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ロスト・フェアリー  作者: とらつぐみ
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第7章 王国炎上3

 バン・シーは城を出ると、城下町へと降り、ある屋敷に入っていった。大きな建物で、作りは堅牢、兵士の厳重なる警備で守られていた。中に入ると、避難してきた人達で一杯にひしめいていた。


 王城は砦ではなく、多くの一般人を要する1つの街である。こうした戦いの折りには、人々の住居は接収され、住民達はこのような場所に集まることになっていた。


 人々が憂鬱にうなだれ、戦の嵐が過ぎるのを、ただ待っていた。


 バン・シーはその中へ入っていき、人々の様子を一瞥しながら、少し距離を置きつつ、やはり同じようにうなだれた。悪魔との戦いを含めた、強引な征旅の疲れもあったが、それ以上に途方に暮れていた。


 ――望むものは揃いつつある。しかし……。


 今頃は大門の前で、魔界の眷属との戦いが始まっている頃だ。激しい戦いになっているだろう。その戦いはこれから底なしに激しくなっていくだろう。


 そんな時、ふと歌声が聞こえた。


 こんな暗いところで暗い時に場違いに思えたが、歌声はあまりにも美しく、清らかで暖かいものが込められていた。憂鬱に沈んでいた人々の顔から翳りが消えて、明るい表情が広がり始めた。バン・シー自身も、歌声を聞いていると、腹の底から重苦しいものから解放されるのを感じた。それ以上に魔術師の勘というべき何かに導かれ、歌声の主を探して歩いた。


 そこにいたのは、ソフィーであった。


 ソフィーの周囲には、人だかりの山が築かれ、人々はうっとりとソフィーの歌声に耳を傾けていた。歌声は優しさに満ちて、詩は心地よい情緒を歌い、聞いているだけで心を晴れやかにするようだった。


 それだけではなかった。バン・シーは驚いて自身の身体を見た。先の戦いで負った無数の傷が、塞がれて傷跡すら残さず消えていくのだ。バン・シーは歌声の魔力に感嘆の息を漏らした。


 やがて歌が終わった。人々からやんやの大拍手が沸き上がる。ソフィーはぺこりと頭を下げると、そこから立ち去ろうとした。バン・シーはソフィーを追いかけて、その手を掴んだ。



ソフィー

「バン・シー様」


バン・シー

「素晴らしい歌声であった。あのような歌声を持つ者に巡り会えたのは数百年ぶりだ」


ソフィー

「ありがとうございます。人々の心の慰めになれば、幸いです」


バン・シー

「そうだな」



 バン・シーに笑顔が浮かんでいた。

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