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ロスト・フェアリー  作者: とらつぐみ
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第4章 王の宝7

 トリンはしばらくして眠ってしまった。他の者も眠ってしまっている。オークは1人きりで監視を続ける。


 やがて空が白く霞みはじめる。真っ黒な海が、色を浮かべ始める。霧が出てきて、風景が白く濁り始めた。やがて、海に置かれた点も見えなくなってしまった。


 そんな時、ドンッと遠くで音がした。オークははっと身を乗り出した。


 風が海の上を静かに巡っている。霧が一瞬薄くなる間があった。海上の点が動いていた。しかも数が増えている。大砲を打ち鳴らしていた。



オーク

「敵襲! 船が動いたぞ! 敵襲!」



 オークの声に、守備隊の人達がはっと目を覚ました。全員が一度窓に殺到した。霧でほとんど何も見通せないけど、遠くで大砲の音がするのに事態を察した。


 守備隊の全員が外に飛び出した。岸壁に備え付けられた、対駆逐艦用の砲台に鉛玉を込めて用意する。まだ夜が明けて間もない時間だけど、機敏に動いて速やかに準備を終わらせた。


 滅多にない緊急事態だ。ブリテンがあらゆる外交的手続きを無視して攻撃を仕掛けてきているのだ。この事件の後は、直接的武力衝突も必死……オークはそんな予感もしていた。


 海に霧が深く立ちこめている。肝心の標的が霧に隠れて見えない。オークは見張りの合図を待った。


 しばらくして、霧に船の影が映った。守備隊の隊員に緊張が走る。


 しかし、



オーク

「待て! 攻撃を待て! 味方だ!」



 現れたのはブリテンの船ではなかった。商隊を偽装したガラティアの船だった。船体はすでにかなりの砲弾を浴びてボロボロになり、帆布も散りかけていた。


 ガラティアの船が桟橋に突っ込んだ。板で組まれた桟橋が弾け飛ぶ。衝撃が港全体に広がった。船はようやく停まったが、大きく傾いで、少しずつ水没を始めた。


 守備隊の人達が沈みかけの船に殺到する。乗組員が飛び出してきた。



オーク

「船を乗り捨てろ! 沈むぞ!」



 オークも船に乗り込んだ。だが、まだ船上で積み荷を降ろしている船員たちがいた。



船員

「手伝ってくれ! 積み荷を降ろすんだ!」


オーク

「そんなのは後にしろ! 今すぐに船を下りるんだ!」


船員

「駄目だ。宝があるんだ。王子から命じられた宝が……」



 宝。オークはそれを聞いて、船の中に飛び込んだ。


 船倉へ降りていく。船の中はあちこち穴だらけになり、水が流れ込んできていた。危うげな軋み音が船全体を包んでいる。瓦礫と荷が無秩序に折り重なって、水に浮かんでいた。


 入っていけば、沈みかける船に巻き込まれて戻って来られないかも知れない。しかし船員たちは躊躇わず水の中に入っていった。オークも水の中に潜っていき、件の宝を探した。



船員

「あった! こっちだ! 助けてくれ!」



 船員の1人が声を上げる。オークは船員の許へ急いだ。他の船員たちも集まってきた。


 大きな箱だった。飾りのない鉄の箱で、子供が入れそうなくらいの大きさはあった。だが、重くない。


 オークは船員たちと協力して、宝の箱を水の中から引き上げた。ようやくの思いで、桟橋まで運ぶ。


 船はもはや船と呼べないくらいにズタズタになり、ゆっくりと渦に飲み込まれようとしていた。


 船員たちがぜいぜいと喘いでいる。守備隊の人達も救助で疲れ切っていた。



トリン

「それで、お宝はいったい何だ? 見てみようぜ」


オーク

「そうですね。中身が失われていないか、確かめてみましょう」



 オークは宝箱の前まで進んだ。


 王の宝。噂に語られた宝がいったい何なのか……。


 箱はどっしりとした大きさで、飾りなどはひとつとしてなかったが、蓋に鍵が取り付けられていた。その鍵も、今や壊れてしまっている。


 その容積のせいか、何とも言えない雰囲気をまとっていた。誰もがその中に金銀財宝が詰まっているのを期待した。オークも同じように思っていた。


 オークが蓋に手を掛けた。その瞬間感じたのは、今までにない、ぞっとするような冷気であった。冷たいのではなく、何かとてつもない霊力がそこから溢れ、周囲一帯を包んだようだった。


 オークは箱を、ゆっくりと開けた。


 それを見た瞬間、ぞっと気持ちが昂ぶるのを感じた。見ていた全員が言葉を上げず興奮していた。そうならずにはいられない品だった。



オーク

「これが……王が探し求めたものですか」


船員

「はい。ブリテンに乗り込んで40年。遂に発見しました。現地で倒れた部下たちも、これで報われます」


オーク

「よくぞ見付けました。すぐに王子に連絡を。これを護送するために軍隊を寄越してください」



 オークの指示に、すぐに全員が応じた。伝令が馬に乗って走り、件の箱は厳重な警備の元に運ばれていった。


 オークは箱を見送りながら、敬礼を送った。


 だが状況はこれで終わりではなかった。



見張り

「敵襲! 来るぞ!」



 見張りの警告。振り返ると、いくらか薄くなりかけた霧の向こうに、ブリテンの軍艦の形がくっきりと浮かび上がっていた。今度こそ戦いである。

※ ガラティア 物語中の主要舞台となっている国のこと。現実世界では、チェコとチェコスロバキアあたりに建国されたケルト人の国を指す。新約聖書の『ガリラヤ人の手紙』はガラティアを指す。

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