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その頃、ロイシエン王国と隣国エルノア王国を結ぶ街道が通る『タラの森』では強盗団が蔓延り、道行く人や商人を襲っては強奪や殺人を繰り返していた。
両国は協力して騎士団を派遣し、制圧しようと何度も試みたが、失敗に終わった。
『タラの森』は、背の高い『タラの木』が生えている大きな森で、街道を少しでも外れれば、薄暗く見通しも悪かった。
強盗団は少人数に分かれ、罠を張り、逃げ道も用意していた。なかなか捕まらず、捕まえても僅かな人数で、強盗団の勢いは止まらなかった。
人々は恐れ、街道を避けようとしたが、あまりに遠回りになるため、また戻らざるを得なかった。
そして、魔法師が派遣される事になった。
『タラの森』に潜む強盗団を捕縛するため、魔塔主から討伐のリーダーに指名されたグレイは、まずは強盗団の様子と人数を把握したいと考えてバルトレイ公爵家を訪れ、ユーリスの力を借りたいと公爵に願い出た。
公爵は迷ったが、ユーリスもグレイの力になりたいと一緒になってお願いしたため、できる限り安全な場所で待つことを約束して許可が下りた。
『タラの森』までは王都から馬車で7日、馬なら4日はかかる。
グレイとユーリスは馬で『タラの森』を目指した。宿を取りつつ4日目の夕方、森に1番近いシェーナの町に着いた頃には慣れない旅でユーリスはとても疲れていた。
宿に入りグレイが何か言うと、すぐに奥まった部屋に通されると、グレイが言った。
「すぐに夕飯もこの部屋に運ばれてくるから食べながら話そう。ここは魔法師が仕事で使う『魔法師の部屋』のある宿で、この『魔法師の部屋』は防御と遮音の魔法が掛けてある。ここならゆっくりできるし、何を話しても安心だ。ユーリス疲れたろう?」
「はい。こんなに長く馬に乗るのは初めてなので疲れたと言うよりもあちこち痛いです。でもそれ以上に楽しいです。不謹慎な話ですが、グレイ先生と何日も一緒に過ごせるのは凄く嬉しいです」
「俺もユーリスと過ごせるのは楽しいよ。仕事じゃなければ良かったとは思うけどね。
まず、明日の打ち合わせをしよう。
明日、日が昇る前に森のすぐ近くまで行き、ユーリスに探知してもらう。
その時間なら気付かれないと思うが、念の為俺たちにバリアを張るからその後で探知を始めて欲しい。
少しでもおかしいと思ったら無理はするなよ。相手に気付かれた気配がしてもすぐに撤退する。今回の目的はあくまで調査だからな」
「分かりました。撤退する時の合図を決めますか?」
「そうだな.........」
2人は楽しそうに撤退の合図を決めたり、帰りの段取りを相談した後眠りに就いた。
翌日、朝日が昇る前、グレイとユーリスは『タラの森』のすぐ近くまで来ていた。
グレイが2人の周りをバリアで覆うと、ユーリスを見て頷いた。それを合図にユーリスは目を閉じ、魔力の網を広げて行った。
しばらくするとユーリスは顔をあげて、終わりの合図をし、2人はそのままシェーナの町まで戻ると朝食を摂った。食事が終わるとすぐに馬を走らせた2人は5日後王都に入った。ユーリスは早く探知の結果を報告したかったが、どこに強盗団に関わる人間がいるか分からないからとグレイに言われ、我慢した。
公爵家に着いた時にはもう日が暮れていたがすぐに執務室に通された。
「帰ってすぐで申し訳ないが、ここなら他人に聞かれる事はない。食事も運ばせるから、ここで話を聞かせてくれ」
そう言うと公爵は執務室にテーブルを運ばせ、3人分の夕食を準備させた。
「ふたり共無事で良かった。まずは食べよう」
食事が終わり、紅茶の入ったティーカップが置かれると公爵の合図で皆下がって行った。
グレイが調査の経緯を話し始めた。
「……で、無事に調査は終わったのですが、どこに誰が潜んでいるのか分からず、まだ私もユーリスから何も聞いてないのです」
「そうか。ではユーリスに聞こうか」
公爵はニコリと笑いユーリスを見た。
グレイもニヤリと口角を上げた。
「だいぶ我慢させたからな」
「はい、やっと報告できます。森全体を探知してみた結果、強盗団は全部で57人、5、6人ずつに分かれてグループを作り、森全体に散らばっていましたが、そのほとんどは、街道に沿うように潜んでいました。
落とし穴も作っていて、下に蛇を仕掛けてある穴もありました。
木の上で寝ている者も、木の中に居る者も、地下に居る者もいました」
「「 地下? 」」
「はい。森の中心より少しエルノア寄りに穴を掘って地下室のような部屋を作っていました。
その下にもうひとつ部屋のような空間があったのですが、そこだけ何だかはっきりしませんでした」
グレイが聞いた
「はっきりしないというのは?」
「1つ目の地下室ははっきりと大きな空洞が感じられ、そこには10人いました。その下にも空洞を感じて、人がいる事は分かったのですが、空洞の大きさや形が何だかモヤモヤしてて分からなかったのです」
「なるほど……今回はユーリスのお陰で助かった。ほんとにありがとう。公爵も大切なご子息をありがとうございました」
「グレイがユーリスを守ってくれた事は分かっている。ユーリスに良い経験をさせてくれてありがとう。ところでグレイ、明後日両国の代表が集まり、作戦会議の予定だが間に合いそうか?」
「大丈夫です。ユーリスのお陰で盗賊団の数も隠れ場所もだいたい掴めましたから」
「それなら良かった。ユーリスもご苦労だったね。後はグレイに任せてゆっくり休み.........」
2人の会話を聞いてユーリスは慌てて言った
「そんな! 父上!グレイ先生!私も会議に参加させてください。ここで終わりなんて言わないでください。最後まで見届けさせてください。勉強させると思って、どうかお願いします」
翌々日、ロイシエン王国の王宮の一室で作戦会議が開かれた。そこには、両国の宰相と騎士団の団長、魔塔からは魔法師グレイ、そして協力者として、ユーリスが参加していた。