狙撃兵の話
この世界には、二種類の人間が存在している。
死んでいる人間と、これから死ぬ人間だ。
残念ながら、俺は前者でもなければ後者でもない。
しかし、詳しく言えば、俺は相手に死を贈る者だ。
正確には俺の相棒がそうなんだが、そんな細かい事を気にしている奴はこの世界じゃ生き残れない。
俺の相棒は狙撃兵、この戦乱の中で一番忌み嫌われる存在だ。
味方からは厄介者扱いされ、敵からは一切の慈悲もなく殺される。
哀れな存在。それが、狙撃兵だ。
「こんな役目、誰もしたくないだろうけどね」
相棒はそう言って、悲しそうに笑いやがる。
俺の相棒は女だった。
女が戦場にいて可笑しいか?
ここじゃ、そんなことで差別されない。そして、さらに飛んでくる鉛弾は区別して当たってくれない。
だから、この戦場にいるのは、男か女かではなく、敵か味方か。その二つしかないんだ。
「今の戦況はどうなっているんだ?」
相棒が俺に語りかけた。俺以外に語りかけられる奴はもういない。
今はいない…が、以前はいたってことだ。
相棒の唯一の理解者は俺じゃなく、こいつの恋人だった兵士だった。
しかし、その男は、一カ月前に敵の砲撃に巻き込まれて死んだ。
他にも何人か仲間がいた。
一緒に戦い、この最終防衛ラインを死守してくれた仲間。
その仲間たちの銃声ももう聞こえなくなっている。
逃げた・・・とは考えられなかった。残念なことに、そういう奴らは仲間にはいない。
もう、俺以外味方と呼べる奴はいなくなっていた。
暗い穴の底にいるような感覚。周囲になにも見えず、何も聞こえない。寝そべっているはずなのに目眩にも似た感覚が起こる。
相棒は、懐にしまっていた食料を取り出しかじりついた。
すえた臭いのする肉片、それは何かの動物を刻んで火で炙ったものだ。動物の種類は覚えていない。弾以外の食料などは現地調達が基本だ。だから、目に入るものはすべて奪うか、殺すかしている。
すさんだ精神状態だというのはわかる。
しかし、今の相棒には失うものなど何もない。
家族も恋人も、仲間でさえすべて失った。
もう、相棒には何もない。あるのは手元に残った弾丸三発。
そして俺---長距離狙撃の銃だけだ。
俺は相棒と最期まで付き合おうと決めている。
相棒の胸元には小型の銃があった。護身用の小拳銃一丁。しかしそれは自決用の弾が一発あるのみ。
それが、相棒の持つ全て。最期に手に入れたもの全てだった。
何もかも失って、最期に命も失う。
らしい、最期だと思っているようだ。
「よし!」
相棒は決意したように息を吐く。
せめて、死ぬ時だけは自分で決めようと覚悟した目だ。
敵を一人でも多く殺し、そして敵に囲まれれば、小拳銃で戦って敵に特攻をかけて死ぬ。
家族を、恋人を、そして仲間を殺した奴らを絶対に許すことはできない。
もう何日、こうしているだろう。腕時計はとっくに壊れている。実感の感覚も曖昧になってきている。不眠不休で私はビルの一角に立てこもり、敵が現れるのを待ち続けている。
満身創痍。相棒の状態はいつも最悪だ。
その時だった。
目の前に、光が溢れる。
敵の閃光弾かと疑ったが、それにしてはどこか暖かい光のような気がした。
光はやがて収束し、静けさだけが漂う。
あれほどの光量だったのに目を眩まされることはなかった。
すぐに視界は回復し、私は暗視機能の付いた双眼鏡を覗きこみ我が目を疑う。
そこには一人の青年がいた。いや、その表現は不似合いだ。
その人物は、不思議な服を着ていた。
異国の民族衣装だろうか。質素な感じがしているようで、どことなく気品がある。
顔立ちまでは距離がありすぎてはっきりしていない。
青年はまっすぐに敵側を注視し、それからこちら側を、いや相棒の眼を見た。
それは見つけた等という類いのものではない。明らかに、明確にこちらを認識し視線を送ってきたのだ。暗視ゴーグル無しで、的確にこちらを捉えていたことになる。相手が敵側の狙撃手なら、今の時点で相棒の命はない。
たたたたた!
