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ロスト・フェアリー  作者: とらつぐみ
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第9章 暗転3

 大階段を完全武装したオークが降りていく。その下では、オークの配下が出発の準備を整えて待っている。



セシル

「オーク! もう行くのか」


オーク

「セシル様。先代の王のご命令です。北方の守備は私に託されています」


セシル

「ブリタニアがブリデンの手に落ちたからな。連中の手は、いつこの国に及ぶかわからん」


オーク

「あの戦いから1年……。冬が過ぎて春が巡ってきても、ネフィリムが姿を消さぬ日は来ません。この国に、戦いのない日はありません」


セシル

「暗黒の日々はまだ続いている。私は王だ。しかし未だ目の前の脅威に目を向けられない。国を守りたいと考えていても、手の及ばぬことばかり起きる」


オーク

「セシル様、策謀には慎重に注意してください。あの腹黒い連中の背に国などありません。この国は、セシル様だけが頼りです」


セシル

「……そうだな」


オーク

「私は王の臣子でございます。しかし私の背にも、等しく国の重さを感じています」


セシル

「……ああ」


ウァシオ

「王よ。いつまでもぐずぐずしておられる。先代はもっと早く決断なされましたぞ。あなたはいつまでも女子のようにうじうじなさるつもりですかの」


オーク

「……あの者は、確か」


セシル

「ウァシオだ。1年前の長征で武勲を挙げ、以来城で大きな権限を持つようになった。民から信頼されておる。王とはいえ、迂闊に手を出せん。もう行け。ここは私1人で決着をつける」


オーク

「では――。北方の砦に到着したら、逐一知らせを届けます。必要な時にはいつでも」


セシル

「ああ。3年の任期の終わりに再会しよう」



 セシルが階段を登っていった。セシルはウァシオとともに、城の中へと入っていく。オークはその後ろ姿を見送り、それから大階段を降りていった。


 オークは配下の者達の許へ行き、馬に乗った。オークの号令で王城を後にする。門を潜り、坂道を降りると、城下に50人の兵士が待ち受けていて、そこで合流した。


 兵達の中に、ソフィーの姿もあった。



オーク

「ソフィー。ドルイドの予感は何を告げていますか?」


ソフィー

「何も。私は占いを得意としていません。でも、いい予感はしません」


オーク

「私もです」



 オーク達の部隊はゆっくりと街道を練り歩いた。通りを行く人達は、迷惑顔でオーク達を見送る。


 あれから1年。街の復旧はほとんどまったくと言うほど進んでいなかった。住居の多くは破壊されたままだったし、大通りには血の跡すら残っていた。路地に入れば、いまだに処理されていない死体が放置されている。住居を失った人や、仕事を失った人達が、崩壊したスラムで無気力に過ごしていた。


 1年前、セシルとオークを称えていた人達は、今では一転して、公然と非難するようになっていた。街を歩いていると、指をさし、罵倒する人達もいた。



ソフィー

「オーク様、人はなぜ平和を望まないのでしょう。いつでも手にできるのに」


オーク

「わかりません。望むゆえでしょうか。それとも望まぬゆえでしょうか。その望みすら、誰にも否定できませんから」


ソフィー

「……私は、その……」



 ソフィーは言葉を詰まらせ、顔に暗い影を落とした。



オーク

「行きましょう。いつか自然に笑顔が浮かべられるように」


ソフィー

「……はい」



 やがて大門が見えてきた。そこもあの時のままだった。城壁にできた裂け目もそのままだし、大門も壊れて完全には閉まらなくなっていた。


 オークは大門を潜る時、一度城のほうに目を向けた。夕日がちょうど重なる頃で、城が黒い影になって浮かんでいた。


 オークは隊列を率いて、大門を潜った。それはまるで、追放された兵の列のようで、誰も見送らなかった。

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