回想ハローワーク(仮)
「いやぁ、だってあれだよ。周りの人たちって結構臭いし、礼儀がなってないし、何より給料が低い!俺って結構稼いだじゃないか、結構残業もしたじゃないか、なのに給料がレイさんと同じってどういう事よ!ええ!」
「そこで私の名前を出して比べないでくれない!そりゃ私の方が先輩なんだから給料が高いなんて当たり前じゃない」
「だってレイさん、ほとんど何もしてないじゃん。なのに……何故?」
俺は今まで異世界に来てから一番ムカつくこと……それは、
何故か全くといってもいいほど何もしてないコイツより給料が低い事である。
所詮、バイトだけどこの世界では普通らしい。
最近ギルドの人手不足らしく、どこかの御偉いさんが直々に国に訴えたらしい。
というか、このギルド日当制なんだけど……
何故、異世界転移者がこんなにこっちの事を知ってるかというと、
慣れや噂なども関わってきてるけど、実際今寝泊まりをしている馬小屋で隣室の……
まぁ壁一枚ってレベルじゃなく板一枚位でほとんど同じ部屋なんだけど
そこにいるラディンて男から教えて貰った。
結局、対価というわけで次の冒険で
倒して来るであろうモンスターの素材買い取り価格を1.5倍にしろ
と言ってきやがった。
けど、俺ギルド辞めるしそんなの関係ねぇけどな。ハッハッハー
話戻すけど、
まぁ結構貰ってるならいいんだけど、推定だが月日本円にしてたったの1万2
千円。
こっちの単位……エルだと120リア。
これで1日の食費代が5~9リアかかるわけで最低食費だけでギリギリ24日、
最高食費で13日だ。余裕で30日にとどかない。
何せ、これと一緒に宿代とかもプラスすると全然足らないのである。
モンスターを討伐してきた冒険者達は討伐したモンスターの肉やら素材やらで軽く
1000リアを超すのだ。
そしてコイツ……レイも800リアはいくのだ。
我慢ならねえ。
「というとで、もう一回冒険者で頑張っていこうと思う。今までお世話になりました」
「何でそうなるのよ。そもそもキミ、賭者でしょ。
単体で……何より初心者のキミが敵いっこないでしょ。
諦めてしっかりとここで働きなさい。そっちの方が私も働かなくて済むもの」
「だけど、見たかこの稼ぎぶりは。皆、肉やら素材やらで儲けまくってるじゃん。
俺も生活費が稼げないのは死活問題なんだよ」
「え?そんなに稼いでるの?この人達?」
そりゃ分かんないだろうな、働いてないんだもの。
たまに働いてる姿を見たと思えば、ギルド長が顔が覗かせたからだし。
しかも、それは料理を作ったりする所だから、あまり交換所……モンスターを交換する場面を見ないんだ。
「そりゃそうだ。前、俺に給料で自慢して来たときあったじゃん」
「あったわね、そんな事。私の方が上だったけど」
いちいち口を開く度に気に触る事いうんじゃねぇ。
俺は今からでも殴りたい気持ちを抑えて、
「その時、レイさん800リアだったじゃん。冒険者っていう俺らとは別次元の人種は
軽く月給1000リアだってさ。
この調子じゃ俺もパンクするし、というわけで俺はここをやめる!
そしてここには……」
俺はギルドの制服の内ポケットから封筒を取り出した。
そう辞表である。
俺がわざわざ宿泊先の馬小屋の馬から1本1本抜いて2時間かけて作った筆……
この世界ではないであろう、初めての和風文化の1品である。
その筆でアニメとかでよく見るあの達筆で辞表とかかれたやつを再現するのに1時間、
合計3時間でようやっと完成したこの辞表。
え?中身はどうしたって?
そんなの適当に辞めますって書いても相手に気持ちが伝わればいいんだよ。うん。
とにかくだ。俺はこれをレイに見せつける。
「今からこれをギルド長に出しに行く。これで最後だからな。
今までお世話になりました」
うんうん。
「分かったわ、それじゃ早死にしないことね。今までありがと」
おや?今度はあっさりと。まぁちょっと寂しいが
これで俺のストレスも少しは軽減するだろう。
俺はギルド長室に向かった。
ドアをノックしてから部屋を覗いたのだが、だけど生憎ギルド長はいなくて
俺は辞表を……ほとんど辞表と書いた封筒みたいなもんだけど机の上に叩きつけて、
誰もいない部屋の中でやってみたかった、
「俺は辞めるからな、止めたって無駄だぞこの野郎!」
と叫んだ。……はずなのだが
「いや、逆に止めてって言ってるもんだからね、トモヤ君」
ふぁ?