小さな破裂音が響く。
これは、消音された銃声だった。
「危ない!」
相棒は呟きながらも動けない。下手に動けば、こちらの位置を知られる。それは即「死」を意味していた。
青年の周囲の土が爆ぜ、土煙が起こる。
集中砲火。
肉片と化した青年の姿を想像し、それでもスコープから目を離さない。
青年の生死を確認するために、敵が出てきたときにはとどめを刺す。
それが、彼女なりの弔いのやり方だった。
しかし、相棒の予想に反して、青年は無傷だった。
いや、無傷ではない。その証拠に、服の所々が破けている。
・・・ということは、銃弾を生身で耐えたというのか。
「どうなっているんだ・・・」
相棒は、目の前で起こっている現象に驚愕するばかりだ。
その目の前で。
青年はおもむろに足元に落ちていた棒らしきものを拾い上げた。
何をしているのだろう。
少年は勢いよくその棒を振り回す。
棒は金属のようだ。少年が棒を降る度に、棒から火花が散った。
同時に起こる土ぼこり。
それはまるで…そうまるで、少年に向かって撃ち込まれる弾丸をその金属の棒で払い落としているかのような…
「そんな、馬鹿な!」
音速に近い弾丸を、弾道を読み取り弾くことなど不可能だ。仮にできたとしても、棒が弾かれてしまう。
しかし、それでも目の前で。
高速の弾丸は、弾かれいなされ、青年に当たることはなかった。
これは、幻覚だと彼女の脳は理解した。
不眠不休と極度の緊張からくるストレスが彼女に幻覚を見せているのだ。
しかし、それが幻でもないことを俺は知っている。俺が感じている。
「ああ、もう面倒くさい!」
青年が吠えた。
銃弾を雨あられと撃ち続ける方へと、弾を「打ち」返す。
打ち返された銃弾は、確実に襲撃者の銃へと命中する。
銃に弾が「当たった」者たちは、自分たちの身に何が起こったのか理解することができずその場に呆然となる。
「!!!!!」
流れるような滑らかな動き。
一発一発を確実に打ち返している。
その証拠に、瞬きする間に銃撃戦は終わりを迎えていた。
死亡者はいない。もちろん負傷者もいない。
一発の弾丸を撃つこともなく、双方共に被害のない「完全勝利」がそこにはあった。
「なんなんだあれは・・・」
人知を超えた「力」なのか。
敵の気配が遠のいていくのが分かった。
しかし、これは撤退ではない。おそらく増援を待ち、再びここに攻め入ってくるだろう。
「おい、そこの男。この場からさっさと逃げるんだ!」
相棒が叫んだ。
もとより、見られているのに気づいていたのか、青年は相棒の姿を見つけてニッと笑った。
「ずいぶんな挨拶だな、せっかく助けてやったのに」
青年はどこか意地悪そうな顔で、近づいてくる。
相棒は、俺から手を離し、そこに立ち上がった。
青年に敵意はない。それを感じ取っての行動だ。無条件降伏ともいえた。
例え、彼女が銃を構えていようと、大砲を構えていようと、この青年に通じるとは思えなかった。
「やけに大人しいな・・死にたいのか?」
青年は周囲を見回しながら言う。
もはや、敵はこの周囲にはいない。それを確認できたとしても、船上での油断は命取りだ。
「生き残れるとは思っていない・・・今のこの命は、お前にもらったようなものだ」
相棒は、手持ちの銃弾三発を青年に見せた。
「ずいぶんと無茶をするもんだ」
「お前に言われたくないな。こう言っては何だがお前こそ何をしにこの国に来た? ここは国境だぞ。武器も持たずにこんなところをうろついていては、殺されてしまうぞ 」
「ご忠告どうもありがとう」
気の抜ける返事だった。今まで命を投げ出す覚悟で臨んでいた戦闘が、幻のように思えてくる。
ここは、国境の激戦区の最前線だ。既に敗北は必至。味方はなく、退路もない。
