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ロスト・フェアリー  作者: とらつぐみ
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第9章 暗転14

オーク

「ソフィー!」



 オークはソフィーの姿を探して、屋敷の外に飛び出した。


 するとそこに、ソフィーが背中を向けて立っていた。深い緑だったはずのローブが、真っ黒になっていて、闇に溶け込みそうになっていた。



オーク

「ソフィー!」



 オークが駆け寄る。ソフィーの体が崩れた。オークはソフィーの体を抱き留める。



ソフィー

「オーク様……いったい何が」


オーク

「魔物に連れ去られかけたのです」


ソフィー

「えっ? そんな……」


オーク

「無事で良かった……」



 ソフィーの顔に困惑が浮かんだ。オークがソフィーを抱きしめる。


 と、そこに――。



アレス

「オーク殿! 危ない!」



 オークははっと振り返った。ナイフの刃がすぐそこに迫っていた。


 オークはとっさに身を返す。最初の一撃をかわし、剣を抜いた。だが勢いが強く、オークは尻を付いてしまった。


 ソフィーが杖を振りかざす。だが、杖は何の力も宿らなかった。


 そこに、別の裏切り兵士が飛び出してきた。オークの剣が振り落とされる。


 絶体絶命。


 だが裏切り兵士の体が吹っ飛んだ。オークは体を起こした。救ってくれたのはアレスだった。



アレス

「いったい何が起きた! こやつらも悪魔に操られているのか」



 アレスが動揺を込めた怒りの声を上げる。



オーク

「いいえ。しかしどうやら、悪魔に魂を売ったようですね」



 裏切り兵士達が暗がりからぞろぞろと現れる。


 戦いが始まった。同じ紋章を胸に抱いた兵士同士が剣を交える。裏切り兵士達は暗がりの中から、茂みの中から、次々と現れた。いつの間にか、後を尾られていたのだ。



オーク

「走ります! ソフィー!」



 オークは戦いを切り捨てて、走り始めた。アレスや、従う兵士が続いた。裏切り兵士もオークを追いかけた。


 オークは走りながら裏切り兵士と戦った。次々と迫る刃を斬り返し、兵士達を斬り伏せた。その猛襲も、やがて終わった。裏切り兵士達の勢いはようやく途切れて、夜の静寂が戻ってきた。


 馬を留めた場所まで戻ってくると、オークは兵達の中から3人を選抜した。



オーク

「王に報告を。間者が紛れ込んでいます! 王に兵の要請を」


兵士

「はっ!」



 3人の兵士達が、王城に馬首を向けて、走っていった。


 オークとアレスも馬に乗る。



アレス

「我々はどうする?」


オーク

「砦に戻ります。何が起きたか、確かめないとなりません。ソフィー一緒に」


ソフィー

「ええ」



 オークは馬を走らせた。ソフィーやアレス達もオークに続く。間もなく、砦が見えてきた。だが砦は炎に包まれ、戦の物音が夜の闇に散っていた。


 オークは驚きの様子で、砦の前に立ち尽くした。



オーク

「これは……」


アレス

「おのれ……。裏切りはもっとも許せん行為だ! 不実な輩は全部切り捨ててくれる!」



 アレスが砦へと馬を進めた。オークも後に続く。


 砦の中はすでに混乱状態だった。あちこちで戦いが行われている。同じ装束を身にまとった兵士達が、殺し合いを始めている。どちらが味方で、どちらが敵か、判別不能の状態だった。


 アレスは流浪騎士団と合流して、向かってくる裏切り兵士と戦いを始めた。



ルテニー

「オーク!」


オーク

「ルテニー! 状況を」


ルテニー

「見ての通りだ!」


オーク

「退避します! 争うな! 砦の外へ! 退避だ! 私に従う者は従いて来い!」



 オークが砦の中へ入っていき、仲間達に呼びかけた。ソフィーがオークに従いて行く。仲間の兵士がオークの声に応じて集まってくる。


 同時に、裏切り兵士達もオークを狙って飛びついてきた。槍の攻撃がオークを狙う。オークは剣で槍を返し、裏切り兵士を斬りつけた。


 オークは混沌の中へと入っていく。仲間達に戦いの中断を呼びかけ、従いて来るように呼びかけた。


 兵士達が戦いを中断して砦の外へと脱出する。オークは混沌の中へさらに深く分け入っていった。戦いはなかなか収まらない。オークは仲間の全てを救おうと、通りに入っていき、兵士達に呼びかけた。


 が、矢の一撃がオークの背中を貫いた。



ソフィー

「オーク様!」



 ソフィーの悲鳴のような声。


 オークは急に意識が遠ざかり、馬から転げ落ちた。裏切り兵士が殺到してきた。オークは剣を求めたが、見付からなかった。裏切り兵士が接近し、今まさにその刃がオークに振り下ろされる……。

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