最強転入生と真面目系ロリエルフ
『生徒会規定校則・授業第1条』
登校時はホームルームに出席する事。
『生徒会規定校則・第4条』
授業が始まる五分前には準備を終える事。
『生徒会規定校則・第11条』
理由なく授業を欠席しない事。
また理由に虚偽を使用しない事。
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転入生として初めて登校したその日。
校則を守っている者はほぼいなかった。
俺からすれば緊張のホームルーム。
教室に生徒は一人しかいなかった。
その残った一人がモモだったのが救いだ。
新しい机で迎える初めての授業。
モモですら遅刻寸前だった。
生徒会室に忘れ物をしていたらしく、何かと思えば昨日のスライムだった。まだ持っていたのか。
授業が始まった瞬間、先生が泣き崩れた。
二人も生徒がいる事に感動したらしい。
全員いて当たり前なのだが、感覚が崩壊しているようだ。
「はぁ。前途多難だ」
昼休み、廊下の窓から空を眺める。
前の学校でも、人のいない穴場の廊下を見つけては窓を開けて黄昏れていたものだ。
改めて問題を整理してみた。
しがらみのような根深く隠れた問題ではなく、今のところ問題は目に見えて表層化している。おかげで解決すべきものが分かりやすい。
これだけが安心できる要素だった。
「何ですかっ! 何なんですか本当にもう!」
廊下の先から、憤った少女の声が響く。
口より行動の俺にとって、あそこまで感情を口に出せるのは尊敬する。
「むっ、怪しい男! そこのあなた!」
誰かに向かって呼びかけている。
この辺りには俺しかいないはずだが。
「あなたですよ! 窓際の!」
……俺か。
そんなに怪しいのか。
「あ、どうも」
「何ですかその腑抜けた声は!」
小さい。それが第一印象だった。
幼児体型の小さな体躯と、背中に生えた薄緑色の透き通った羽根。先の鋭く尖った耳。
理事長に比べ背は低い。
だが、その特徴は間違いなくエルフだ。
水色の髪と成長の乏しい控えめな胸。制服は女生徒のものをそのまま縮めたような感じだ。モモと違ってスカートもそれなりに長い。
「見ない顔ですね」
「転入生だからな」
「転入生? ああ、中休みにモモちゃんが言っていた人ですか」
モモを知っているのか。話が早い。
誤解を解いてこの場をやり過ごそう。
まだ黄昏れ足りない。
「どんな男かと思えば、ひょろっちい」
酷い言い草だ。
「頼れそうと言っていましたが、不良共からモモちゃんを守れるとは思えません」
頼られてるのか、俺。
モモと彼女の評価の乖離が激しすぎる。
「……そうだ、あなたを試します」
「は?」
「ついて来てください」
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空き教室。
最早、何も言うまい。
当然のような割れ窓と落書き。
荒れきっている。
照明の類も全て破壊され、窓から差し込む自然光だけが部屋を照らしている。
俺が椅子に座ると、彼女は目の前の机に正座した。
「モモちゃんの隣に立ちたいなら、聡明でなければなりません」
「はぁ」
「なので、私の悩みを聞いてくれたら認めましょう」
つまり悩み相談だな。
解決すれば自由の身か。これは逃げるより相談に乗ったほうが良さそうだ。
「見ての通り私は純血エルフ、ちっこいです」
「まあな」
「めっちゃ舐められるんですけど、良い案はありませんか? 先程も馬鹿にされて」
なるほど、だから苛ついていたのか。
つまり彼女は、小さいことがコンプレックスと。まあ妖精族はあまり成長しないからな。
経験則から解決策を探る。
低身長の人間がやっていた策でうまく行っていたもの、何かあったか?
……そうだ。
脳に閃きが走った。
「ちょっと飛んでみてくれ」
「え? わかりました?」
俺の言うまま、彼女はその場で浮遊した。
可愛らしい。だがこれでは威厳が足りない。
「足を閉じて、腕を組んでくれ」
「はい」
「そのまま、片足だけ軽く曲げてみろ」
「は、はい」
「背筋伸ばして顎引いて」
「なんか注文多くないですか?」
「いいから」
偉そうなポーズを取らせて観察する。
これは以前、俺を蹴落とそうとしていた背の低い同級生がやっていた格好だ。多少の差はあるが。
奴もそうだったが、小さくてもこれだけで威厳というものが少し出てくる。
落ちていた手鏡に彼女の姿を映す。
「どうだ?」
「す、すごい。大人っぽいかも」
瞳を輝かせて満足げだ。
あとは微調整を加える。可愛いらしい声は少し低く、視線は鋭く。
これは即日できるものでもないだろう。
練習あるのみ、だな。
「あと、これは周りに仲の良い誰かがいる時にやれ」
「何故です?」
「虎の威を借る何とやら、だ」
「な、なるほど?」
本当にわかっているのだろうか。
さて、これで解決だ。
授業も近いしそろそろ戻ろう。
「待ってください」
「何だ?」
「あの、早速試したいのですが」
……ああ、そういう事か。
ここまで付き合った仲だ。協力しよう。
俺が歩き出すと、後ろから少しだけ大人びた彼女がついて来る。
「そう言えばお名前は?」
「アップル・シードだ。お前は」
「バナーニャ・パルフェです。美化委員やってます」
「この学園の美化委員か、大変そうだな」
「そうなんですよ! 聞いてくださいよこの間も——」
初めての昼休み。
俺はちっこい少女に懐かれた。