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最強転入生と真面目系ロリエルフ

 

『生徒会規定校則・授業第1条』

 登校時はホームルームに出席する事。


『生徒会規定校則・第4条』

 授業が始まる五分前には準備を終える事。


『生徒会規定校則・第11条』

 理由なく授業を欠席しない事。

 また理由に虚偽を使用しない事。



 * * * * * * * * * *



 転入生として初めて登校したその日。

 校則を守っている者はほぼいなかった。



 俺からすれば緊張のホームルーム。

 教室に生徒は一人しかいなかった。

 その残った一人がモモだったのが救いだ。


 新しい机で迎える初めての授業。

 モモですら遅刻寸前だった。

 生徒会室に忘れ物をしていたらしく、何かと思えば昨日のスライムだった。まだ持っていたのか。


 授業が始まった瞬間、先生が泣き崩れた。

 二人も生徒がいる事に感動したらしい。

 全員いて当たり前なのだが、感覚が崩壊しているようだ。



「はぁ。前途多難だ」


 昼休み、廊下の窓から空を眺める。


 前の学校でも、人のいない穴場の廊下を見つけては窓を開けて黄昏(たそが)れていたものだ。


 改めて問題を整理してみた。

 しがらみのような根深く隠れた問題ではなく、今のところ問題は目に見えて表層化している。おかげで解決すべきものが分かりやすい。


 これだけが安心できる要素だった。



「何ですかっ! 何なんですか本当にもう!」


 廊下の先から、憤った少女の声が響く。


 口より行動の俺にとって、あそこまで感情を口に出せるのは尊敬する。


「むっ、怪しい男! そこのあなた!」


 誰かに向かって呼びかけている。

 この辺りには俺しかいないはずだが。


「あなたですよ! 窓際の!」


 ……俺か。

 そんなに怪しいのか。


「あ、どうも」


「何ですかその腑抜けた声は!」


 小さい。それが第一印象だった。


 幼児体型の小さな体躯と、背中に生えた薄緑色の透き通った羽根。先の鋭く尖った耳。

 理事長に比べ背は低い。

 だが、その特徴は間違いなくエルフだ。


 水色の髪と成長の乏しい控えめな胸。制服は女生徒のものをそのまま縮めたような感じだ。モモと違ってスカートもそれなりに長い。


「見ない顔ですね」


「転入生だからな」


「転入生? ああ、中休みにモモちゃんが言っていた人ですか」


 モモを知っているのか。話が早い。

 誤解を解いてこの場をやり過ごそう。


 まだ黄昏(たそが)れ足りない。


「どんな男かと思えば、ひょろっちい」


 酷い言い草だ。


「頼れそうと言っていましたが、不良共からモモちゃんを守れるとは思えません」


 頼られてるのか、俺。

 モモと彼女の評価の乖離が激しすぎる。


「……そうだ、あなたを試します」


「は?」


「ついて来てください」



 * * * * * * * * * *



 空き教室。


 最早、何も言うまい。

 当然のような割れ窓と落書き。

 荒れきっている。


 照明の類も全て破壊され、窓から差し込む自然光だけが部屋を照らしている。


 俺が椅子に座ると、彼女は目の前の机に正座した。



「モモちゃんの隣に立ちたいなら、聡明でなければなりません」


「はぁ」


「なので、私の悩みを聞いてくれたら認めましょう」


 つまり悩み相談だな。

 解決すれば自由の身か。これは逃げるより相談に乗ったほうが良さそうだ。


「見ての通り私は純血エルフ、ちっこいです」


「まあな」


「めっちゃ舐められるんですけど、良い案はありませんか? 先程も馬鹿にされて」


 なるほど、だから苛ついていたのか。

 つまり彼女は、小さいことがコンプレックスと。まあ妖精族はあまり成長しないからな。


 経験則から解決策を探る。

 低身長の人間がやっていた策でうまく行っていたもの、何かあったか?


 ……そうだ。

 脳に閃きが走った。


「ちょっと飛んでみてくれ」


「え? わかりました?」


 俺の言うまま、彼女はその場で浮遊した。

 可愛らしい。だがこれでは威厳が足りない。


「足を閉じて、腕を組んでくれ」


「はい」


「そのまま、片足だけ軽く曲げてみろ」


「は、はい」


「背筋伸ばして顎引いて」


「なんか注文多くないですか?」


「いいから」


 偉そうなポーズを取らせて観察する。

 これは以前、俺を蹴落とそうとしていた背の低い同級生がやっていた格好だ。多少の差はあるが。


 奴もそうだったが、小さくてもこれだけで威厳というものが少し出てくる。


 落ちていた手鏡に彼女の姿を映す。


「どうだ?」


「す、すごい。大人っぽいかも」


 瞳を輝かせて満足げだ。

 あとは微調整を加える。可愛いらしい声は少し低く、視線は鋭く。


 これは即日できるものでもないだろう。

 練習あるのみ、だな。


「あと、これは周りに仲の良い誰かがいる時にやれ」


「何故です?」


「虎の威を借る何とやら、だ」


「な、なるほど?」


 本当にわかっているのだろうか。


 さて、これで解決だ。

 授業も近いしそろそろ戻ろう。


「待ってください」


「何だ?」


「あの、早速試したいのですが」


 ……ああ、そういう事か。

 ここまで付き合った仲だ。協力しよう。

 俺が歩き出すと、後ろから少しだけ大人びた彼女がついて来る。



「そう言えばお名前は?」


「アップル・シードだ。お前は」


「バナーニャ・パルフェです。美化委員やってます」


「この学園の美化委員か、大変そうだな」


「そうなんですよ! 聞いてくださいよこの間も——」


 初めての昼休み。

 俺はちっこい少女に懐かれた。

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