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異世界召喚×魔族少女  作者: 古川一樹
変身と師匠
9/35

それは泡沫の夢

心ここにあらずといった様子で佇むエリルに俺は叫ぶ。


「エリル!」


「う、うん。私が3人やるから残りはお願い」


俺は頷きつつ、前方の剣と盾を装備した2人の騎士を見据えながら近づく。

この状況を打破しないとまずい。

圧倒的に数で劣るこちらが不利だ。


刀に片手を添えて居合の型を取る。

相手の不意をつくならこの技以外に適当な技を俺は知らない。

まずは数を減らすことが重要だ。


俺の構えに左側の男は警戒したようでこちらの様子を伺っている。

もう1人はよほど自分の腕に自信があるのか、ただの馬鹿なのか。

一直線に突っ込んできた。


徐々に俺の間合いに近づいてくる。

まだ遠い。

まだだ。






今だ!

抜刀すると同時に相手に切りかかった。

男は一瞬驚くような素振りを見せた後、盾で防いできた。


金属がぶつかり合う甲高い音が森に響き渡る。

俺は盾にはじかれ後ずさる。

男の方は俺の初撃を潰せたとニヤリと笑みを浮かべ、

もう片方の手にある剣を俺に切りつけようと振りかぶる。


相手は俺が後ずさった隙を狙ったつもりだろうがあれはわざとだ。

男が攻撃する瞬間こそ俺にとって絶好の好機なのだ。

なぜなら、絶対的な隙を見た相手は大技をけしかけてくる可能性が高い。

大技ってのは大抵隙も大きいからこちらとしては反撃のチャンスである。

特にこの男は直情的なタイプのようだし高確率で大技とくるだろうと踏んでいたがビンゴのようだ。

今男が放とうとしている技も懐の守りが疎かになるようで、腹のあたりががら空きだ。


この機を逃すものかと、俺は居合の神髄である二撃目の最高速の斬撃を男の肩口から腹にかけて切りつける。

気功で強化した刀は甲冑をバターを切るかの如く切り裂く。


「くそがあああああああ」


男の苦悶の声が聞こえる。男は膝をつき一瞬痛みに顔を顰めた、その隙に俺は首を刎ねた。


次は背後で俺たちの戦闘を観察していた男だ。

この男は俺が仲間の1人を倒した技を見てより警戒した様子である。


再度居合の型を取る。相手が警戒している技を敢えて使う事にした。

おそらく先ほどの戦いで居合は見切られた可能性が高い。


相手の初手は2択。

1つは魔法等による遠距離攻撃。2つ目は接敵して俺の居合をすべてかわし攻撃する。

おそらく、慎重な男の性格からして前者の魔法攻撃の可能性が高い。

おそらく居合は躱されるだろうが相手の接敵を待っていれば後手に回ってしまう。

魔法攻撃の可能性。居合を見切られた後の反撃。危険極まりない。


となると走り抜けつつ居合で攻撃するのがベストだろう。

こちらか先手を取り予期した反撃であれば対処のしようはいくらでもある。


俺は居合の型を維持しながら走る。

相手もある程度予想していたようで真剣な面持ちで剣を構えている。


間合いに入り俺は居合の初撃を放つ。

男は後方へ飛びのき難なく躱す。


ならばと二撃目の最速の攻撃を与えるべく上段から下段へと刀を振り下ろす。

男はこの攻撃も身を翻して避けた。


男は俺の攻撃を全て凌ぎ、ここぞとばかりに反撃の一撃を加えようと剣を構えた。

横薙ぎに一閃、男の攻撃が迫り来る。

剣を振り下ろした直後の硬直を狙らわれ避けられそうになかった。


「"気焔波"」


気焔波は自身を中心に気を放出させて10m範囲の物体を吹き飛ばす技だ。

この技を目の前の男に向けて全力で使った。

アンバートンを出る時に騎士団の男が使っていた、懐に潜り込んだ敵を排除する技の真似だ。

男はぎょっとした顔をした後、気の放出によって後ずさる。


思ったよりも距離をとれなかったが、数歩でも下がってくれれば十分だ。

なぜならこの間合いなら気功破の射程範囲、俺の全力で攻撃ができる。

直接気功破を放ってもおそらく躱されるのは明白だ。居合を躱せるほどの力量なのだから。


ならば一歩踏み出し間合いを詰めると、左手を鞘に添えて振り下ろしていた刀を右手で握り横薙ぎの一閃をお見舞いする。

