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強盗団の首領ミルバルドは魔法で出入口を塞がれた牢に監禁され、5日間、誰にも会うことなく、食事だけが与えられた。


6日目の朝、魔塔主はミルバルドの尋問を許可すると尋問室の隣にある尋問の様子を見るために作られた部屋に入った。


指示を受けた魔法師は牢に行き、

監視をしている魔法師2人と一緒に鍵の魔法を解くと、中にいるミルバルドを尋問室へと連れて行った。


尋問室の硬い椅子に座るミルバルドは疲れた様子で、顔色も悪かった。


「ミルバルド、顔色が悪いぞ」

グレイが言うと、ミルバルドは喋り始めた。


「こんな目に遭うとは思わなかったんだ。ただ、名前だけ言って後は黙ってれば助けてやるからと言われたのに」


「誰かに黙ってれば助けてやると言われたのか?」


「そうだ。俺はただ、薬草を採ったり、動物を捕まえて持って行ったりしてたんだ。


弟の薬を作ってもらったお礼もあって持って行ってただけなのに……そしたら急に今から蛙にするって言われて……見つからなかったら後で戻してやるって、見つかっても黙っていれば助けてやると言われたんだ」

ミルバルドは声を震わせながら話す。


グレイは聞いた

「誰に言われたんだ?」


「名前は知らない。

ほんとうだ!いつも『 薬師様』と呼んでいたんだ。

俺は魔法使いじゃない。薬師様が魔法使いなんだ。強盗なんて俺は関係ないんだ。この首枷も手枷も取ってくれよ。俺は何もしてない。罪人じゃないんだ!早く取ってくれ!」


ミルバルドは興奮して椅子から立ち上がった。


グレイは落ち着かせようとして言った。

「落ち着け。ミルバルド、お前がほんとうに魔法使いでないなら首枷は外してやる。だがそれを確認する必要があるんだ。外した途端に今度は小さな虫になって飛んで逃げられたりしたら、困るんだ」


「そんな事俺には出来ない。俺ができるのは、薪に火種を付けたり布を少し濡らせるぐらいで、熱を出して苦しむ弟が氷を欲しがっても出してやる事も出来なかった」


「弟がいるのか? 弟はどうしているんだ?」


ミルバルドと話しているグレイのそばにリクが来て、首枷を外す許可が出た事を伝えた。


ミルバルドは泣きながら話を続ける。

「1年前に死んでしまった。弟は 5年前に急に起き上がれなくなって、度々高い熱を出して苦しむようになったんだ。医者にみせたくても金は無い。何とかしてやりたいと思っても猟師の俺には面倒を見るのが精一杯だったんだ。

その話を聞いたんだろう、何年も前から時々捕った獲物を買ってくれていた男が猟のついでに薬草も採ってきてくれたら弟の薬を作ってやると言ってきたんだ。俺は喜んで手伝ったよ」


「その男が『薬師様』か?」


「そうだ。薬師様は約束通り薬を作ってくれて、弟は病気が治る事はなかったが、熱を出して苦しむことはなくなったんだ。嬉しかったよ。俺はそれから薬師様に頼まれた事は1番にやった。1年前に弟が死んでからは自分から頼んで『森の家』で手伝い始めたんだ」


「『森の家』っていうのはミルバルドが蛙にされた家か?」


「そうだ。いつものように家の中を片付けようとしてたら薬師様が急に『見つかったか!』って言って慌て始めて、俺に『捕まったら殺されるからお前を蛙に変えて隠してやる』って言ったんだ。

『相手が何を言っても名前の他は何も話すな。黙って待っていれば必ず迎えにいくから』と言われて俺は何処かに閉じ込められてしまったんだ」


そこまで言うとミルバルドは机に置いてあったコップの水を一気に飲んだ。


グレイは言った

「ミルバルド、首枷は外してやるが手枷はまだ無理だ。それでもいいか?」


「ああ、ありがたい。首のだけでもいいから外してくれ、何だか息苦しくて辛いんだ」


「分かった。じっとしてろよ」

グレイが首枷に指を当て何か呟くと

『カチッ』

小さな音を立てて首枷は外れた。


「ありがとう。楽になったよ」

ミルバルドは嬉しそうに笑うと手枷がはまった両手で自分の首をなでた。


「話しやすくなっただろう?その薬師はどんな男なのか教えてくれ」


「そいつは髪は白髪混じりの黒で、目はちゃ…くて……う、うゎ!……ぐっ……た、助けて…………」


ミルバルドは話の途中で突然胸を掻きむしり苦しみ始めたかと思うと、泡を吹いてあっという間に死んでしまった。


(やられた!)


グレイはすぐにミルバルドに駆け寄り、手を取ると魔法の痕跡を探った


「2人は他に異常がないか調べてくれ!」


グレイが他の魔法師に指示を出していると、ミルバルドが苦しみ始めてすぐに尋問室に駆け込んで来た魔塔主もまた、ミルバルドのまだ温かい手を取り魔法の痕跡を探していた。


するとそこには確かに操りの魔法の跡が残っていた。


それぞれが動き始めた時、まだミルバルドの傍らにいた魔塔主の所にリクが慌てて報告に来た


「魔塔主様、先程穴の奥の家が森ごと消えたそうです! 突然消えて、ただの小さな穴になったそうです」


『森の家』の中には魔法師が残って調査していたはずだ。


「「中にいた魔法師は無事か?」」


驚いた2人が聞くとリクは言った

「安心してください。中にいた魔法師も護衛騎士も気が付いたら穴の外にいて、無事だったそうです」


その場で聞いていた皆は安堵したが、魔塔が大切な証人と証拠を1度に失った事に変わりはなかった。




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