に着くとすぐに個室に案内された。


そこは水色と白を基調とした個室で壁には海の絵が飾られていた。こどもの頃に家族で遊びに行った海の近くの家を思い出して何だか久しぶりに幸せな気持ちになれた。


姉妹で美味しい紅茶とお菓子を食べながら息子の病気の話になった時、姉が


「今日はその話もあって来てもらったのよ」


と話し始めた。

姉がお世話になっている人が息子に効く薬を手に入れてくれるので、待っていて欲しい。という話だった。お金はどうするのか聞いても、安く譲ってもらえるから心配しなくてよいと言う。

そして帰り際に姉が言った。


「私は遠くの町へ行くことになったの。しばらくの間会えなくなるけれど、元気で暮らすのよ」


その3日後にホーリーは自分で入れた毒を飲んで亡くなってしまったのだ。



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