日常の崩壊
朝起きて、学校に向かい、授業を受け、家に帰って寝る。
高校生なら誰もが送る日常の基本骨格。
誰も疑いはしないだろう。
現に俺もいつも通りとは少し違うが、基本骨格に沿った日常を送っていた。
自分で言うのも何だが、昔から大抵のことはやれば出来た。
今では定期試験成績が1位で運動神経抜群の生徒として、有名となってしまった。
しかし、同時に嫌われてもいた。
最初こそ対抗心を燃やして挑んできた連中も、今ではただただ陰で悪口を言っているだけという有り様。
それもそのはず、幾ら頑張っても追いつくことすら許されず、本人は勝ち誇ることもなく、まるで馬鹿にされているようだったからだ。
今日も冷たい視線が飛んでくる。陰でヒソヒソされる。
それでも、俺は無視していた。
強がっているわけではなく、彼らの行動と感情のことなど心底どうでもよかっただけだ。
だが、彼らの行動にはもう一つ原因があった。
「佐久間くん、おはよう」
語尾にビックリマークが付くか付かないかの絶妙な力加減で元気よく挨拶してくる少女。
少女の名前は桐野紗耶香。
学園で”恋人にしたいランキング”1位を2年連続で獲得している所謂、学園の姫といったところだ。
桐野が自ら挨拶する相手は友人や幼馴染、それと俺だけだった。
そのことが彼らを余計に刺激しているのは誰の目から見ても明らかだった。
何回か桐野の幼馴染(約一名除く)に頭を下げられるレベルで……
いつも通りの朝を迎え、朝のホームルームが始まる。
しかし、いつもの時間に先生が来ない。
新米教師であるために時間ピッタリに来る先生が来ないのは珍しいことだった。
しばらくして、教室のドアが開く。
そこには真っ青な顔をした先生の姿があった。
「今日は皆さんに重要なお話があります」
何やら深刻なことは全員が察した。
いつもなら茶々を入れる者も今日ばかりはそんなことをしなかった。
先生は言葉を続ける。
「このクラスの生徒。黛宏大くんと鳩羽静寂さんが行方不明になりました」
生徒は困惑する。
誰かがポツリと
「先生? 行方不明って誘拐か何か事件に巻き込まれたということですか?」
質問はまっとうだった。
いきなり行方不明と聞かされても当然誰も理解することなど出来ない。
もっと詳しい説明を――というのは当たり前のことだった。
「詳しいことはまだ分かっていません。ただ、当校の生徒を狙った誘拐事件の可能性もあるということですので全員最善の注意を払って生活してください」
というのが1日目だった。
そして、5日目――
「遂に先生も行方不明か」
あの日以来、続々と行方不明者が増え、遂には担任まで行方不明という事態に陥っていた。
「おい、佐久間! 人事かよ!! いつもいつもスカしやがって!」
どうやら、俺の態度が気に入らなかったらしい。
彼、倉坂赤斗の桐野を含める幼馴染達は既に行方不明になっている。
もともと、持っている俺に対しての嫌悪感(嫉妬?)が、クラスメイトや友人たちが次々と行方不明になるという普通じゃない状況にパニックを起こして増長して降りかかってきた。
こちらからすれば迷惑極まりない。
「別にスカしてなんかいないさ。ただ、間違いなく俺らも行方不明というか神隠しに合うだろうな」
そして、それは現実となる。
教室に現れた魔法陣は教室一杯に広がり――
まとめて彼らを転移させた。
いつの間にか気を失っていたらしい俺は目を開いた。
見られない天井に見られない保険医(?)。
それと、行方不明になっていたはずの面々がそこにはいた。
「無事、佐久間隼人の召喚も成功しました。体の異常もありません」
とは、保険医の話だ。
その後、先に来ていた担任から事情は聞いた。
曰く、この世界は異世界であること。
そして、魔法と呼べる異能の力が当たり前のように存在していることを聞かされた。
ただ、魔法の発現には個人差があるらしい。
つまり、今の俺はただの人間ということだ。
クラスメイトの中には全員ではないにしろ幾人か魔法の発現が済んでいる者もいるという。
直ぐにどうこうということはないだろうが、ようやく俺に勝てるものが出来たのだ。
はっきり言って何されるか分からない。
現にこの話を担任から聞かされている間、勝ち誇ったようにこっちを見ているメンツがいたし、その中には特に俺を毛嫌いしていた奴もいた。
ただでさえ、異世界と聞かされて混乱しているというのに、彼らの警戒もしないといけないと思うと心労が絶えないな……と素で感じた。
誤字、脱字は随時修正しますのでご連絡ください。
次回「魔法の発現」は2015/07/25の土曜日18時更新です。