表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/15

05.転生

 ――山奥の村「ウルオス」で畑仕事をしていた俺は、突然自分が転生者の石之 貴史だと理解した。



 記憶がだいぶ混乱しているので自分のプロフィールを確認してみよう。年齢は15、手先がそれなりに器用で獲物の解体や皮をなめすのが上手だと褒められた。猟は苦手というかなんというか…俺が動物に近づくと熊や猪などの危険な動物は逃げ出してしまうし、兎などの小動物は姿を見せない。



 たまに自分の目の前に動物がやってきて服従のようなポーズをしたり寝転がって腹を見せてきたこともある。 初めは動物避けの能力でも持っていて猟に向いていないのかと思い悲しくなったが、逃げる動物は土の魔法で捕獲し、服従のポーズをしてくる動物は死んだことに気づかないように一思いに頭を潰した。



 敵と対峙して戦うスキルはまったく身に付かなかったが、基本は楽に済ませられるのでまあこれはこれでいいかと考えていた。あとは生まれながらに土属性の魔法が超得意らしく、他の土属性の魔法の使い手よりも才能が段違いだと驚かれた。



 優しくお人よしな両親のもとに「ユルグ・デンプ」として生まれた俺は、両親に守られて愛情を受けながら猟の仕方や獲物の解体や肉の保存、薬草の見分け方や畑仕事など、生きるために必要な技能を学びながら日々を生きていた。



 父のコージモは男は背中で語るという言葉を体現したような人物だ。筋肉に覆われて全身がガッチリとした偉丈夫で、口数は少ないが実直な性格で村のみんなからは頼られて慕われている。



 力仕事全般が得意で黙々とこなすが、村の人の話では特に得意なのは猟で、狩りのプロフェッショナルらしい。もともと観察眼が鋭く色々なことに気付くが、火と風をミックスした気配を察知する魔法でたちどころに獲物を仕留めてしまう。



 俺は風の魔法の適性はあまりなかったが火の魔法の適性は少しはあったので、父に習って火の魔法の使い方を習得した。火の魔法単体ではほとんど使い物にならないが、土と組み合わせることで植物を操ったり畑の収穫物を美味しくできることがわかった。



 母のエーファは穏やかでいつもニコニコとした素敵な人だ。体の線が細く一見すると体が弱そうにも見えるが、実はパワフルだと父が教えてくれた。俺や父が取ってきた薬草の調合や獲物の皮をなめすなどの他に、家族をねぎらって家を守ってくれている。俺が快適に生活できるのは母の力によるところが大きいだろう。



 俺が住んでいるウルオスの村は山奥にある村で、争いの多い地域に疲れて抜け出した者が山を拓いて作ったらしい。自然が非常に多いこと、冬は雪が積もること以外は特に語るべきことはない。住民は自然と共存しており、自然の恵みを必要な分だけいただいて日々を生きている。ちなみに隣村とは数十キロは離れており、都市部とはどれほど離れているかもわからない。



 ――善良な両親のもとで毎日変わり映えしないながらも日々を健やかに生きてきた俺は、貴史の記憶を取り入れたことで今までの常識が足元からガラガラと崩れるような錯覚に陥った。



 前の世界とこちらの世界で世界観がだいぶ違うということもあるが、貴史の死の記憶は自分の価値観を変えるには充分すぎた。俺は完全にユルグから貴史に変わったわけではなく、元のユルグの魂と貴史の魂が融合した存在になったようだった。



 取りあえずユルグと名乗るか貴史と名乗るか迷ったが、今までどおりユルグと名乗ることにした。ユルグとしての知識は失われておらず生活するための技能は持っているので、日々の生活を生きることに問題はないだろう。



 しかし、精神というか人格が大きく変容してしまっている。よくわからない焦燥感というか衝動が沸き起こっており、「なにか」をしたいという欲求に心が疼いている。



 自分がしたいことは…いや、一番知りたかったのは…自分の死に際に目が合った不良のあいつ、あいつには自分の表情はどう見えていたのかということだった…かもしれない。



 俺の何かがしたいという欲求は今は抑えられる程度のようだったが、いずれ抑えられなくなるかもしれない。善良でお人よしな両親に迷惑を掛けたくはないが、どうすればいいのかわからない。



 …ひとまず自分が転生者であることは両親には話さないようにして、自分の欲求の正体を見極めてから相談なりなんなりしてもいいのではないだろうか。そう結論付けた俺は衝動の正体を見極めつつ、ユルグとして体に染みついた毎日の生活を続けることに決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