魔物との初戦
クワナ村逃走劇から数日が経った。
あれから俺たちの仲は以前より深まったように思う。
「ルー、ナ、何してるの?」
「うぁあ! エリル、急に抱き着かないで」
「急じゃなかったら抱き着いてもいいの?」
エリルは抱きしめる腕の力を少し強くして微笑みながら言った。
「エリルに教えてもらった本を読んでいたんだよ。
『秘伝・気功術』ってやつ」
「あー、話題変えた。でも否定しないってことは抱き着かれるのは嫌じゃないんだ」
なぜそんな本を読んでいるかって?
孝也でも"気功術"は使えたからさ。
気功術とは自己の内と外にある気を用いる戦闘術のことらしい。
ともかく魔法の使えない俺にとって気功は希望だ。
少しでも時間があれば気功を学びたい。
ルナ方はと言うと魔法を着実に覚えていった。
"魔術兵装"と"ファイア"と呼ばれる魔法を習得したのだ。
"魔術兵装"とは魔法使いが自身の身体能力を強化し、かつ身体の周囲に己を守る魔力の障壁を展開する魔法のことだ。基礎となる魔法の使い方を覚えたら、後は自分好みにアレンジするものらしく。
たとえば防御力を高めて身体強化はほどほどにするみたいな感じだ。
"ファイア"とは特定の場所を円形の火炎で包みこむ。火炎属性の初級魔法である。
技の性能からわかると思うがそろそろ実戦もいけるんじゃねってレベルに近づきつつあるのだ。
ルナは……
エリルもそろそろ実戦で魔物と戦うのも視野に入れているみたいだ。
一方孝也の方はまだ気功の基礎修行で時間がかかりそうだ。
正直俺は焦ってる。
確かに同一人物なんだが、元の姿である男のほうが弱いって現状が自尊心を傷つける。
落ち込まない方が無理ってもんだ。
エリルに言わせれば孝也の方も成長が早いらしいが、
ルナの成長はまた別格だ。早すぎる……
「正直、ずっとルナのままでいた方が強い気がしてきた」
「そうねー、でもルナのままでいるってことは女の子として生きるってことだからね?
せっかく変身するとかわいい服なのに、どうして私のあげた服の中でも男っぽい服ばかり着てるの?」
「いや、だって恥ずかしいし……」
読んでいた本を置いて俯くと。
「下着だって男ものでしょ?
紐でしばって無理して履かないで女性ものにしちゃいなよ」
なんか淡いピンクの三角形のものをもってエリルが近づいてくる。
はっ? もしやあれはエリルたんの脱ぎたてか。
いやいや、魔族化した俺をなめてもらっては困る。
嗅覚、聴覚ともに本気を出せば犬の如く鋭い嗅覚と鋭敏な聴覚を持っている。
犬がどれほど感覚が鋭いか知らんが、そう思えるぐらい小さな音や遠くのものが見えるのだ。
まぁ普段からそんなに感覚を研ぎ澄ましていると余計な音やにおいを察知してしまい疲れるので、
いつもは人間のレベルに感覚を制御している。
つまり何がいいたいかって、あのパンツじゃなかった、布からは匂いがしない。新品か。
「(エリルが履いてたものならありがたく受け取るが)自分が着るやつならいらないよ?」
「えっちな事ばかり考えている子はお仕置きだー」
「口に出してないなら無実だよーーー」
「うりゃあ、うりうり」
「きゃー、ちょっくすぐったい、むね揉まないでーーーーーー」
すぐに解放されたが、近くの木の根元で体育座りをして落ち込む。
ふいの事とは言え「きゃー」ってなんだよ……
自己嫌悪ぱないです。
現実逃避中の俺にエリルは加えて言った。
「それにね、仮にも女の子の姿なんだしそういったものにも慣れとかないと、
いつも恥ずかしがってたらもしルナに変身してすぐ戦うことになったらどうするの?」
そう、ルナになるとデフォルトでフリフリスカート姿になるのだ。
「うぅ、でも……」
「要は慣れだよ。いつまでも着ないから慣れないんだよ。
ずっと着てたら何も思わなくなるよ。ほら向う行くよ」
それって男として終わりじゃないでしょうか?
