表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・フェアリー  作者: とらつぐみ
40/196

第4章 王の宝8

 宝箱はただちに城まで運ばれた。厳重な警備が終始ぴったり貼り付いていた。


 セシルは送られてきた宝箱を一度確認すると、充分に満足してその足で父の部屋へ向かった。


 ヴォーティガン王の部屋は、人目を避けるように窓が閉め切られていた。王は、しばらく全ての面会を拒絶していた。部屋の内装は質素で、机とベッドがあるだけだった。


 ヴォーティガン王が、1人で静かに書き物をしている。側に召使いの少年が控えていた。


 部屋にセシルが入っていく。その後に、宝箱を抱えた従者が続いた。



セシル

「父上。少し時間を。例のものが発見されました」



 王がすっくと立ち上がった。


 王は老いで全身が衰弱し、そのうえに病気が追い打ちをかけていた。もはやかすかな生命を残すばかりである。だが、宝箱を前にして、失いかけた生命が一瞬にして力を取り戻させた。


 ヴォーティガン王はただちに臣下の者を下がらせた。セシルの従者にも部屋を出て行くように指示する。部屋にセシルとヴォーティガン王だけが残された。



「……遂に……見付けたのか」



 王の声が震えていた。


 セシルは何もいわずに、宝箱の前で膝をついた。


 王は杖を突きながらだが、力強い足取りで宝箱の前まで向かった。



「お前は、もう見たのか」


セシル

「はい。我が目で確かめました。例のものに間違いありません。太古のものとは思えぬ霊力で漲るのを感じました」


「早く見せろ」


セシル

「はっ」



 セシルは宝箱の蓋を開けた。


 するとそのなかにあったのは、ただ1つ。ひとふりの剣だけだった。


 セシルは剣に向かって頭を下げると、丁重に取り上げ、ヴォーティガン王に差し出す。


 剣を前にしたヴォーティガン王の手が震えた。


 剣の長さは、刃の長さが1メートルをやや越えるほどで、柄は質素で力強かった。鞘は探索隊が取り付けたものだが、その剣に相応しい上等な品が使われていた。


 見た目だけの印象ではない。その剣がまとう霊気は神々しく、峻厳な冷たさをまとい、信心のない者ですら頭を下げさせる神秘を漂わせていた。まさに伝説の剣に相応しい存在感だった。



「これが……伝説の剣……エクスカリバーか……」



 それが王が生涯探し続けていた剣だった。エクスカリバー。史上最も高貴な剣。精霊が鍛えし最強の剣にして、英雄の守護者。


 ヴォーティガンは柄を握り、ゆっくり鞘を外した。


 そこから溢れるのは封じ込めようのない清々しい英気であった。あまりの感動に、王は白みかけた目に涙を浮かべた。


 しかし、その刃を見た瞬間、感動は一転して失望に変えられた。



「……なんということだ。こんな有様だとは……」



 エクスカリバーの刃は無残に赤く錆びて、ボロボロになっていた。辛うじて刃の先まで残っているものの、もはや錆びきった鉄の棒杭に過ぎなかった。



セシル

「千年の間、泉の底で眠っていたのです。むしろ失われず、形だけでもこうして残っていたことを喜びましょう。人生をかけてそれを探した忠臣のためにも」


「……そうだな」



 落胆の大きかった王は、剣を鞘に戻すと、息子に押しつけるように差し出した。



「アーサーとその下僕が死んで、すでに千年か。かの者の伝承もここに失われた」


セシル

「父上。お言葉ですが、こうして剣は見付かったのです。伝承は蘇ります。その魂も」


「そうあってほしいがな。それも我が国の宝だ。地下に運び、厳重に保管しろ。誰に目にもつかんようにな」


セシル

「――はっ」



 王はむしろ以前よりも衰えた様子で、よろよろと椅子に上に戻った。落胆が全身に滲み出ていた。


 セシルは剣を箱に戻すと、従者を呼びつけた。従者は王の部屋に入ってくると、王と剣の入った箱に1つ頭を下げて、持ち上げた。



セシル

「――父上。オークを名乗る者が現れました」


「また騙りではあるまいな」


セシル

「その者は知らないようです。私も話していません。単なる偶然かも知れません。真偽はいずれ明らかになるでしょう」


「そうか。わかった」



 王はあまり関心を持たない様子だった。


 セシルは王に頭を下げて、王の部屋を去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