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捕らわれ姫様救うため  作者: アト
1/1

約束

金属の擦れるおとが城下町の広場に響いた。

その音は間髪なく続き、観衆が見守るなか目にも止まらぬ早さで剣撃が合わさることでおこっている。

普通の試合ならば観衆からのヤジも飛んだであろう。しかし今見せられているのはトゥール国でも五本の指に入る剣の名手、つまり五剣帝の一人ロドウィーゴが剣を振るう姿である。ロドと呼ばれ民からも貴族からも慕われる彼であったが、一度剣を手に戦いがはじまると戦いの心得があるものはその実力に圧倒され、平民でさえも息を呑んで静観していた。

ロドが使う剣はトゥ・ハンド・ソードという両手剣で、180はあるロドの身長よりも頭ひとつ大きい。それを苦もなく振り回し、当たればそこらの兵がつける鎧などものともしない威力を持つ。

しかし当たらなければ意味はないとはよくいったもので対戦相手は華麗にバスタード・ソードを扱いかわしている。

かわされたロドの剣は地面を抉り、すぐさま切り上げられる。相手は後方に一回転して避けるが追撃に徐々に防戦一方となっていった。


「ラフ! どうした。こんなことでは私は倒せんぞっ!」

挑発するような言葉と共に振り払うように繰り出された剣にラフと呼ばれた対戦相手は防いだものの威力を流しきれずに吹き飛ばされた。

すぐに立ち上がり構えるも表情はひきつっている。

「これでも精進しているのですがね」


会話が交わされた間に観衆は沸き立つ。互いの技量や名声からロドの優勢は皆が疑っていなかったがそれでも五剣帝ではない誰かが相手になかなか戦えているという事実に驚嘆したからだった。

前回、前々回と他の五剣帝と名のある傭兵や剣士が対戦したのだか五分と持たなかったのだ。


とはいえ、ロドとラフ達は決着をつけようものなら五分とかからずつけられていたが相手実力を腕に感じさせるため、そして民の楽しみのために遊んでいたようなものだった。周りから見れば真剣そのものにうつったであろうが。



「そろそろ決めさせてもらうぜ」

ロドがそういってまもなく、五剣帝の剣戯会は終わりを迎えた。




スロルレイン国。数ヵ月に一度行われる剣戯会が広場で終わったあと、ラフは城へ足を運んでいた。

ブリオーに着替え、王国剣士、五剣帝の副官である証の太陽をモチーフにした首飾りをして城内を歩く。

その足取りは軽く、迷うことなく進んでいく。いつものように衛兵に王女様の許可証を見せ、帯刀していたモノを預け、リラックスした微笑みを浮かべて温室へと踏み入れた。

ラフはわざとそこから気配を消して慎重になる。

そして王女が育てる甘い果実がなる植物の影に身を潜めた。

王女様はそんなこととは露知らず、自分の空間に身を預け、紅茶をすする。座る椅子は真っ白なもので、貴族達が好む宝石をちりばめたものではない。服も髪飾りでさえも控えめな装飾であり、それがいっそう王女様を引き立てた。

少しカールのかかった青髪を撫でると紅茶をおき、息をつく。絵になるその姿に魅入られるものは少なくない。

ふぁ、と小さくアクビとのびをした。このままでは寝入ると思ったラフは観察をやめて王女様の前に現れた。

「フィオレンティーナ様」

かけられた声に肩がわずかにはね、力の抜けた表情を見せた王女様だが、次の瞬間には満面の笑みをうかべて声の主へむけた。

「ラフ、剣戯会お疲れさまでした。大変良い試合だったようですね」

「ええ、ありがとうございます。まあ負けましたが」

そう言いながらラフは王女様がとるより先に紅茶をとり注いだ。自分の分も入れて対面に座ると王女様がやっていたように息をついた。

「おいしいですね。いつもよりやさしい味がします」

その言葉に王女様ははにかむ。

「うふふ、その紅茶、ここで育てた茶葉を使っているのよ」

どうりで優しい香りがすると思いました。と言うラフに頬がさらにゆるんだ。



「フィーナ」

喜ぶ王女様にそう呼ぶ。

「ラフ、久しぶりによんでくれたわね」

驚いたような顔をし、悲しさを次第に含む。

フィーナとラフは幼いときから王女様とその遊び相手であった。

それはフィーナが城下町で迷子になったのを平民のラフがたまたま見つけ、一緒に遊んだことにより気に入られて遊び相手として雇われた。

身寄りがなかったラフは教会から今の五剣帝ロドに引き取られてフィーナの遊び相手、はたまた剣の腕を磨く兵として過ごしていた。

そうした生活の中でラフも戦いに出ることになっていきフィーナと一平民である自分が遊び相手としてふさわしくないと思い始めたラフは自ら距離を取っていったのだった。

距離をとったといってもふたりがあうことはフィーナが望んだため続いていた。国王から直接言われたとなると断りはできずラフも距離を取りつづけはできなかったのだ。

もちろん関わることがまずいとわかっていても、本心はフィーナとの関係をおわせたくなかったので内心喜んでいたがけじめとして呼び方や話し方だけは統一させていただけのこと。

その呼び方を戻したのはフィーナが何を言おうか察してのことだった。

「ラフ、約束おぼえてる?」

「ああ、でもまだだ。果たせない」

「どうして!私はもう」

続きを言う前にラフが立ち上がり答えた。

「俺がまだなんだ。……フィオレンティーナ様、お茶ご馳走さまでした」


ラフはまた来たときと同じように王女様相手の振る舞いをして温室をあとにした。

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