嫌だ―嫌だー、と木にへばりつく俺の脇をエリルはくすぐる。
一瞬力が抜けた隙に一気に木から離された。
その後はずるずる、俺は引きずられるようにテントの中へ連れられる。
髪の毛はかわいらしい花柄の髪飾りで1つに結い、白いワンピース、キャミにさっきのピンクの物体を装着されつつ俺は虚空を眺め黄昏ている。
エリルに着せてもらっているのだが、服を着せてもらう時に彼女の手が身体のあちこちに触れてめっちゃこそばゆい。
それに恥ずかしいよぅ。だってさ、女性の前で大の大人がすっぽんぽんだよ!?
それにそれに洋服だってこんなひらひらしたのを着てあまつさえ三角の物体を装着した自分などこの世に存在してほしくない。
「そんなことないよ~、かわいい!!」
今日はこれに耐え、明日からはまた男の服に戻そう、うんそうしよう。
これは妙案だ。希望の光が一条降り注いでいるようだ、ははは。
「これからルナの時は私が洋服選ぶからまかせてね、
クワナ村でたくさん買ってきたから」
おろおろ、心がオープンだよぉ~、これが羞恥責めというやつなのだろうか。
俺に逃げ場はなかった……
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次の町"アンバートン"にはあと3週間~1か月かかるらしい。
この時代の旅は長旅だな……
この1か月間俺は修行した。
昼は気功と魔法を、夜はルナ専用服なるものを着続けた。
もはや俺に羞恥心などない。男の服を着るが如くルナの服も着られるぞ。
あれ、おかしいな今日はいい天気なのに視界が滲むな……
まぁいいんだ、今は男の姿だしあと数時間はこのままでいられる。
時間が来たら……
やめよう考えるだけで憂鬱だ。
そうそう、俺とルナも結構使えるスキルが増えたんだ。
一覧にしてみたぞ。
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【孝也使用スキル】
スキル名
内気功 : 身体の中の気を操る技術
治癒気 : 気功によって対象の自然治癒力を向上させる。
気功破 : 手から気を放出する。約5m範囲近接技。ダメージ大。
気焔波 : 自身を中心に約10m範囲の物体を吹き飛ばす。ダメージ小。
気功砲 : 後に取得。気を球体に集め放出する遠距離攻撃。約100m先の敵に攻撃ダメージ中。
気功兵装 : 気功による身体強化とシールドを展開。リコルドが使えない魔法使いの魔術兵装並の力になる
【取得中スキル】
外気功 : 自身の外にある気を操る力
巫術 : 内気功と外気功を融合させた気
巫術兵装 : 巫術による身体強化術。リコルドした魔法使いの魔術兵装並の力になる
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【ルナ使用スキル】
ファイア : 特定箇所を円形の火炎で包む。初級魔法
フレイムアロー : 火矢を飛ばす遠距離攻撃。中級魔法
ファイアボール : 火球を飛ばす遠距離攻撃。上級魔法
魔術兵装 : 魔術による身体強化とシールドを展開。
アビリティ : 九つの世界
【取得中スキル】
ファーストエイド: 対象を必要最低限回復させる。
ヒール : 相手を回復させる。
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アビリティがルナの欄にしかないって?
