21 前世 ( 2 )
「アレンです。ご無沙汰しております魔塔主様」
「久しぶりだなアレン、遠慮せずセシルと呼んでくれ。アレンがここに来たのは初めてだな? まずはここに座るといい」
魔塔主は王子の父セグルスと同じ歳で学生の時からの友人だった。
2人は向かい合わせにソファーに腰掛けると紅茶を飲みながら話をした。
「王からの手紙に書いてあったが、頭痛が酷いのか?」
「そうなのです。2年前ぐらいから段々酷くなり、最近は薬が手放せません」
「2年前までは頭痛はなかったということか?」
「いいえ、学園を卒業する頃からたまに痛むことはありましたが、すぐに治まっていました」
「そうか。調べた方がいいな。
これからアレンの身体に少しだけ俺の魔力を流し、アレンの中の魔法の痕跡を見せてもらう。痛みも何も無いから心配いらない。ちょっと手を借りるから隣に行くぞ」
魔塔主は王子の隣に座ると、王子の両手を握り目を閉じた。しばらくするとまた向かいの椅子に座り直し、腕を組んで目を閉じ考え始めた。
その様子を見た王子は不安を感じ、話しかけようとしたその時、魔塔主が目を開き真剣な表情で話し始めた。
「セグルス王から手紙を受け取った時はまさかと思っていたが、確かにアレンは操りの魔法を掛けられている。それも、掛けられてから何年も経っているようだ。少しずつ魔法の力が弱くなって来た所に2年前、何か大きなきっかけがあったんだろう。それによって心の反発も大きくなり、頭痛となって現れているんだ」
自分が操られていると言われても王子は信じられなかった。
「私が操られている? どんな風にでしょうか?」
「それは分からないし、解除しても分からないだろう。この魔法は言葉によって決定される。どんな言葉で操ったのかは言葉をかけた本人にしか分からないんだ」
「解除できるでしょうか?」
「出来ると思う。アレンに掛けられた魔法は時が経った事に加えてアレン自身の心が抗ったようでだいぶ弱まってきている。だから解除できる自信はあるが、俺もまだ操りの魔法を解除した事がないんだ。解除できると断言してやれなくてすまない」
「いいえ、セシル様におまかせします。私にはそれしかできませんから……。本当のところ、私自身は魔法が掛けられている事も知らずに今日まで過ごしてきましたし、抗った覚えもなくてよく分からないのです。ただ、頭痛が酷くて…解除できれば頭痛は治るんでしょうか?」
「少し時間はかかるが、それは間違いない」
「では解除できたとして、その後私には何かあるのでしょうか? 何年も経っているのならその分何か副作用のようなものがあるのでしょうか? 」
「副作用は、無いとも、あるともいえる」
「それはどういう事なのでしょう?」
少しの沈黙の後魔塔主は言った。
「アレン、君はもう何年もの間、操られ、本来ならしない事をしてきたはずなんだ。分かるかな?自分で考えて、決めて、行ってきた事が、本当は自分の考えではなかったとしたらどうかな?」
「確かに今までやってきた事すべて、悩みはしても最後には自分で決めてきたつもりです。これが、本当はそうではなかったということなんですね」
「そうだ。どんな風に操られたのかは分からないが、場合によっては魔法を掛けられてから今までのほとんどの事が残酷な嘘になってしまう。それが解除された時の苦しみや怒りは想像も出来ないほどだろう。
その時アレンの心の中にどんな副作用が起こるのかも分からないんだ。だから、副作用は無いともあるとも言える」
(残酷な嘘……ウッ!…ウワッ!)
突然脳裏にアリアローズの顔が浮かんだかと思うと、殴られたような激しい頭痛に襲われた王子は両手で頭を抱え苦しみ始めた。
「アレンどうした!」
王子の様子に魔塔主は驚いて聞いたが、王子は苦悶の表情で頭を抱えたままだった。
(頭痛か? こんなに酷かったのか )
魔塔主は王子を眠らせそのまま魔塔に泊めることにした。
魔塔主は待っていたマーカスを呼ぶと王子を魔塔に泊めて明日王宮に自分が連れて行く事と、その時に王に話がある事を伝えた。
「かしこまりました。魔塔主様アレン王子をよろしくお願いします」
マーカスはそう言うと帰って行った。