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ロスト・フェアリー  作者: とらつぐみ
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第14章 最後の戦い13

 森を出ると、ゆるやかな雨が降っていた。空が灰色に沈み、静かな雨を降らせている。季節の変わり目に入り、風がひどく冷たかった。ソフィーはまだ涙が抑えられず、顔を赤くしていた。オークは何も言わず、雨を降らせる空を見ていた。



オーク

「――雨か……。里にいれば、今頃収穫の時期です」


ソフィー

「……まだ、間に合います。麦を刈って種を蒔けば、里はまた生まれ変わります。行きましょう。どこまでもお供します」


オーク

「ソフィー。今までありがとう。ここでお別れです。ここからは私だけで行きます」



 ソフィーはその言葉を理解するまで、ずいぶん時間をかけた。



ソフィー

「……オーク様、何を言っておられるのですか。私、ついていきます。どんな場所にでもあなたの側にいて、お仕えします。だから……」


オーク

「いいえ。もう私1人だけです。……この国は消滅しました。教えも、古里も、全て喪われました。残っているのは、私1人だけです。私の中にある、この王の血だけ。それがこの国に残る唯一のものです」


ソフィー

「それは、……それは私だって同じです。同じケルトの人間です。従れて行ってください。私だって同じ運命を歩みます」


オーク

「あなたの戦いはいま終わりました。あなたが死にに行く必要はありません」


ソフィー

「死にに行くなんて……。死なせません。あなたを救います。どんな場所へ行ってどんな危機に巡り合わせても、あなたを救います! そのためなら、この命いりません!」


オーク

「あなたは貴重なケルトの教えを伝承しています。従れていくわけにはいきません」


ソフィー

「そんな……。そんなの関係ありません! お願いです、オーク様。私に恐れなどありません。もし行く先に闇が口を開いていようとも、あなたのためならいつでも飛び込んでいけます。だから、オーク様……。愛しているの。私を……私を置いて行かないで」



 オークは首を横に振る。



オーク

「あなたは美しい。聡明な方です。私も愛しておりました。しかしあなたが召使いになる必要はありません。もっと気高い幸福を探してください。あなたに相応しい幸福が、必ずあるはずです。――さようなら」



 オークはソフィーに頭を下げると、背を向けて走っていった。雨は急速に勢いを強めていた。



ソフィー

「……オーク様……オーク様! 私はどうすればいいの! こんな場所で、たった1人で置いて行くなんて……。私はどこへ行けばいいの……。私を置いて行かないで……」



 ソフィーは力なく膝をつき、叫ぶように泣き声を上げた。

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