物資も底をつき、死を待つだけの境遇だった。
それこそが、死に場所にふさわしいと思った。
「お前のような力があれば・・この戦争も、別の形で終わっていたかもしれないな」
相棒が倒れこむ。
緊張が抜け、今まで支えていた神経の糸がぷっつりと切れてしまったのだ。
「おいおい、いくら何でもむぼうびすぎるだろう」
青年の声を遠くで聞きながら、彼女は眠りについた。
風が吹く。
草原の上を吹き抜けた風は、そのまま彼女の頭上を越え空へと上がっていった。
彼女が見上げると、息を飲むほどの蒼穹。
まばらに揺蕩う雲が、目の前をゆっくりと通り過ぎていく。
日差しは暖かく、草原に寝転がればさぞかし気持ちいいだろうと思われた。
これは、彼女が望む世界。追い求めてやまない世界だ。
もう誰も死ぬことのない。誰も悲しむことのない世界。
それを実現するために彼女は戦っていた。
周囲の国がどうなっているのか。
自分たちの国が優位なのか劣位なのかもわからない。
目の前に広がる景色はいつも戦火。
その中で生まれ育った。
当たり前の風景が、実はあたりまえでないことを知ったのは、彼女がまだ十代の頃だった。
それは一枚の写真だった。
恐らくは、雑誌の表しか何かだろう。襲撃があり、たまたま逃げ込んだ建物の中で、彼女はそれを見つけた。
何と表現すればいいのだろう。まさしく食い入るように彼女はその風景に魅入ってしまったのだ。
それからしばらくして、彼女は軍隊に志願した。
そして、俺に出会ったのだ。
あの時に魅入られた写真は、今でも肌身離さず持っている。すでに擦り切れ、ボロボロになってはいたが、それは紛れもない彼女の「宝物」だった。
青い空を手に入れるために。
彼女は戦っているのだ。
焚火の光に照らされながら、相棒は目覚めた。
目覚めてすぐに飛び起き、俺の姿を探す。
枕元に置いてある俺を掴み、胸に抱くことでようやく安心したのか、改めて周囲を見渡す。
「ようやくお目覚めかな」
声の主を認め、相棒は俺を強くつかむ。しかし、すぐさま状況を理解したのか、警戒を解き、俺を下した。
「理解が早くて助かる」
「お前には命を救われている。もともと無いつもりの命だ。お前に殺されても文句は言わない」
「おいおい、オレがそんない凶悪に見えるのか?」
「そうは言っていない・・・だが、長年の経験から、出会ってすぐの人間に気を許すほどおめでたくもないのでね」
「まぁ、この状況じゃ仕方ないな」
納得したように、青年は笑った。
相棒もつられてくすりと笑う。俺は数年ぶりに見る彼女の笑顔にしばし見とれてしまった。
「お前は、何のためにここにいるんだ? 戦うためか?」
改めての問いかけに、青年は首を横に振る。
「オレは、人を探しにこの「世界」にやってきた・・・」
「出会えたのか?」
相棒の問いかけに青年は「否」と否定する。
「この世界にはいない・・・着てすぐに分かった」
「世界」という言葉に違和感を覚えながら、相棒はさらに口を開いた。
「お前はその探し人の為に、世界を旅しているのか」
「ああ、そうだ・・それがオレの目的だ。「彼女」以外に求めるものは何もない」
はっきりとした言葉で、しっかりとした決意で青年はそう言った。
きっと彼にとって、この世界の事など眼中にないのだろう。恐らくは、この世界が亡ぼうとも、何も感じないのかもしれない。
「ならば、なぜ私を助けた?」
デメリットこそあっても、メリットは何もない。
この世界に目的がないのであれば、早々に立ち去ればいいのだ。
「あのなぁ、目の前に困った人間がいて、それを見過ごすことができるのか?」
青年の言葉に、彼女はゆっくりと首を振った。
