第7章 王国炎上10
気付けば、辺りは暮れかけていた。一日中暗く、雨ばかり続いたので、ソフィーには時間の経過がまるでわからなかった。
今ようやく導師による呪文の伝承が終わり、玄妙なる一時が過ぎ去って辺りは急速に自然の穏やかさが戻りつつあった。ソフィーは1日限りの師に恭しく頭を下げ、導師も1日限りの優秀なる弟子に敬意を込めて頭を下げた。
ソフィーは立ち上がろうとして、よろめいてしまった。バン・シーに支えてもらった。
庵を後にすると、ようやくソフィーは時間の経過に気付いて、途方もないような気持ちになった。
ソフィー
「……バン・シー様、私は子供なのでしょうか」
馬に乗ったところで、ソフィーが訊ねた。
バン・シー
「どういう助言を望んでいるのかね」
ソフィー
「自分が好きになった相手に、自分を受け入れてもらいたいなんて、わがままだという気がしたのです。私、意地を張って彼をこんなふうに困らせて……。私は子供なのでしょうか」
バン・シー
「お前はまだ17だ。事実、まだ子供だ。私としては利害が一致したと考えるね。あの者を愛しているのだろう」
ソフィー
「はい」
ソフィーはかすかに頬を赤くする。
バン・シー
「ならばそなたの信じるようにすればいい。そなたの選択したとおりにな」
ソフィー
「――はい」
2人は馬を進めた。空は暗く、あちこちに灰色の水溜まりを浮かべていた。向かう先は明快だった。進行方向に、ソフィーが見た経験もない暗い空と、どろりと漂う気配があった。ソフィーとバン・シーは馬を急がせた。




