奈落の先にて-Hayato Side-
体が冷たい。
極端にというわけではないが、程よく冷えている。
原因は周りを満たしている水だろう。
しかし、ただの水かを確認することは出来ない。
普段であればありえないのだが、この心地よさが目を開けると終わってしまいそうで目を開けることができなかったのだ。
しかし――
「ん? もしかして、気づいた?」
ふと、正面からそんな声が聞こえた。
静かで無表情に放つような声が聞こえた。
仕方なく目を開けてみる。
そこには、黒い髪に和らいだ目をした人形のような少女が、青白い小さな光球に照らされた長い髪を垂らして俺の顔を覗きこんでいた――膝枕をしながら。
「なんで俺は、水に浸かりながら膝枕されてるんだ?」
俺の問に彼女うは不思議そうな顔をしつつ
「看病してたから」
と言ってのけた。
「なら、普通水から上げないか? なんで、水の中に入れっぱなんだよ」
「ここの水はただの水じゃない。治癒の効果の宿った水。傷だらけの貴方を看病するならここの水に付けておいた方がいい。膝枕をしているのは溺れないように頭の位置を高くするため。あと、貴方の寝顔が可愛かったから」
「それが本音か……」
「うん」
ツッコミに対して笑顔で返されてしまったが、やはり状況は読めなかった。
「『なんで、俺はここにいるのだろう』って顔してる」
多少は驚きつつ聞く。
「「そんなに俺はわかりやすいか?」」
ふふん♪ と得意げな彼女。
「まぁ、多分、他の人ならわからないよ。貴方をよっぽど見てない限り。私は天才だから」
「自分で自分を天才とか普通言うか?」
「テンプレ回答乙(笑)」
「言わせたのお前だろ!」
そんなやり取りをしつつ俺達は――
「俺は佐久間隼人だ」
「私はミツキ・ルー・ケーマ」
不思議な力を宿した泉で出会った。
「さて、状況は理解したが結局ここは何処なんだ?」
「ここはウィアオーナ地方の地下に広がる大空洞」
「うぃ、ウィアオーナ地方?」
「? もしかして、わからない? 隼人は馬鹿なの?」
「断じて違う。俺は異世界から呼び出されて来たんだ。知るわけないだろ」
「異世界から……そんなことが出来るのはアステカン地方の祭殿だけのはず。隣接してるけど随分と流されてる」
「あっそ。まぁ、戻る気ないし関係ない。今後の予定だけ考えよう」
「え? 一緒に来るの?」
「ダメか?」
「ダメじゃないけどなんで?」
「魔法の使い方も分からないのに一人でいたら直ぐ死ぬだろ」
「なるほど」
一応は納得したらしい。
「私はこの先にある古代遺跡の調査をする。ただ、魔獣が沢山いるから危険。それでも付いて来る?」
「当然」
そんなこんなで奇妙な二人組の誕生だった。
本日(2015/08/01)19時に「奈落の先にて-Mituki Side-」を投稿しますのでよろしくお願いします。