最強転入生と風紀委員会
Eランク魔術学園。
魔王の脅威に対抗するため、各地に乱立させられた魔術学校の最底辺。
「カッコイイですこの腕章!」
「確かに秀逸ではあるが……」
学園に転入して三日。
俺は再び、理事室にいた。
「面白いところを引っ張って来たねぇ」
鏡の前ではしゃぐ二人を眺めていると、俺は理事長先生に強引に肩を組まれそうになる。
もう騙されないぞ、諸悪の根源。
「なんで逃げるんだいアップルくん!?」
「モモの話をイチジクから聞いた」
「なんで言うのさイチジク!」
軽口を叩く理事長先生。
だが当の本人は、それを見事に無視した。
そのまま俺に歩み寄り、小さな声でおずおずと話しかけてくる。
「ほ、本当に良かったのか? こんな計画に我を参加させて」
「イチジクの力が必要だと思ってな」
「モモともあの子とも実質初対面だぞ?」
まあ照れ臭いのもわかる。
結果的ではあるが、意趣返しのようになってしまったわけだし。
「いいじゃないか。協力関係になれたんだ」
「むぅ……」
頬を染めてうつむく。
昨日に比べ、少し表情も明るい。
憑き物が少し取れたみたいだ。
さて、もう一人の風紀委員はといえば。
理事室の鏡の前で、未だに一人ファッションショーを延々と展開していた。よく飽きないな。
「いつまでやってんだバナーニャ」
「だってカッコイイじゃないですか!」
「……そうか?」
確かにデザインは凝っていると思うが。
「美化委員はどうだ?」
「全面協力という形で収まりました!」
それは重畳だ。
正直この辺の人事は、イチジクのヤツを拝借した。かなり理想的だったからな。
「 はしゃぎ過ぎると子供っぽく見られるぞ」
「う゛っ! や、やめときます」
風紀委員も良いのだが、もう一人の超重要人物がなかなか来ない。
何やってるんだ。
また誰かに絡まれてるなんてことはないよな? あり得なくもないのが怖い。
「ハァ……! ハァ……! し、失礼するっス!」
そうこうテキトーな事を考えているうちに、その超重要人物は理事室へ飛び込んできた。
短いスカートのシワを直す。
走って乱れた制服を軽く整える。
頬を伝う汗は愛嬌だ。
「おおお! 似合ってるっス!」
「腕章に似合うも何もあるのか?」
「何言ってんスか! あるっスよ!」
俺より数倍ファッションセンスがあるだろうコイツに言われたら、何も言えない。
「判子は忘れずに持ってきたかい?」
「はいっス! 承認用のやつっスよね!」
床に鞄を広げ、そこから判子と筆記用具を取り出す。しかし、なぜコイツはそんなミニスカートで躊躇いもなくしゃがめるんだ。
……ピンクか。
「どれにペッタンするっスか?」
「これだよー」
理事長が一枚の書類を渡す。
その書類には、先んじて書いた俺たちのサインが刻まれている。
唯一の空欄に、彼女は名前を書き入れる。
そしてその横に赤い判子を押した。
『アップル・シード
バナーニャ・パルフェ
イチジク
以上三名から結成された『風紀委員会』は、この書面をもって生徒会直属の組織として認定する。
モモ・ネクター 承認。』
「ふぅ……完成っスね」
少しだけ記憶を遡る。
転入初日は、正直面倒臭かった。目の前であんな爆発起こされたら、流石に引くだろう。
だがその後、モモやバナーニャと触れ合い、イチジクの信念に背中を押された。だからこそ、俺はもう全力を出すことに躊躇わない。
三日前の俺が見たら驚くかもしれない。
……というか、たった三日なのか。
「モモ。何か言いたいことはないか?」
ふいに、気になっていたことを聞いた。
「言いたいこと……っスか」
僅かな沈黙。
そして、一呼吸。
「みんな、協力してくれるっスよね?」
たったそれだけ、彼女は言った。
当然だ。
各々が個性豊かにその感情を表現する。律儀に跪くイチジク、手を握るバナーニャ、抱きつく理事長。
対して俺は、ただ頷くだけ。
しかしその視線は、モモが向ける暖かな視線としっかり繋がっている。
「……私、とっても幸せっス!」
彼女はその顔に、満開の笑みを咲かせた。
「あ、円陣組みましょうっス! 気合い入れるっスよ!」
モモがまた不思議な提案をする。
だが誰もそれを否定せず、小さな笑みを浮かべて歪な円を作った。
「私が入るところないんだけど!」
「ここどうぞっス」
「バナーニャ。円陣とは一体何なのだ?」
「アップルさんが何かいうので、それが終わったらみんなでオーって言うんです!」
「俺がやるのか!?」
四人が真ん中で手を重ねる。
マジなのか、マジで俺がやるのか。
こういう類は苦手なんだが……期待されているな仕方ない。重ねられた手の一番上に、俺も手を置いた。
「が、学園に平和を取り戻すぞー!」
「「「「「オー!!!」」」」」
……締まらないなぁ、やっぱ。