表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・フェアリー  作者: とらつぐみ
4/196

第1章 最果ての国4

 ミルディは族長の屋敷を後にして、村の様子を見下ろす。族長の屋敷は、丘の一番高いところに作られている。屋敷の庭に立つと、階段状に開墾された村の様子を俯瞰して眺められた。


 戦の後始末はまだまだ終わりそうにない。怪我人の治療。死体の回収。汚れた麦畑の焼却。もくもくと噴き上がる黒煙と一緒に、すすり泣く声が這い上ってくる。村の回復は、まだまだ遠い先のようだ。


 ミルディはそんな様子を俯瞰しながら、考えに沈む。


 しばらくして、ミルディは村へと降りていく。民家が集まる界隈へと入っていく。どの家も崩れて、悲しみが深く感じられた。農作物も家畜も、見るからにひどい痛手を受けていた。誰も族長のミルディに目も向けない。


 ミルディは鍛冶屋の工房を訪ねた。



ミルディ

「火は起こせますか」


鍛冶屋

「戦の間も火は絶やしませんでした。何か仕事を?」


ミルディ

「仲間を連れて戦いへ行きます。上質の剣と盾を人数分」


鍛冶屋

「……了解」



 鍛冶屋はかすかな驚きを浮かべるが、間もなく承知して頭を下げた。


 ミルディは鍛冶屋を後にする。さらに丘を降りていき、畑を横切っていくと、石塚の外縁へと出て行く。そこに小さな森が置かれ、木々の下に墓がいくつも作られていた。


 森は明るい光を射し込ませている。墓は長い木の杭のような形をしていて、それぞれに家紋が掘られていた。雨の後で黒く湿らせていたけど、今は明るい光で煌めき始めていた。


 ミルディは墓場の奥へと進んでいく。数段の階段を登り、その向こうの小道へと入っていく。


 そこに、歴代族長を祀る墓が置かれていた。そんな場所に老婆が1人。



ミルディ

「母上でしたか」


ミルディの母

「あなたですか。ドルイド様との話は終わりましたか」


ミルディ

「戦いへ行きます」


ミルディの母

「戦いは終わらぬものですね」


ミルディ

「終わらせるために戦うのです。妻も、きっと守ってくれます」



 ミルディは墓の前で膝を着き、手を組み合わせる。



ミルディの母

「ミルディ。私には未来は語れないけど、予感はします。とてもよくない予感が……」


ミルディ

「それでも行きます。ネフィリムの襲撃は絶え間なく続くでしょう。この間のような戦が繰り返されれば、村は消耗し、いつか一族は絶えてしまいます」


ミルディの母

「あなたの父親も、戦いました」


ミルディ

「祖父も戦いました。私の代で一族を絶えさせるわけにはいきません」


ミルディの母

「あなたの判断です。そしてあなたは一族の代表。賢明な判断であると信じています」


ミルディ

「必ず戻ります」


ミルディの母

「ええ、必ず」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