いやあれね、詳細な内容はいまだ不明だけどルナ専用スキルだということが判明したんだよ、あははは。
俺も最近悟ったよ。きっとチートなのはルナの方で俺は一般人枠みたいだ。
チート能力持ってそうなのは嬉しいが女の子にならないといけないという……
そんな事を考えつつ、俺は装備を整え戦闘の準備をしている。
今は昼前だ、いつもなら修行をしている時間だ。
「今日は魔物と戦ってみようか」
エリル先生の指示によって今日の修行は実戦となった。
クワナ村で人間との戦闘はあったが、あれは否応なしに戦いざるおえない状況だったから緊張もくそもなかったけど、今回はこれから戦うと思うとちょっと緊張する。
初めて魔物とちゃんとした戦闘だしね。
道中はエリルが張った結界のおかげで魔物との遭遇は皆無だったからな。
「緊張しないで、教えた通りにやれば今の孝也なら大丈夫だよ。
イノシシは風魔法で"魔術兵装"のように自身を強化して突進してくるから注意してね」
エリルの助言を聞きながら深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「私は木の上から見てるから1人でがんばって倒してね」
「わかった」
俺は対戦相手である巨大なイノシシがいる場所へと向かった。
ターゲットとなる魔物はエリルが見つけてくれたみたいだ。
指定された場所に近づいてきたので、"気功兵装"を使う。
呼吸するよう常時発動させなければいけないらしいが俺にはまだできない。
毎回意識して行っている。ちなみにルナの"魔術兵装"だと無意識でやれます……
茂みに隠れながら標的を探す、この周囲にいるらしいとの話だ。
しばらくうろちょろしていると、前方に見覚えのある巨大なイノシシがぶどうのような木の実を食べていた。
こうやって改めてみると初めてこの世界に来た時の事を思い出す。
あの時とは一方的に襲われたが今は違うと自身に言い聞かせる。
心臓の細かく脈打つ鼓動を押さえつつ、背後から気取られないように忍び足で近寄る。
ターゲットまで80mほど近づいた所で"気功砲"を放った。
球体となった気がイノシシへ向かっていく。
そしてイノシシに"気功砲"が当たると同時に奴は雄叫びを上げてこちらに突進してきた。
(えっ!? 喰らってない?)
少し焦る。なぜなら"気功砲"以上の攻撃力のある技は"気功破"しかない。
これで倒せなかったらどうしよう?
そんな迷いもイノシシの姿が徐々に大きくなるにつれ思考の片隅に追いやられた。
イノシシは前方に風魔法で膜のようなものを展開している。
当初はイノシシのシルエットをしていた物体は、風魔法独特の薄緑色の魔力を纏った塊へと変貌した。
遠目に奴の顔が見えていたのに今では大きな球が向かってくるようだ。
突進してくる相手に正面から挑むのは愚策だろう、森の木々を利用しながら相手の正面以外を狙うべきだ。
イノシシと衝突する寸前で横に大きく跳んだ。
直後イノシシの突進によって木々が倒れるが俺にダメージはなかった。
どうやら初撃は避けられたようだ。
奴は木にぶつかりこちらに方向転換する際に一瞬硬直があった。
その隙を狙うべきだろう。
だが、イノシシはすぐに方向転換し追いかけてきていた。
今は反撃はできそうにない。
タイミング重要だ。イノシシが木にぶつかると同時に攻撃する必要がある。
精神を集中する、そして2撃目の突進を躱し、相手の側面を視界に捉えると同時に俺は気功砲を放った。
(どうだ?)