右下段から左中段へと刀を振るう。

もちろん男は平然と盾で防いだ。


男は右上段から中段にかけて鋭く剣を振るい反撃してくる。

俺はすかさず刀で男の斬撃に応戦するべく、右足を一歩踏み出し右上段へ刀を移動する。


片手で相手の力を抑えるには限界がある。

よって男の攻撃を完全に防ぐことはできない。

でも俺には作戦があった。左手にある鞘を握りしめ気を込める。

これでちょっとした鈍器並の威力になるはずだ。


鞘を刀のように見立て逆手持ちの要領で構えた。

そして踏み出した右足を軸にして左足を180°弧を描くように移動する。

自身の背を相手に見る形となると同時に左手で背後の男の左手の肘を狙い撃つ。

いくら甲冑といえど可動域である関節の守りは弱いからだ。


俺の思惑通り男の肘を鞘が突く。

すると男は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ盾を落とした。

俺は回転した際に前方に出た左足を軸に相手の方に振り返ると、

素早く拳を相手の腹に撃ち込んだ。


「"気功破"」


どさっという音と共に男は崩れ落ちた。


俺の方は片付いた。エリルの方は大丈夫だろうか?

彼女の方を見ると、今まさに2人目の騎士にトドメを指していた。

どうやらエリルは無事なようでほっと胸を撫で下ろす。


(はっ? もう1人はどこに?)


周囲を見るとエリルから少し離れた所に本を持った男が魔法の詠唱を行っている。

男の視線の先にはエリルがいた。

まずい…… 彼女はまだ魔法を詠唱している男には気が付いていないようだ。


「エリル危ない!」


俺は咄嗟に右手を突き出し気功砲を放った。

気弾は魔法詠唱中の無防備な魔法使いにぶつかり倒れると同時に―――――――


「うおおおお」


青薔薇騎士団隊長の"ハンス"が雄叫びとともに俺に接近する。

2m以上あるのではないかと思うほど巨大な剣を技後硬直中の俺に振り下ろす。


(くそっ、ただ観戦してるのかと思ったらこちらの決定的なスキを狙ってたのか)


「"エアーシールド"」


やばいとハンスの剣が振り下ろされるのをただ眺めていると風の盾が出現する。

どうやらエリルが助けてくれたみたいだ。


距離を取りながらエリルと目配せしたのち俺はハンスと相対する。


そう、残りの敵はハンスと異様なオーラを放つ魔法使いの2人のみだ。

俺がハンスをエリルが魔法使いの男をやることになった。


一合二合と剣を打ち合わせる。

重い。重いすぎる。

身長差から俺は振り下ろされた攻撃を防ぐ必要がある。

だが刀を振り上げ防ごうにも相手の力と剣の重さが半端じゃない。

受け流す事で精一杯だ。


剣を交えるたび俺はかすり傷を負っていく。

腕に、足に、胸にとダメージが蓄積する。


(どうする? どうすればいい、このおっさん強すぎる)


防戦一方で打開策も浮かばない、いや考える余裕もない。

一撃ずつ確実に避けていくが腕が重く痺れてきた。


ふと攻撃が一瞬止んだ、少し腕を休めようと力を抜く。

するとハンスは今までが本気ではなかったと言わんばかりに、

今までより多くの魔力を込めた剣を振るう。


先ほどとは断然に早く鋭い攻撃に、ついに刀を大きく弾かれてしまった。

頭から警告音が聞こえる。やばいこのままだと殺されると――

反射的に飛びのいたが、ハンスの一太刀が大きく肩口から腹にかけて切り付けられる。


「ぐあ」


血飛沫が飛ぶ。

切られた部分が熱を帯び、痛みが脳を焼き付けるようだ。


一瞬の苦痛に身悶え足が止まる。

その瞬間を狙いハンスは刀の柄で俺の腹を突く。


すかさず後ろに飛びずさりつつ、巫術気功の気を腹の防御に集中する。


「がは、ゴホッ」


ダメージで咳き込む俺は血を吐き出す。

そこにハンスはトドメを指しにきた。







だが、ハンスの剣は俺の首すんでの所で止まる。

俺は男を見上げると何とも言えない悲壮な表情をした男がぷるぷると震えていた。


「いやだ、こんな…… 、俺は正義の・・・」


(なんだ?)