青年の言っていることは確かに正しい。しかし、それは力のある者、他者に気を配る余裕のある者の言葉だ。
自分が生き抜く、それが精一杯の人間には、到底真似できるものではない。
とくに、この国では不可能なことだった。
「この国では、自分が生き残ることが精一杯だ」
「なら、努力して他者に気を配ることのできる世界をお前が造ればいい」
「簡単に言う・・・」
「簡単なものか・・でも、彼女ならそうする。自らの命をかえりみず、他者の為に命を賭す。オレは彼女から教えられた」
「そうか・・そういう世界を造るか・・考えたこともなかったな」
相棒は、自嘲気味に笑った。
「奇跡でも起こって、助かることがあったなら・・・私はこの世界を変えて見せよう」
絶望的なこの状況で、助かることはまずない。
しばらくすれば、敵の増援がやってくる。
目の前の青年はおそらくいなくなる。
彼女の目の前から忽然と、突然と。
煙のように消えていなくなるだろう。
何故か、そのことが分かった。
突拍子もないことだと、自分でも行かれた妄想だと思いながらもそれを信じて疑わなかった。
「オレは、どの世界にも干渉しない・・・オレはこの世界にとって「傍観者」だからだ」
何物にも干渉せず、何物にも干渉されない。
ただ世界の行く末を見つめる者「傍観者」
「オレはもう行く・・・この世界に用はない」
「ああ、そうするがいい。この腐れ切った世界に辟易しただろう・・・次の世界が、お前にとっていい世界であることを祈っているよ」
相棒は、弾丸を一発、青年に投げてよこした。
「餞別代りだ。いい旅を! この弾丸を見たら私の事を思い出してくれ、戦場に散った雑草のことを」
「雑草だって捨てたものじゃないぜ。世界を緑に変えるのは、いつだって名も知れない草や花、そして木々だ」
青年が笑った。
屈託のない笑顔。
どうしてだろう、死を目前にしているのに、この笑顔になぜか救われる。
周囲がざわついた。
目に見えないが、ピリピリとした殺気が伝わってくる。
「囲まれたな・・・お前はもう行け、ここにいれば巻き添えを食らう」
「ああ、そうさせて、もうらおう」
青年は立ち上がる。
相棒は、二発の弾丸と俺を掴んで立ち上がった。
いよいよ最期の戦いだ。
派手に散っていこうじゃねぇか!
「お前は生き残れば奇跡だと言った。生き残ればこの世界を変えて見せるとも言った」
青年は、相棒の目を見つめる。
彼女は、静かに頷いた。
「私は奇跡を信じない。もしも奇跡が起こるというのなら、その奇跡を目の当たりにするのなら、世界を変えることなんて造作もないさ」
そんなことは起こらない。
どうせ死ぬのなら、派手な夢を描こうではないか。
「阿呆が、奇跡は起こすものだ。そんなことも分からないのか?」
青年は大地に手をついた。
「オレは傍観者だ。世界を旅して彼女を必ず見つけ出す!」
光が青年を包み込む。
「だが、世界を変えるという者がいるというのなら話は別だ」
こんな笑顔のない世界。
荒廃に満ちた世界。
そんな世界はぶち壊してやる。
「これはオレの気まぐれだ・・奇跡じゃない」
青年が言い放つと同時。周囲に光が満ちた。
台地が輝き、光は空を埋め尽くす。
地が鳴った。
台地が揺れ、大気が震える。
もはや立つことは不可能なほどに、大地が鳴動する。
最初、目に映ったのは小さな若葉だった。
一房のそれは、すぐに大きくなり実を付け花を付け、種を落とす。
それが一瞬ごとに増殖していく。
瓦礫を押しのけて木が姿を現した。めきめきと大地に亀裂を入れながら、木は連なり重なり巨木へと育つ。
相棒は、建物の柱にしがみつきその光景を食い入るように見つめていた。
風が吹き、雨が降った。
緑が空気を浄化し、焦げた臭い、すえた臭いが薄らいでいく。
