昇進ハローワーク(仮)
早くも俺もギルドで1ヶ月働き、異世界に慣れカルチャーショックも受けなくなってきた。
「ねぇキミ。キミってば」
「何だよ、レイさん。俺は今、大至急で書類を作ってるんだ。なんと新しく勇者が誕生したんだってさ・・・・・・」
何故、俺がコイツに敬語を使ってないのには訳がある。
俺が昇進したからだ。
向こうの世界では当たり前の筆算だけど、この世界では流通していないらしく、
カウンターの計算も電気がない世界だからそりゃ電卓もないし。
ということで数年前の事を思い出すまで結構時間かかったが
店の会計スピードは倍近く上がった。
しかも前の世界では普通の下位の字の上手さだったけど、
この世界ではとても読みやすい字の上手さらしい。
さすが、この俺!
まぁ、日本だったら情けないって言われるけど・・・・・・
そこには、触れないでくれ。
「だからねぇってば!」
「何だよ、もう!今は寝る時間も惜しんだ。分かってくれ、レイさん」
だから店長・・・・・・ギルド長はそれを評価し、レイより上の位へと昇進できたのである。
「だからその書類の件についてだって!
もうその書類はライルさんが終わらせてくれたよって言ってるじゃない!」
「へ?レイさん、今、何て言った?」
「だからライルさんが終わらせたって言ってるじゃな・・・・・・」
「おい!何でそんな重要な事を言わないんだよ!そういうことはもっと早く言ってくれよ!」
「だからさっきから言ってるじゃない!聞こうとしなかったのはキミの方でしょ!」
こんな感じで、いつものケンカが始まる。
話的に俺が悪いのは分かってるけど、
コイツに謝るとか、ちょっと何言ってんのか分かんない。
そして互いに睨んでいると、
「そこら辺にしとけお前ら。夫婦漫才か。ガッハッハ!」
ライル。
コイツだ。
金髪の中年親父みたいな小太りのおっさんで、副ギルド長を勤めている。
毎回何かあるとツッコミたくなる性根らしい。
後、親父ギャグが趣味。
体だけじゃなく、脳みその中も親父らしい性格してるとか、
ハァ・・・・・・
「うるさいですねぇ、ライルさん。もといと言えばあなたのせいですからね」
「何でやってあげた俺が怒られないといけないの!?」
「そうわよ。何でトモヤの仕事奪ったのよ。失敗して嘆く姿見たかったのに・・・・・・」
今、コイツ、なんつった?
このクソ野郎、どう調理してくれようか。
今は俺の方が位も上だし、ギルド長に頼めばクビだって考えてくれるだろ。
楽しみに待ってろよ。
「クックック。ハハハハハ!!」
「いきなり何、叫んでんだよ。ついに薬でもやったか?」
まぁこの世界に来る前にあの薬飲んだけど・・・・・・
「やってませんよ、ライルさん。
あなたの方こそ、その余分の脂肪、落とした方がいいんじゃないですか?
何なら俺が切り落としてあげましょうか?」
俺は脂肪を摘まむような、ジェスチャーをとった。
「おい、お前。何サイコパスな事いってんの?ホント。マジで大丈夫かよ」
「俺は至って普通ですよ。ムカついただけ何で。しかもジョークですよ」
「まぁいいや。じゃ俺はいくから。頑張れよ、夫婦漫才!」
手を振りながら去って行くライルに対して
「「余計なお世話だ(わ)この野郎!」」
俺らは口を揃えて叫んだ。
「何で声を合わせてくんだよ」
汚いものでも触ったような顔をしたレイに問う。
「だって、ホントにウザかったんだもの。あの中年親父」
「それに至っては激しく同意するぞ」
早く老いて死なないかな。
あ!そうだ。そうだった。
「あのーレイさんレイさん?」
「何よ」
「ギルドと冒険者ってどっちが儲かるんですかね?」
「何でそんな事聞くの?まるでギルドを辞ようとしてるセリフじゃない」
「そうですよ。俺、ぶっちゃけギルド辞めたいですし・・・・・・」
「え?」