最強転入生と勉強会①
「アップルくん、持ってきたよ」
「ありがとうございます」
分厚い紙束を持って、理事長先生が来た。
別に茶化しに来たわけではない。考査対策を立てるために、俺が呼んだのだ。
「約束通り持って来たけど、口外はしないでね? 首が飛んじゃうから」
紙束を手渡しながら、釘を刺してきた。
イチジクの暴露もあり少し信用が薄まったとはいえ、こうやって協力はしてくれている。
頼りにはなるのだ。
「でも本当に良いのかい? 解答が入手できなかったのだけど」
「大丈夫。自分で作りますから」
「さすが首席」
「候補です」
しかしこの量だ。集中しないといけない。
だからこそ、生徒会室に誰もいないタイミングを見計らって持ってきてもらったのだ。
魔王の脅威に晒されて百年。
制度により、各地に学校が乱立され百年。
その百年間で実施された、全定期考査の問題用紙。それがこの紙束だ。
模擬ではなく、完全に生の問題集だ。
「へぇ、第一回はかなり高度な問題ばっかだ。初めて見た」
「まあ初めて魔王が接触した年だからね。即戦力の徴兵も兼ねていたようなものだよ」
そうか、理事長先生はエルフだ。
百年前の情勢を生身で体験したのか。
ということは、やはり数百年すればバナーニャも理事長先生のように成長するのだろうか。
……全然想像がつかない。
って、こんな想像してる場合じゃない。
とっとと解答を作らなければ。
「今から問題を解くので、なるべく話しかけないでください」
「見ててもいいかい?」
「別に、構いませんけど」
見るだけで何が楽しいんだろう。
ただ問題を解くだけなのに。
さて、この問題数だ。
両手を使ったとしても、解答するだけで莫大な時間を要するだろう。
ならば当然、魔術を使って時短を図る。
「『阿修羅』」
四肢を増やし、腕を6本にする魔術。
白兵戦でトリッキーな戦法に出る際に用いられる魔術だ。
だが、これだけでは足りない。
「『分身』」
自身の可触分身を大量に作り出す魔術。
同じ分身作成魔術である「『分裂』」と違い、半オート状態になるのが特徴だ。
戦闘では頻繁に使い分けられる。
しかし、問題の解答くらいならこちらのほうが有用だろう。
そして仕上げにもう一つ。
「『知能活性』」
脳を完全に活性化させる魔術。
現在は禁術扱いされているが、俺は使用を許可されている。
当然、負担は尋常じゃなくデカい。
耐久力がCクラス程度だったら、きっと五秒で脳が焼けつくだろう。
危険性を含めた上での禁術扱いだ。
これで準備は完了だ。
かなり機械な光景である。
腕が6本生えた同じ顔の男たちが、みな黙々とテストを回答に専念している。
どんな悪夢だ。
さて。
本体である俺も、回答用紙に向き合う。
* * * * * * * * * *
「……きてください! アップルさん、起きるっスよー!!」
「——はっ!?」
沈みきっていた意識が釣り上げられる。
辺りはすっかり暗くなり、橙色の夕日だけが生徒会室を照らしていた。
「全く。アップルさんたら昼休み明けからいないと思ったら、ずっと居眠りしてたっスよ?」
声の主はモモだった。
しまった、伝え忘れていた。完全にサボったと思われている。
念のために机を見る。
そこにはしっかり、解答の終わった問題用紙が束ねられていた。よかった、本当に夢だったらどうしようかと。
別に疲れも残ってないし、負担が大きくて気を失ったというわけでもない。
なら、俺はいつ寝たんだ?
覚えのないタオルケットまである。
「机の上のアレ、何っスか?」
「あれか? 勉強会用の問題だ」
「あれ全部やるっスか!? 死んじゃうっスよ!」
モモの顔が青ざめる。
面白いのでこのまま黙っているのもいいか。
……いや、流石にかわいそうだ。
「違う違う。過去問から出題の傾向割り出して、出そうな奴を探すんだ」
「そうっスか……ほっ」
風紀委員の二人はいない。
始業前に置きにくる荷物も無くなっている。既に二人は帰ってしまったようだ。
もう騒がしい不良の声もない。
だいぶ日も傾いている。
今日はそれなりに頑張った。
俺も帰るか。
「良かったら、一緒に帰らないっスか?」
「ああ。明日から勉強会だからな」
「う……は、はいっス!」
面白かったらブックマークと下の評価ボタンから評価をお願いします! 励みになります!