間違いなく奴は俺より格上の相手だ。

罠か?

なんだかよくわからないが相手が躊躇ってくれているなら千載一遇のチャンスだ。


俺は体勢を立て直し刀を拾い上段に構えなおす。

そして相手の心臓目がけて渾身の力で突いた。


しかしハンスは一瞬の躊躇いを撃ち払うかの如く、

どす黒いオーラとでも呼ぶべき物を纏い始めた。

するとさっきまでの悲しそうな顔は消え失せ、無表情の男がそこに立っていた。


ハンスは俺の突きを咄嗟に避ける。

このままでは攻撃を与えられない、俺は刀の軌道を咄嗟に変えてハンスの腹のあたりを狙った。


ようやく俺は初撃を与えることができた。

刃の半分くらいがハンスの腹に食い込み赤い滴が滴る。


「グガガ・・・」


人間が発するような声ではないような音を発する。

俺はこの不気味で異様に強い男に警戒しながら刀を引き抜く。


が、刀は抜けなかった。

逡巡した俺はハンスに蹴りを入れて剣を抜こうとするがビクともしない。

戸惑っている隙に左手に持っていた盾を右から左へと叩き付けてきた。


俺は右腕から盾という名の鈍器の攻撃をモロに受けてしまう。

後方に吹き飛ばされ、地面に転がった。


「ぐ、ああああああああああああああああ」


激痛が右腕を襲い、視界がぐしゃりと歪む。

すぐに治癒気功で痛みを緩和するも腕はぶらんと垂れ下がっていた。

ハンスは腹に刀を突き刺されたままこちらに迫りくる。


脂汗が止まらない。

このままではどう足掻いても勝てない。

そう悟ってしまう。


死を待つ囚人のような心境だ。

死の恐怖に震えた足が言うことを聞かない。


ふと近くで魔法がぶつかり合っているのを感じる。

苦戦しているのだろうか?


(エリルがまだ戦っているんだ。俺がここで負けたらどうなる?

この化け物をエリルに差し向けてしまうことになる。

エリルといえどあの魔法使いとこいつを同時に相手にしたら……

それだけは阻止しないと。

大切な人が必死に戦ってるのに俺は戦いを放棄するのか!)


右腕を抑えながら自身を奮い立たせて立ち上がる。


「うおおおおお。負けてたまるか。お前に勝ってエリルを守るんだ!!」


地面に血が滴る。

息も絶え絶えになりながら考える。

何かないかとハンスを凝視すると1つ妙案が浮かんだ。


おそらく今の俺では奴にこれ以上のダメージは与えられない。

しかも身体の動きも当初より鈍くなっているだろう。

唯一思いついたのはダメージ覚悟の特攻。

おそらくこの攻撃の後俺は……


「すぅー、はぁーーー」


深呼吸をして覚悟を決める。

俺は一呼吸の内にハンスの懐に入り込むと大きく振りかぶり左手で掌底を打ち込む。

そう腹に刺さったままの刀に向けて。


「ぐ、、」


苦痛に顔を歪めたハンスはすぐに俺に反撃を仕掛けてきた。

剣の柄の部分を鳩尾を狙って迫る。


俺は残っている気功全てを注ぎ込み。


「"気功破"」


俺の持つ技で最強の"気功破"を最大出力で放った。

ハンスは後ろに吹き飛ばされる。

まさかノーダメージで行けるとは思わなかった。


「やったか?」


「うあ、てめぇ、ぐ……」


ハンスは数10m程後ろに飛ばされ木に身体を打ち付けて止まった。

巨体のぶつかった木は音を立てて幹の中ほどから折れてしまう。

腹を抑えながらゆっくりと立ちあがった男は一瞬頭を押さえてえずく。


先ほどまでの化け物じみたどす黒いオーラは薄くなり、

千鳥足でこちらへ一歩ずつゆっくりと近づく。

その顔はどこか憔悴したような顔だった。


(俺の攻撃が効いたみたいだな、でもあれ喰らってまだ動けるのかよ)


「そ…… こ、の子。どう、か、おれを、ころして、くれ」


(今なんて言った? 聞き間違いか?)


