メルト
「悪い、オレ、甘いのあんまし、得意じゃないから」
「べ、べつに、好きとかそういうんじゃなくって! ただちょっと、作り過ぎただけで……」
「そう」と男子生徒は女子生徒に背を向け、歩いて行ってしまった。
今日は2月14日、バレンタイン。放課後の屋上でのできごと。
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「あ、スズメちゃん、用は済んだの?」
スズメがどことなく肩を落として教室に戻ると、小柄でツインのお団子頭が愛らしい、スズメの親友のひな子が待っていた。先に帰ってていいと、スズメはひな子に言っていたのだが。
「うん、ごめんね、待っててくれてたんだね、じゃあ、一緒に帰ろっか」
スズメはひな子には自分が告白をして振られたことは話さない。いくらひな子がスズメの親友とはいえ、話せないこともあるのだ。
「あっ! 彰くぅん!」
教室を出た二人は彰という男子生徒が下駄箱にいるのを見つける。あどけない容姿に見合った舌っ足らずの声でひな子が彰の名前を呼んだ。
「……何?」
彰はひな子の方へ体を向け、ボソッと呟くように言った。
「これ、バレンタインのチョコレートだよ。彰くんには勉強教えてもらったりして、すっごく助けられたからあげるね」
「……悪いけど、オレ、甘いの得意じゃないから」
すげなく断る彰に、
「そーなんだ……」
と、ひな子は声を落とす。
ズキリと心が痛んだのはスズメだった。スズメは彰がひな子のことを良く気にかけ、助けてあげていることを知っている。
ノートを録るのが遅れてしまうひな子に自分のノートを貸してあげたり、理科の時間にひな子がビーカーを割ってしまいケガをしたときには保健室に連れて行き手当てをしてあげたり、彰のひな子に対する行動を見るうちに惹かれて、スズメは彰を好きになったのだ。
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「スズメちゃぁんっ! 振られちゃったよぉーっ!」
ベソをかくひな子を「うんうん、よしよし」とスズメは撫でて慰める。
スズメは彰は本当はひな子からのバレンタインチョコを受け取りたかったに違いないと思っている。彰のひな子に対する行動を見ていれば、彰がひな子に好意を持っていることは伝わってくるからだ。
彰はスズメからバレンタインチョコを受け取らなかった手前、スズメが見ている前で、例え思いを寄せている女の子からといえども、バレンタインチョコを受け取る姿を見せるのは、スズメを傷つけてしまうという考えから、ひな子からのバレンタインチョコを受け取ることを断ったのだった。
「スズメちゃんっ! これ、あげるよぉ……!」
ひな子が不器用なりにも綺麗にラッピングしたバレンタインチョコをスズメに渡してくる。
「え、えーっと、じゃあ、私のと交換する?」
ひな子は「うん」と首を縦に振る。
スズメの彰に受け取ってもらえなかったバレンタインチョコは親友の手に渡り、スズメは少し気持ちが軽くなる気がしたのだった。
女の子同士でチョコを交換し合う……そんな百合場面が見たい! との妄想から生まれた物語です。お付き合いいただきありがとうございました(..)(__)♪