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ロスト・フェアリー  作者: とらつぐみ
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第6章 キール・ブリシュトの悪魔8

 翌日も旅が続いた。朝早くに宿を出て、東へと向かった。地図上の道は間もなく途切れてしまい、荒れた土地が現れた。


 一行はごつごつとした岩場に入っていき、馬を下りて慎重に進んでいった。行く手の見通しが極端に悪く、荒野は激しく上下にうねり、不浄の森もあちこちに佇んでいた。


 日が暮れかけると急速に夜が迫り、辺りは漆黒の闇が包んだ。空は星すら浮かべない。頼りになる明かりを失い、その日の旅はそこで終わってしまった。



バン・シー

「今日はここまででいいだろう」


セシル

「そうだな。野宿の準備だ」



 屈強の戦士達は、さすが旅慣れた様子で、疲れも見せずにただちに野宿の準備を始めた。



バン・シー

「いや、待て。済ませねばならん用事がある。――そろそろ出てきたらどうだ。暗闇での野宿はつらかろう」



 バン・シーが暗闇に向かって声を掛ける。戦士達が柄を握って振り返った。


 岩陰から姿を現したのは、緑のローブ姿の乙女だった。



オーク

「ソフィー! どうして従いて来たんだ!」



 オークはソフィーの側に駆け寄った。


 ソフィーは顔で頑なで、瞳は決意で満たされていた。



ソフィー

「危険は承知です。お願いです、私を、……あなたの側にいたいの」


オーク

「…………」



 オークはどう答えていいかわからず、黙ってしまった。


 するとバン・シーがソフィーの前にやってきた。



バン・シー

「魔術師か?」


ソフィー

「はい」


バン・シー

「ならば試させてもらう」



 バン・シーの掌が燃え上がった。



セシル

「バン・シー! よせ!」



 バン・シーが炎を放つ。暗闇が真っ赤に煌めいた。


 だが炎は、ソフィーの目の前で火の粉を巻ながら吹き飛んだ。火の粉の陰に紛れて、ソフィーがバン・シーに接近した。手にナイフが煌めいていた。


 ソフィーの接近の瞬間、光が強く瞬く。



バン・シー

「――うっ」



 バン・シーに動揺が浮かんでいた。


 ソフィーはバン・シーの胸にナイフの刃を押し当てた格好のまま、静止していた。バン・シーが貼り込んだ魔法の防壁に無理に突っ込んだせいで、右腕に血が滲んでいた。ナイフの刃も、切っ先が魔法の盾に当たっている。それ以上に刃が進みそうにない。



ソフィー

「自惚れではないけど、私は役に立ちます」



 それから、バン・シーにだけ聞こえる声で言った。



ソフィー

「……お願い。同じ女ならわかるでしょ」


バン・シー

「……そのようだな」



 ソフィーとバン・シーの間から緊張が解かれた。お互いの掌から魔術の光が消える。



バン・シー

「どうやら強力な助っ人のようだ。15人目の仲間だ」


オーク

「しかし彼女は……」


セシル

「私は賛成だ。ドルイドの癒やしは旅に必要だ」


ゼイン

「わしも賛成じゃな。美人と旅を共にする機会はそうそうないからな」


ルテニー

「俺もだ! 歓迎するぜ!」


バン・シー

「私では不満という話か」


ルテニー

「……い、いや」


ソフィー

「皆さん、ありがとうございます。私はソフィーというものです。未熟なドルイドですが、よろしくお願いします。――ところで、魔法使い様、あなたの名前は?」


バン・シー

「バン・シーと呼ばれている」


ソフィー

「え……でも」


バン・シー

「構わん。そう呼べ」



 それだけ言うと、バン・シーは一同の許に戻った。15人目の仲間を加えて、ようやく野営の準備が始まる。

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