俺は驚愕する。

この男は二重人格なのか?

さっきも俺を殺そうとして躊躇っていた。


「おれ、は"クヴァナ"に、、あやつら、ぐぎぃ。

はやく、オレヲ……」


ハンスは頭を押さえ、ついに口を動かしているものの声を発しなくなった。

男は震える手でゆっくりと剣を投げ捨て、左手の盾も地面に落とす。

まるで何かに操られる身体を必死に制御して武器を捨てているようだった。


最後に左手でゆっくりと俺の刀を握り腹から取り出そうとしている。

しかし右手がそれを阻止する。

傍から見れば1人で自身の腹の刀を抜いたり刺したりしてる様に見える。


「グガガガアガガガガ」


ハンスは一際大きな咆哮が響き渡ると同時に刀が俺の足元に転がった。

すかさず俺は刀を握り構える。


ハンスの内にある凶悪なオーラとでも言うべきものが膨れ上がる。

瞳から色がなくなり顔は人形のように無表情になった。


俺は思う、彼の言った事の真偽はどうでもいい。

自分が今すべきことはこいつを倒すことだ。

武器を放棄した敵を攻撃しない手はない。


ハンスという男が言っている事はおそらく正しい。

エリルも人を操る魔法があると言っていたし、

何よりもこの男の二重人格のような振る舞い。

戦闘中の黒いオーラの増減など操られている可能性も大いにあり得る。

でも敵の事など深く考えてもしょうがないのだ。

俺は今命を刈り取る勝負をしているのだから。

隙を作った方が死ぬのだ。


「すまない」


覚悟を決めると短く謝罪をして、俺は刀でハンスに切りかかった。


「■■■■■■■」


人の言葉ではない何かを叫びながら血をまき散らす。

それでも倒れない男に俺はその場でジャンプをして相手の首を狙い刀で刎ねた。

首が地面に落ちて転がる。

遅れて胴体が崩れ落ちた。


勝利したのだと安堵する一方で歯に物が詰まったようなやり切れない思いも残った。

ホッとしたのも束の間、足ががくんと力が抜けて跪く。


どうやら相当ダメージが大きかったようで、

もう刀を地面に突き立て杖にしなければ歩けない。

それでも歩く、エリルが心配だ。


森の中で一際大きな光と音がぶつかる場所があった。

おそらくそこにエリルはいる。

たたらを踏みながらも必死に進む。


徐々に音が大きくなるのを感じる。

目の前の大木の幹に寄りかかりながらその先へと向かう。


「はぁはぁはぁ」


そこには息を切らせながら、右腕を抑え足を怪我しているのか地面に座り込むエリルがいた。

彼女の視線の先には魔法使いの男が湯気のようなものを出して倒れている。

どうやら戦闘は終了しているようだった。


「エリルー、大丈夫?」


「はぁ、あっ、孝也。ってひどい怪我じゃない!」


エリルは自身の武器である杖を支えに立ち上がり右足を引きずりながらこちらに歩み寄る。


「今治してあげるから、まってて」


少しよろめきながらも俺ほど傷もひどくないようで表情は和やかだった。

だが俺は見てしまったのだ――――


背後に倒れた男が手掌をエリルに向けているのを。

咄嗟にエリルを庇おうと足に力を込めたが、うまく力は入らずバランスを崩した。


「エリル危ない!!!!」


ありったけの力を込めて喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。

エリルは少し動揺するような素振りを見せ、後ろに振り返ると同時に光魔法の矢を発射した。


それとほぼ同時だっただろうか?

魔法使いの男が不敵な笑みを浮かべ掠れたガラガラ声で叫んだ。


存在消滅ゼーレ・エタンドル


エリルに暗黒のオーラが襲う。

高速で移動するそれに彼女は動けない。


俺の世界の時間がスローになるような気がした。

もし足を怪我していなかったら避けれただろうか。

でも前にエリルが言っていた、あれは避けられない故に禁呪と言うのだと。


(くそっ! 動け俺の脚。寝転がってる場合じゃないだろう!!