「何でここにいるんですか!ギルド長!」
「え?私は最初からいたよ。君が気付かなかっただけじゃあないか」
本棚からひょこっと顔出した我らがギルド長。
昔は活躍したというけど、今では老いぼれジジイである。
ひょろひょろってしていて台風の時なんか吹き飛ばされそうな感じだけど……
年金で暮らして孫の顔でも拝んでいただきたいものだ。
あれ?この世界って年金ってあるっけ?
いやいや、考え過ぎだ。何でジジイの話から年金の話になるんだよ。
ここは普通に平常心を保って、
「いやぁ、何を言っているのかさっぱり分かりませんね。僕はただ……そう!レイさんに言う台詞を考えていたんですよ。ギルド長こそそこで何をしてたんですか?」
決まった。少し間が空いたけど。
この話し方は、
俺が親に働いて見ようとか、公共職業安定所……ハロワに行けとか言われた時、
こういう感じに……ほら、どう説明するか厳しい所だけど、
簡単に言うと最初に適当な理由でも言っといて、それだけだと怪しまれたり、
不信に思うから別の話題でも振っといて相手が聞けない状況を作り出す。完璧だぜ!
これでいつも家で引きこもれたもん。うん。
「え?ああ。私は普通に本棚の書類をかたずけていたけど……
それでトモヤ君?ココ、辞めたいんだっけ?」
「はい。まぁ」
なんかこれはどう判断していいか、微妙なラインを通って来たぞ。
ギリギリセーフかな?大丈夫だろ。
「何で辞めたいわけ?」
「えっとですね……僕は昨日見てしまったんです。
街の西にあるスラム街ってあるじゃないですか」
「まぁ、あるねぇ。けどそれがどうして理由になるのかを教えてくれるかね?」
「というかまだ話、終わってませんよ。ここからが本題です。
僕は昨日、たまたま通りかかったですよ。そしたら小さい女の子でしょうか。
首に『たべものください』って書かれた紙をぶら下げてるじゃあないですか。
僕は夜食に買っておいたこの街の名物、タコットを半分あげたんですよ」
「そこは全部あげようよ」
「いちいち突っ込まないで下さい。もう鬱陶しい!
そしたらですね、その子何て言ったと思います?
ありがとう、おにぃちゃん!って笑ってくれたんですよ!
僕はこんなに嬉しかった事はありません!」
拳を強く握る俺。
だが、もう分かった人も中にはいるだろう。
こんなの嘘だ。大嘘だ。
逆に良くこんなに流暢と嘘感動話をできたかと自分でも感心している。
だって、「こんなに嬉しかった事はありません!」とかさぁ、
余裕でガチャとか一番くじとかで良い奴とか推しのキャラが出た時の感動と比べたら……ねぇ。後俺こんな事があったとしても金ないし、大事な食料だし。
けど、おにぃちゃんって一度で良いから呼ばれてみたいなぁ
俺、妹欲しかったから
「いもうとってどうやってつくるの?」
って小学2年生の時に学校の先生に聞いたことがある。
もうこれ完璧黒歴史じゃん!先生は苦笑いで本格的な性教育しちゃってるし。
俺、姉しかいないからなぁ。しかも俺以上にうるさいし。
懐かしい回想に入り浸っていたが、
「それでぇトモヤ君、君はどうしたらロリコンになったからギルド辞めるという事を
いかにも自分が間違ってないみたいに言えるんだい?」
と水を差してきた奴がいた。
「おい、アンタ!今何て言った!俺はロリコンじゃあない!俺の性癖は至ってノーマルだ!
皆の性癖の代表って感じの男だ!」
「あぁ、ゴメン。ほんと。私が悪かったよ。君の性癖なんか聞き出して」
「ホントですよ!もう!
なんかもうめんどくさくなって来たなぁ。
それでですよ!あんなに可愛らしい笑顔を守りたいなって思ったんです。
という訳なんで、ギルドを辞めてまた、冒険者になって世界平和に貢献したいなーんて思ったりしたわけですよ」
「やっぱりロリコンじゃん!」
「うるせーな!このクソジジイがッ!どこがだよ!」
すいません、あの時僕に妹の作り方を教えて下さった田中先生。
何故、あなたが浮かんだのか知らないですが、
嘘の話で理由をつけようとしたら、ロリコン認定されてしまったんですよ。
こんなこと、あなたの前では言いにくいんですけど、もう一度言わせてください。
「俺はロリコンじゃねぇ!」