2 邪魔をしないで下さい
マコトくんが消えた。
姿だけじゃなくて、みんなの記憶からも。
神隠しにあったみたいに存在自体が消えてしまった。
そんなのってない!
そんなのってないよ! 納得出来ないよ!!
「結論から言うぞ」
マコトくんが消えた、と私が叫んだせいで授業は自習になった。
先生は色々調べる為に出て行き、私は先生の教務準備室で待たされる事になった。
それから1時間。短いような長いような待ち時間の後、先生が教務準備室へやってきた。
「あいつが墜ちたことは確認されたが、助けにいくのはなしだ」
どうして。人が一人消えたのに。
「あいつはただ墜ちた訳じゃない」
この世界は特殊で、時々穴が開く。その穴に吸い込まれて異世界に行ってしまう事を『墜ちる』という。
カノ先生は、その『墜ちる』現象を研究するうちに異世界召喚のスペシャリストになった人だ。
だからその言葉は重い。
「何か召喚に巻き込まれた疑いが強い」
「巻き込まれたんだとして、どうして助けに行ったらダメなんですか」
「あいつだけ力技で呼ばれた世界から引っこ抜くと、本来召喚された相手の帰還条件が崩れて、帰還出来なくなる恐れがある」
それは、拙いだろ、とカノ先生は言った。
消えたマコトの事を心配しているお前なら、その誰かを心配する誰かの気持ちも分かるだろ、と。
感情だけで、誰かの人生をダメにする訳にはいかないだろ、と。
そうだね。先生は正しい。でも。
「つまり、マコトくんだけじゃなく、召喚された人も助ければいいんですよね」
「それだけじゃない。この件はイレギュラーだ。下手に手を出すと異世界間のバランスを崩す恐れもある。いま調査チームを作って原因を調べているところだ」
この件は俺が預かる、責任をもってあいつを連れ戻すと約束するから、と先生は言う。
うん、そうだよね。先生の立場なら、そう言うしかないよね。
例え、召喚に巻き込まれたマコトくんがひどく危険な立場にあるだろうと予想出来ても。
マコトくんより、世界のバランスの方が大事。
それはなにより『正しい』。
でも。
それは。
「あなた方の事情ですよね?」
意識が切り替わる。クリアになる。ただの学生のマナじゃなくなる。『私』が出てくる。
「おい! 待て、マナ!!」
不自然に風が渦巻き、身体を覆った。力が漲っている。
「おい! 待て待て待て待て!!! 誤解するな! 早まるな!!
あいつを見捨てるわけじゃない。話を聞け!!!!」
慌てる先生に、にこりと笑いかける。
「マコトを無事に助けたら、私もあなた方に協力します」
だから。
『邪魔をするな』と囁いて、マコトの墜ちた先へ飛んだ。