たのむ…… 動いてくれ……)


必死に刀を支えに立ち上がり前に進む。

エリルとの距離が遠く感じる。

あと少しと1歩ずつ進がが到底間に合いそうにない。

諦めたくないそんな思いが無理だとわかっていても歩みを止められない。


「きゃあああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


甲高い絶叫が木霊する。

エリルに禁呪が直撃し崩れ落ちた。


「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


エリルの近くまで近寄ると魔法使いの男を見た。

男は心臓に光の矢を受けながらも平然と立ち上ろうとしている。


俺は残った力を振り絞り気で強化した刀を投擲する。

刀はのろのろと立ち上がる魔法使いの頭に直撃し貫通した。

男はようやく倒れた。


それを確認して崩れ落ちる様に力が抜けた、

もう歩けそうにないので地面を這いつくばってエリルの元へ向かう。


エリルの元に行き、抱き寄せる。

彼女の身体からは光の粒子が泡のように、1つまた1つと空へ舞い上がっては消えていく。


「な、何か止める方法はないのエリル」


「うんうん」と首を横に振るエリル。


「だ、だいじょう、ぶ。俺が治す魔法を探してみせるよ。

きっとある、治らないものなんてないよ。

こんな魔法なんていうとんでもない物がある世界なんだから」


無言で首を振るエリル。

俺の瞳からは涙が零れて止まらない。

また一緒に話をしたり旅をしたり魔法ももっといっぱい教えてもらいたい。


何より俺の好きな人をこのまま失いたくない!

でも術がない。

なんて俺は無力なんだ。魔法を覚え気功を習得しても何もできないじゃないか!


俺が強ければハンスを倒しても余力があれば魔法使いの不意打ちにも対処できた。

俺が声をかけなければエリルは油断しなかったのではないだろうか?


俺が自責の念に苛まれていると。


「ねぇ、これ」


俺の左腕をエリルは強く掴む。

痛みなどない、彼女のぬくもりをただ感じる。

するとエリルの腕に巻き付いていたリボンが俺の左腕に引っ付いた。

手首のあたりでリボンが結ばれ、赤い布のあまりが風に踊る。


「リボンを付けるとますます女の子っぽいね」


くすくすと笑う。

俺に自分を責めて思いつめるなと言いたいようなそんな様子でエリルは明るく振る舞う。


「"リボンを操る力"《リュバンハントハーベン》きっと役に立つと思うから使ってね」


受け取れないと言おうと思い踏みとどまる。

エリルの目がしっかりとこちらを見据えて受け取れと言わんばかりに強く見つめていた。


「うん、あぃが、とぅ」


泣きながらむせ返った俺は言葉に詰まりながらもお礼を言う。

俺は遠距離攻撃に弱い、このリボンの力なら気功砲が届かない遠くいる敵に使えるだろう。


「本当は、"サイコメトリー" 読心術を、渡せればよかったんだけど、ね」


極めて明るく接する彼女に対して俺は何ができるのだろう。


「おれ〝だぃじにすう」


徐々にエリルの身体が薄く透き通り始めた。

もう少しの猶予はないと光の粒子が大量に宙を舞う。


「たかや、さいごに、ちょ、と近くまでき、て」


俺は素直にエリルのそばに寄り、

徐々に小声になった彼女の言葉を少しでも多く聞くため顔を近づける。


すると―――――――――――――――――


暖かいものが唇に触れた。

一瞬驚き目を見開く俺の目の前に涙に頬を濡らしたエリルの顔が映った。

俺の頬をその白魚のような手でそっと触れながら唇を重ね合う。


「たか、や、すき、だた。

わた、すきで、いてくれ、て、あり、がと」


「おれも―――――――――――――」


皆まで伝える前に頬を触れていた手がガクンと垂れ下がる。

そしてエリルは光の泡沫となって消えた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


いつの間にか雨が降り出していたのか。

空を轟音が切り裂き滴が身体を濡らす。

風はごうごうと鳴り響く。


俺の手にはもう何もない。虚空を抱きかかえたままその場で泣き崩れた。


最後までお読み頂きありがとうございます。

よろしければ次回もご覧頂ければと思います。

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