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04.神の独白

 彼、貴史が白い光に消えてしまう寸前、私は無意識に手を伸ばしていた。が、私の手は空を切り、彼は光の中に消え去って私一人取り残される。持て余した手をにぎにぎと軽く握ったり開いたりしながら私は、自分の無意識の行動に驚いていた。



 今まで多くの絶望を抱いて死んだ魂と触れ合ってきた。絶望によって内面が歪んだからか情緒不安定で話が通じない者も多く、私が神と知ると唾を吐きかけてきた者もいる。私は彼らの世界の神ではないのに…。



 自分の知性と存在を自覚した直後から持っていた力である、他人の心に干渉する能力に関しても恐怖と嫌悪の対象になることが多かった。というか神には抵抗がない人でもこの能力を持っていることを知ると恐怖や嫌悪感をあらわにしていた。



 一方的に心が読まれ隠し事ができないというのはほぼすべての人間にとって恐ろしいものらしい。いつしか私も一方的な上から目線で振る舞うようになり、どんなに誠意を尽くしても報われることがない苦悩が私の負の面を強く引き出していた。



 かといってこの能力を隠して人と接するのは相手に誠実ではないと感じて嫌だった。人を超えた者として存在する以上、力のない者には誠実に接することが務めだと自分を戒めるようにしていた。私がこんなことを始めたのは苦しんでいる者を理解したいという意味が強かったが、心が疲れて惰性になっていたことは否定できない。



 『初めてだな、心から好きと言われたのは…』



 そう一人言ちる。今まで上辺だけこの能力を好きだという者はいたが、その裏には必ず打算があった。私には恐怖や怒りをぶつけられるよりもその打算的な行為が不快だったためすげなくあしらうと、そういった連中は利用価値が無いと判断して私を罵るのだった。



 本当に疲れていた。そんな中で私の能力を心から好きと言ってくれた貴史に今まで感じたこともない愛おしさを覚えた。自分の能力と容姿、全てを肯定されるのは本当に救いだったのだ。初めての感情に戸惑ってどう接していいのかわからず、素っ気なくなってしまったかもしれない。



 せっかく自己紹介してくれたのに彼の名前を呼べなかったことが悔やまれる。彼は私の名前を呼んでくれたのに。彼はいい両親に恵まれただろうか。争いの少ない安全な地域で産まれただろうか。私は今までそういったことはあまり気にしておらず、転生者として自覚する前に死亡した者も多く存在する。



 私の行動は全く報われなかったため改善する気も起きず、それでも特に問題なく世界は回っていたため気にも留めなくなっていた。しかし貴史には前の世界で辛い死を経験した分、私の世界では幸福に生きて欲しい。彼の人格はほとんど破綻しているが、誠実に対応すれば応えてくれる人だと思う。



 理解されづらく争いを生む性格かもしれないが、個人的にはどうしても彼を大切にしたかった。転生先の情報を見る。転生者でない現地人の両親は裕福ではないが故郷と自分たちの村を大事に思う善良な人間のようで、村の周囲も田舎だからかそれほど危険はないようだった。念のため山にいる危険な野生動物たち、熊や猿や野犬などに貴史をボスだと思い込ませる。



 存在は危険だが、完全に消滅させては猟を中心に生活している彼らの生活が立ち行かなくなるからだ。ひとまずこれで安心だろうか。転生して赤子になった貴史は可愛らしい。父はがっちりとした偉丈夫で顔がよく、母も少し体は弱そうだが顔がよい女性だ。なぜかこの世界では全く意図せずに美男美女ばかり産まれる。



 貴史の姿を堪能していた私は後ろ髪を引かれながらも切り上げると、先ほど貴史に乞われて確認した、彼が死んだあとの家族と不良たちのその後を再度見返した。



 ――自分の能力を褒めてくれた貴史には完全な真実を伝える気にはなれなかった。不良が罰を受けて彼の死体も見つかり家族が弔ったのは事実だ。犬の散歩に来た老人が犬に案内されて彼の遺体を掘り起こしたため事件は発覚し、不良たちは未成年にしては重い罪となった。



 問題はその後だ。不良の家族は逆恨みして、後ろ暗い商売をしていたツテで彼の家族を自殺にまで追い込んだ。妹を誘拐してレイプ、家族の仕事を奪い困窮させるなどの行動で貴史の家族はみな命を断ってしまった。貴史が尊敬する祖母を除いては。



 祖母は施設に入り意識がはっきりした状態で寝たきりとなっていたが、家族の死後忽然と姿を消した。不良の家族に拉致されたのかと思ったが、寝たきりのはずなのに自分の足で立って歩いて行ったようだ。この後の祖母の足取りが私にもわからない。



 ただ、祖母が消えたのと時を同じくして貴史とその家族の遺体から首と両手両足が無くなっていたようだ。そして、このあと暫くして不良と不良の家族に次々と不幸が訪れている。



 不良の親族全員が内臓や脳にダメージを負って治療の甲斐なく苦しみながら死に、不良たちは自力で命を絶つことのできない状態になりながらも生きながらえているようだ。しかもこの現象はこれで終わらず、不良とその家族以外の一見無関係なクラスメートにも徐々に飛び火しているようにも見える。



 彼の世界にはこうした怪奇現象は少数ながら確認されているようだが、ほとんど問題とならないこれより小さい規模のものばかりだ。この件はあまりにも奇怪すぎるし、途中で足取りが追えなくなった件といい私の力を越えているように思える。



 他と比べたことが無いので自分の力がどれほどのものかわからないが、一応私は神なのだがな…。思案しながら映像を送ったり逆再生して見返していると、違和感を覚えた。



 ――ベッドに祖母が寝ているシーンで、その目が私の方を見ている。見間違い…ではないな。世界を覗いていたら逆に見返された。しかも別の世界の()()()だ。



 今まで遭遇したことのない怪現象に軽くパニックを起こし映像を切り替えようとするが切り替わらない。祖母が登場するシーンだけが抜粋されてループし、その視線は一様に私の方を見ている。映像を閉じようとしても閉じてくれない。



 恐怖から目を逸らしたくなるが、そうしたら映像が別の展開になりそうでできない。怖くて、目をつぶれない。



 そうしていると見たことのない映像に切り替わった。正面に鎮座した祖母がニタニタと笑いながらこっちを見ている。時おり大きく口を空けて狂ったように笑っているが、一切音声が無いのが恐ろしい。



 そうして目を逸らせずに立ち尽くしていると、突然映像が終了した。しばらく放心していたが、我に返った私は急いで背後や周囲を見回すが誰もいない。



 『はーーーーーーーーーー…』



 いつのまにか止めていた息を思い切り吐き出す。貴史の死後を見ていたら想像を絶するナニカに触れてしまったのだろうか。私の制御を受け付けないというのは、私の力を越えているということだ。このお婆様が自分の意思で動いているのか、どれほどの力を持っているのかわからないがこちらには来ないようだ。



 来る力がないのだと信じたい。ぶっちゃけ来たらどうなってしまうのか想像もつかないので、呼び方を祖母から()()()という敬った風に変更してどうか来ないで下さいと願うしかできない。



 懸念材料が貴史の幸福だけでなく彼のお婆様も追加され、自分の力不足を嘆くのだった。

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