だが奴は何食わぬ顔で歩みを止めることなく向かってきた。
やはり喰らっていないのか。
風魔法で強化されたイノシシの猛進は木々をたやすくなぎ倒している。
徐々に視界が開けてゆく。
このままだと埒が明かない上にじり貧だ。
スタミナも気も有限だ。
避け続けて相手のスタミナ切れを狙ってもいいが、おそらく俺のほうが先にへばる。
刹那の逡巡が判断を遅らせたのか、気が少なくなってきているのか、
気が付くと目の前にイノシシが迫っていた。
かろうじで横に跳び難を逃れるも、イノシシが顔面の牙を下から上に振り上げ追撃する。
咄嗟に両腕でガードする。
「ぐ、、がはぁ」
牙をぶつけられる形で数十m飛ばされる。
防御はなんとかできたが避けれなかった。ダメージで硬直する。
すぐさま治癒気功で回復を試みると、じわじわと痛む身体から痛みが引いていく。
でもこのままでは回復が間に合わない。思ったよりもダメージが大きすぎた。
イノシシはトドメを刺そう俺に迫り来る。
身体が軋み動けそうにない、このままだと死ぬ。
でも1つだけ助かる道はある。
前にルナの姿で包丁で野菜を切っている時に怪我をした、その後孝也に戻るとその傷はなかった。
つまり今ルナになれば彼女の身体は全快のはずだ、もし仮説が正しければ避けられる。
それに魔法も使える。エリルがやったように魔法で倒せばいい。
ルナになれば倒せるはずだ。
ルナの姿に変身すると、すぐさま横に跳びのいた。
どうやら思った通り孝也の身体とルナの身体はイコールではないようだ。
体力満タンになった俺はは軽く跳躍するとイノシシの攻撃を避け、魔法を詠唱する。
「ファイア」
突進直後の方向転換時の硬直を狙い、炎がイノシシを襲う。
「ぶぉーー」
変な声が聞こえた、効いているのか?
しかし、炎が収まると奴の身体には傷一つなかった。
(魔法でもダメか……)
どうすればいいんだ?
そうだ、エリルに教えてもらったことを思い出すんだ。
確かこういうときは………………
そうだ! 相手をよく見る事が大事だと言っていた。
イノシシの突進は単調だ。大きく横に跳べば簡単に避けれる。
相手の攻撃を避けつつ観察する。
ん? 今まで側面にばかり気を取られていて気が付かなったがイノシシの顔に無数の傷があった。
あれはいつできたんだろう?
少なくても最初の攻撃したときにはなかったはずだ。
ではいつだ?
(俺の攻撃は1つも効いていなかった……、何であのイノシシダメージ負ってるんだ?)
俺はふと思いついた仮説を実行する。
突進するイノシシの前方に俺は仁王立ちする。
徐々に迫り来る相手に――――
「フレイムアロー」
正面から炎を纏った自身の腕くらいの大きさの矢を放ち、すぐさま横に飛びずさった。
すると、奴は呻くような鳴き声を発した後動きを止め俺の周りをゆっくりと歩き始めた。
顔面をよく見るとおでこのあたりが焦げている。
どうやら効いたようだ。
イノシシの顔の傷の正体は突進する毎に木々にぶつかりダメージを受けていたというわけだ。
これぞ正真正銘の捨身タックルですね……、おそろしいや……
おそらく、攻撃する事に魔力を集中したために防御にまわす魔力が足りないのだろう。
つまり、奴は突進してくる際に前方からの攻撃に滅法弱いということだ。
魔術兵装でも極限まで攻撃力を高め、防御を捨てることもできる。
エリルに聞いた話では右腕に強力な攻撃力魔法を纏い防御を排した人がいたらしい。
その人も魔力を集めた腕が弱点だったそうだ。
弱点がわかれば簡単だ。相手の攻撃を正面から迎え撃てばいい。
前半の苦戦が何だったのか思うほどあっけなく俺はイノシシを討伐した。
フォルトナでのヒエラルキー(戦闘力)
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Sランク(最強)下記の者より別格に強いもの
人口の1%程度
Aランク(強い)1つ以上のオリジナル魔法保有している。
人口の10%程度
Bランク リコルドと無意識に魔術兵装の行使を行う事ができる。
人口の13%程度
Cランク(普通)魔術師と呼ばれる。複数の属性魔法を用いた戦闘が可能。
人口の27%程度
Dランク 2つ以上の戦闘に使用する魔法を有する者。
人口の23%程度
Eランク(一般)単一の戦闘に使用する魔法を所有。簡易的な戦闘が可能。
人口34%程度
Fランク(雑魚)戦闘ランク最低。非戦闘員。
人口は約4%程度
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孝也: Dランク
ルナ: Dランク(火属性以外を覚えればすぐにBランク)
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