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初投稿です。よろしくお願いします。
アリアローズは、ロイシエン王国で宰相を務めるバルトレイ公爵家の長女として誕生した。
白金の髪にエメラルドグリーンの瞳を輝かせた可愛らしい公爵令嬢は、両親や兄、屋敷の皆にも愛され、大切に育てられた。
5歳の誕生日を迎えて間もない日の午後。
母と2つ上の兄ユーリスの3人で、中庭で楽しくお菓子を食べていた時、突然背中を強く殴られたような衝撃に襲われた。
激しい痛みと恐怖で胸を抱えるようにして椅子から転がり落ちるとそのまま5日間眠り続けた夢の中で、アリアローズは前世の自分を思い出していた。
前世では、王子の卒業の日。国王のこどもは王子ただひとり。その王子が卒業するとあって、その年の卒業パーティは特に華やかなものになっていた。
その最中、アリアローズは8歳の時に婚約した王子から一方的な婚約破棄を告げられていた。
「私はエミリアと婚約することにした。よって、君との婚約は破棄する」
冷たく言い放つ王子の横には、金色の髪、藍色の瞳を持つ、満面の笑みを浮かべたエミリアが寄り添っていた。
アリアローズよりもひとつ年下のエミリアは入学してからすぐに王子に近付くと、甘えた声で名前を呼んだり、腕に絡みついたりするようになった。学園内に身分は関係ないと言っても限度がある。王子とその側近は何度もエミリアに注意したが、聞く耳を持ってくれなかった。王子への執着は酷くなり、後を付けて来るので注意したら泣き出したり、学園で自分が婚約者だと嘘を広めたりするようになった。その行いが学園長の耳に届くとエミリアは自宅謹慎処分になり、その後すぐに学園は長期休みに入っていった。
長期休みの間こそ、妃教育は忙しい。王宮で過ごす時間が増えると、王子との時間も増えた。2人で過ごす時間は楽しく、アリアローズは幸せだった。
ところがある日突然、お茶会が中止になり、それから2度と王子と楽しい時を過ごすことはなかった。王子は突然人が変わったかのように、アリアローズに冷たくなり、周囲も皆戸惑うばかりだった。
長期休みが終わり学園が始まると同時にエミリアも謹慎が解け登校を始めた。
そのうち王子の隣にはいつもエミリアが居るのが当たり前になっていき、王子から冷たい態度を取られたり、2人の寄り添う姿を見る度に、心の中にできたどす黒い塊がアリアローズを苦しめた。
そして迎えた王子の卒業パーティは、エスコートされる事もなく、婚約破棄で終わったのだった。
アリアローズの父、バルトレイ公爵は突然の婚約破棄に驚き、国王に王子に対する異議を唱えた。しかし、公の場での王子の言葉は重く撤回する事はできないと言われ、そのままアリアローズは婚約破棄されてしまった。
バルトレイ公爵は急いで引き継ぎを済ませると宰相の職を辞し、最終学年を迎えたアリアローズを隣国に留学させた。
1年後、隣国の学園を卒業し帰ってきたアリアローズに待っていたのは、エミリアの専属秘書官を命ずる国王からの書簡だった。
この国の王太子は、既婚者である事が絶対条件である。よって、国王と側近は、エミリア卒業1年後に、2人を婚姻させ、王子を王太子にする事を考えていたが、エミリア卒業まであと1年しかないというのに、妃教育は殆ど進んでいなかった。
困り果てた彼等は、妃教育に集中させるためエミリアの代わりに書類仕事をさせるのに丁度良い、アリアローズに目を付けたのだ。
国王から直々に頼まれては、公爵も断る事は出来なかった。
アリアローズが王命により住み込みでエミリアの秘書官をしている事を知っているはずなのに、王子には無視され、エミリアや他の使用人達からは諦めの悪い、嫉妬に狂った令嬢と噂される辛い日々を送ることになった。
アリアローズ17歳。エミリアも学園を卒業し、遅れた妃教育を頑張っていた頃だった。
その日の朝は、エミリアに身体がだるいので、食事を部屋まで運んで欲しいと頼まれ、厨房の前の廊下で待っていた。
その同じ時、厨房の横の部屋でエミリアの食事を毒見していた毒見役が、苦しみ始めたかと思うと、そのまま死んでしまったのだ。
「アリアローズ様がやったのよ!私を殺して、もう1度アレンと婚約しようと企んだに決まってるわ!」
エミリアの勝手な思い込みだけで、アリアローズは地下牢に捕らえられてしまった。だが、調べもせずに地下牢とは余りに非道だと父が王に訴え、調べがつくまでの間、アリアローズは離宮に送られることになった。
離宮に行くには馬車で3日はかかる。王も父も遠すぎると反対してくれたが、エミリアに
「それぐらい離れた所に居てくれないと不安で食事ができない」
と言われ応じるしかなかった。
そしてアリアローズは、馬車で移動している途中、何者かに襲われ背中を刺されて死んでしまったのだ。
そこで夢は途切れた。