瞬く間に、目の前の光景が変わっていく。
雷鳴が轟いた。
雷鳴は鳴り止まず、雷が地を穿つ。
耳を弄する程の轟音の中、彼女の意識は再び闇に落ちていった。
「おい、起きろ・・・」
青年の言葉で、彼女は目覚めた。
目覚めると同時に、目を見張る。
まず目に飛び込んできたのは蒼穹、どこまでも続く青い空だった。
吹き抜ける風は冷たく心地いい。
すでに日は昇り、蒼天だった。
「私は・・・死んだのだろうか・・・」
「天国に行くのは、まだまだ先だ・・・これからお前には奇跡を起こしてもらわなければならないからな」
「ここはいったい・・・・!!!」
相棒はどこか呆けたように、目の前の風景に見入っている。
ゆっくりと立ち上がった。
アスファルトの上に。
しかし。
彼女の眼下に広がるは、深緑地帯。
見渡す限り、緑の大地が広がっている。
彼女の足場を見れば、アスファルトは足元だけ、それも太い枝に支えられた部分のみ。
よって、
彼女は地上から数百メートルもの高場に立ち尽くしていた。
空は蒼天。
大地は深緑。
かつて夢にまで見た風景。
戦いのない世界。
緑あふれる世界。
それが今目の前に広がっている。
「お、お前は・・・いったい何をしたんだ・・お前は何者なんだ・・」
彼女は震える声で、そっと俺を掴む。
その時になって、俺の相棒は、ようやく俺の相棒は、俺の姿を見て、声を失う。
俺は緑の草蔓に絡められていた。蔓は細部にまで入り込み、もう「銃」としての役目を果たせない。
もう、俺は彼女と共に戦うことはできない。
人を殺すことはできない。
俺は役目を終えた、彼女にとって俺は相棒ではなくなった。
とても悲しいはずなのに。
とても残念なはずなのに。
とても悔しいはずなのに。
今の俺はとても満足していた。
もう戦わない。
もう弾を撃たない。
もう人を殺さない。
もう、彼女を「死神」にしない。
そうなれたことが、とても誇らしかった。
「・・・ありがとう」
彼女が呟く。それ以上の言葉が浮かばないようだった。
「礼はいらない、これは俺の気まぐれだ」
「でも、世界を変えてくれた・・」
「世界が自分で変わっただけだ。オレはきっかけを与えたに過ぎない」
「でも、世界を救ってくれた・・」
「世界を救ってはいない。世界を救うのはお前たちの仕事だ」
「でも、私を救ってくれた・・」
「これでお前が救われたというんだったら・・・オレは嬉しい」
「・・・ありがとう」
彼女の言葉に、青年は笑う。
「これから俺は旅に出る。この世界からいなくなる。これから先はお前たちで造り上げる世界だ」
「最後に、名前を教えてくれないか?」
青年は、少し悩んだようだった。
涼しい風が吹き抜ける。
「ノゾミ・・・という。意味は「希望」だ」
「ノゾミ・・いい名だな」
彼女の言葉に、ノゾミはうんと頷く。
望の姿が光に包まれ始めた。
「もう行くのか?」
「ああ、待っている奴がいる」
「いい旅を、大切な人が見つかるといいな」
「ありがとう」
瞬きする間に、ノゾミの姿が消えた。
世界は変わった。しかし、それが世界の全てなのか、目に見える範囲なのかは分からない。
それでもいいと思った。
彼は世界に奇跡を起こした。
これからは、彼女が世界に奇跡を起こす番だ。
「ごめん、これからは別々だね」
相棒は、俺をさすりながら呟く。
彼女の表情は、今までにないくらい晴れやかだった。
俺は、彼女との別れを悲しんだ。
だが、同時に祝福していた。
俺のような「武器」を二度と手にすることがない。そんな世界をオレは望んでいる。
彼女は、うんと伸びをした。
周囲を見回し、決意を新たにする。
そして、優しい声で呟いた。
「さて・・ここからどうやって降りようか・・」