13
ユーリスは討伐隊と一緒に来たがったが、残るようグレイに言われ、そのままシェーナの町で討伐終了の連絡を待っていた。
そこに、強盗団の地下室の奥に家があるから探知して欲しいというグレイからの依頼がありユーリスは『タラの森』に向かった。
森の入口にはグレイが待っており、すぐに森の中の大きな穴に連れて行かれた。
「ここが、ユーリスの言っていた地下室だ。屋根の部分が外してあるから、今は部屋でなく穴だがな」
穴の底には、ロイシエン国の騎士が 3人、机の上にカップを置き立ったままお茶を飲んでいた。
「家はこの奥だ」
グレイが言う先には四角い地下へと続く扉が開いており、入り口に魔法師が1人立っていた。
グレイに続いて階段を降りて行くとそのまま通路に。少し行くと開いたままの扉があり、その扉の向こうから、明るい陽射しが注いでいた。
扉の向こうには森が広がっており、柔らかい陽射しが気持ちよかった。
「あそこだ」
グレイがは石造りの小さな家を顎で指した。
ユーリスが家に入ろうとして周りを見ると、家の周囲にも中にも魔法師がいて、何か調べていた。
「ユーリスが教えてくれた通り、ここには盗賊の首領がいたようだが、探しても見つからなかった。だが、ここに来てすぐに周囲を封鎖し、置いてあった飲み物はまだ温もりが残っていた。そこで、他にも隠された部屋があるかも知れないと思い、ユーリスに来てもらったんだ」
「分かりました」
「ユーリス、探知を始める前に言っておく事がある。強盗団の首領は魔法使いかもしれない。だから何かおかしいと思ったらすぐに探知を中止してくれ」
ユーリスは驚いた。
「だからこんなに魔法師の皆さんが調べているんですね」
「そうだ」
「分かりました。できるだけやってみます」
ユーリスは目を閉じると魔法の網を広げ始めた。範囲が狭いのでその分緻密に練り上げていく。
しばらくして目を開けるとユーリスは小さな声で聞いた。
「虫籠位の大きさの頑丈な箱はありますか?」
魔法師の1人がどこからか虫籠くらいの大きさの箱を見つけてきた。するとユーリスは皆に喋らない様に合図をすると、キッチンの横の壁に静かにバリアを張り、外へ出て、外の魔法師にも外からバリアを張ってその場を見張るよう頼んだ。
そしてその後、奥にある薬棚の辺りを触り始めると
『カチリ』
小さな音がしたかと思うと、バリアを張っていた壁の一部分が消え、そこには大きなカエルが一匹、透明なバリアの壁の中に閉じ込められていた。
「これが強盗団の首領かもしれません」
皆が驚く中、暴れることも出来ずにカエルに化けた強盗団の首領は虫籠に入れられ、虫籠には二重のバリアが張られた。
調査中の魔法師と護衛の騎士が残り、その他の者は全員ひきあげることになった。カエルに化けた強盗団の首領を持ったグレイとユーリスも地下室を出た。
「ユーリス、ありがとう。お前はほんとに凄いよ!俺達はこのままこいつを魔塔に連れて行く。帰りの馬車がなければ手配するが」
グレイは他の魔法師達と同じ様に馬に跨るとユーリスに声をかける。
「ありがとうございます。帰りは王都に戻る騎士と一緒に馬で帰るので大丈夫です」
ユーリスはそう言うと王都へ帰る騎士と一緒に帰って行った。
魔法師達に見張られながら魔塔に連れて行かれたカエルに化けた首領は、魔塔主に魔法を封じる首枷を嵌められると、すぐに人間の姿に戻った。
カエルだった首領は30歳くらいの男で、背は低かったが目つきが鋭くてがっしりとしていた。
魔塔主は尋ねた。
「お前、名前は?」
意外にも首領はすぐに答えた。
「ミル、ミルバルドだ」
他は何を聞いてもミルバルドは無言のまま。そこで魔塔主は、牢の警備を厳重にし、ミルバルドを魔法で出入り口を無くした牢に監禁した。
強盗団討伐の知らせはすぐに両国の王に届き、王は皆に知らせ、皆もほっと胸を撫でおろした。両国民の喜びは大きく、騎士団が王都に入ると凱旋が行われ、どちらの国も国王直々に騎士団を出迎えた。
強盗団の首領が魔法を使える可能性がある事と、魔法師によって捕らえられた事も両国に報告された。
魔法使いの事は魔塔の領域。強盗団が討伐されたのは間違いなく、両国は首領に関しては魔塔に全てを任せることに同意した。