12
強盗団討伐は大掛かりなものになった。
討伐当日の早朝。
『タラの森』に、両国それぞれ100名ずつの騎士と、12人の魔法師が集まった。
『タラの森』を間に挟み、逃さぬようにエルノア国側の森を取り囲む様に50名の騎士と魔法師3名が配置された。ロイシエン国側からは、魔法師8名が周囲の罠を探知しながら150名の騎士と共に強盗団を追い詰めて行った。
罠を潰しながら進むのは大変で、時間も掛かったが、皆で力を合わせて順調に強盗団を捕らえていった。グレイは全体を見渡し、罠が残っていないかと、思わぬ所からの攻撃を警戒する事に集中 していた。
「地下への入口がありますが中に入れません」
報告を聞いたグレイがそこに行くと、確かに地面に入り口らしき穴があったが、そこにはバリアが張ってあり中に入れなかった。
(強盗団に魔法師がいるのか!)
グレイは驚いた。相手の実力が分からない内は下手な事は出来ない。グレイは魔法師12名を残し、皆を退避させた。
地下室の探知が終わると、12人で力を合わせて、まるで蓋を開けるように地下室の天井になっている地面の塊を一気に剥がした。その衝撃でバリアは壊れ、そこにはただの大きな穴となった地下室があらわれた。
穴の底にはテーブルが2つと椅子が10脚、ベッドが1つあった。強盗達は突然天井が剥ぎ取られた驚きと恐怖で動けなくなった様で抵抗する者は誰もいなかった。
「首領はいるか!?もうひとつの部屋はどこだ!!」
グレイが大声を出すと、すぐに強盗達が教えてくれた。
「そのベッドの下だ!」
「首領はその中にいる」
ベッドを動かすと床に、1人がやっと通れる程の大きさの扉が見つかった。
探知の魔法で調べると、扉の下には確かに部屋のような空間はあるが、人がどこにいるのか分からなかった。
(逃げられたか?いや、そんなはずはない)
時間がないと感じたグレイは、念の為扉の近くに魔法師を配置し、3人で下へ降りる事にした。扉の下は階段になっており、降りると横に伸びるトンネルの様な通路になっていた。
(思っていたよりずっと広そうだな)
通路は真っ暗で、1人が灯りを担当し、残りの2人が罠や周囲を警戒しつつ先に進むとすぐに壁にぶつかり、壁にはまた扉があった。
念の為扉の向こうを探知するも、もやがかかったように見え、よく分からない。
(これがユーリスの言っていたもうひとつの部屋か)
グレイは2人に扉から離れて待機するよう指示を出すと、少しだけ扉を開け、自分もすぐに後ろにさがった。すると開いた扉の隙間から1本の光の帯が通路を照らし始めた。
(何の気配もないな)
3人が目を慣らすと、1人は応援を呼ぶために戻し、残った2人で扉を開けて中に入った。
そこは地下ではなく陽射しが注ぐ明るい森の中で、少し先に石で造られた小さな家が建っていた。グレイは一緒に来た魔法師に家を含めた周囲一帯を何も出入り出来ない様に魔法で封鎖するように指示すると、警戒しながら玄関に近づいて行った。
中を伺うと、なんの気配もない。グレイは思い切って扉を開けると、中に入った。
駆けつけた魔法師と共に家中を探したが誰も見つからなかった。
(逃げられたか!)
中は生活する部屋と作業する部屋に分かれており、生活する部屋には一人暮らしを思わせる家具が置いてあった。
どうやら食事をした後お茶を飲んでいる最中に慌てて逃げたようで、キッチンには汚れた食器があり、テーブルの上のティーカップはまだ温もりが残っていた。
隣は調合する為の道具や机が置いてあり、奥の壁には、棚が作られ、たくさんの種類の草や石や土、虫の死骸や動物の骨等、様々な材料が置いてあった。
(どうやら薬を作っていたようだな)
グレイは首領がまだどこかに隠れているかも知れないと思い、念の為ユーリスに探知を頼む事にすると、家の外で待機している魔法師に声を掛けた。
「すまないがまだしばらくの間封鎖したままにしておいてくれ、ユーリスにも調べてもらう」