人間と魔族
エリルの手によって兄妹は一命をとりとめた。
兄と妹は俺とエリル、おばあさんを順に見て何度もお礼を言う。
なんて気分がいいんだろうか!!
助けられてよかった。
どうやらこの子たちは孤児で空腹に耐えかねて露店から食べ物を盗んでしまったようだ。
その話を聞くと。
「じゃあうちで働いてもらえるなら衣食住とわずかな金銭を渡せるがくるかえ?」
おばあさんが提案した。
子供たちも願ってもない幸運だとばかりに「働かせてください」と頼んでいた。
このおばさんは教会の人らしく、教会では孤児院のような活動もしているとのこと。
「それにしても、どうやってあの男倒したの?」
エリルが首を傾げながら言う。
なんか語調が強めだ。怒っているのだろうか?
「昔習った格闘術で投げ飛ばして刀の鞘で鳩尾を突いただけですよ」
「いい? 今回はたまたま左腕の怪我だけで済んだけど魔法を使われたどうするつもりだったの?
もう少し後先考えて動きなさい」
お説教は続く。俺は市場の端で正座をしながらひた謝る。
「でもこの兄妹を助けようとした事は偉かったよ」
最後にそう言うと、抱きしめられた。
暖かくやわらかい。いい匂いだ。くんかくんか。
段々くらくらしてきたぞ……ぐはっ
「ちょっ、エリルさん強い、強いよ。ひだ、うでぎゃーーーーー」
「えっ、あ、ああ、あわわ、ごめんなさい」
エリルは目尻を手で拭うと俺に回復魔法をかけてくれた。
もしかして泣いてたのかな?
心配をかけてしまったようだ。本当にごめんなさい。
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今俺たちは教会へ向かっている。
しばらく歩くと石造りの建物が見えてきた。
どうやらこれが教会らしい。
入り口の上の方には五芒星を描いたシンボルマークがある。
改めて異世界にいるんだなぁと思いつつ中へ入る。
室内は木製の椅子が並び前方には祭壇を思わせる独特なデザインの彫刻が並んでいた。
「エリル。ここで何をするのでしょうか?」
「ふふん。ここで"アビリティ"を引き出してもらんだよ」
「そういえば前にも言ってましたね。"アビリティ"って何ですか?」
エリルによるとアビリティとは個人が保有する特殊能力の事を指すらしい。
発現方法は2つある。
1つは自力で使用できるようになるか。
またはは教会の者(祭司と呼ばれる者)に潜在能力を引き出してもらうかである。
どうも祭司には対象の潜在能力を引き出す力があるようだ。
またアビリティには2つの種類存在する。
1つは"先天性アビリティ"。
遺伝する性質を持ったアビリティだ。
"先天性アビリティ"を持つ親から一定の確率で子供へその能力が遺伝するらしく、
生まれつき能力を持った子供がいるとのこと。
2つ目は"後天性アビリティ"
こちらは、生後何らかのきっかけで発現する能力である。
この"後天性アビリティ"は他者への譲渡ができるらしくかなり珍しい能力とのこと。
ちなみに祭司が持つ潜在能力を引き出す力は"後天性アビリティ"らしい。
祭司は代々潜在能力を引き出す力を引き継いでいるとのこと。
また、教会で引き出してもらえる能力は先天性と後天性関係なく、
自身の眠れるアビリティを目覚めさせてくれるらしいぞ。
魔法が使えないのだから眠れる力でもなんでも試そうという事なのだろう。
ふと疑問に思いエリルに質問した。
「"アビリティ"を複数所有することはできるのでしょうか?」
「"先天性アビリティ"1つ"後天性アビリティ"1つの最大2つだけだよ。
昔2つ以上のアビリティを得ようとした人がいるらしいけど失敗したみたい」
「そうなんですか。アビリティは皆もっているものなんですか?」
「多くの人は"アビリティ"自体持ってないよ。」
後天性のアビリティを大量に保有するチート野郎はいなみたいで安堵する。
でもアビリティは結構レアなのか。俺にはあるだろうか……
ちょっと不安だ。
こっちの世界来てすぐに魔法使えないし、少女になちゃうしで踏んだり蹴ったりだからな……
いや? 元からか?
そんな事を考えているとおばあさんが近づいてきた。
「どれどれ。お主はどんな能力を持っておるのかのう」
おばあさんが俺の方へ手をかざす。
ここで何か得られれば俺の異世界チートで無双計画も現実味を帯びてくるぞ?
でも得られなかったらどうしよう……
1分くらいだろうか。特に変化は感じられないがおばあさんは言った。
「どうかのう? 何か感じるかえ」
何もないと言おうと思った直後、頭にあるイメージが浮かぶ。
(九つの世界?)
「頭に能力名が浮かんだら、詳細な情報もわかるはずじゃぞ」
おばあさんの言う通り詳細な情報が頭に浮かんできた。
"自身が知っている***の知識を用いて****魔法を使うことができる"
一部わからねぇじゃん!!!!
皆にも能力の詳細をを伝えようとすると。
「待って、能力はその人の奥の手だから詳細は言わない方がいいわよ」
エリルが微笑みながらそう教えてくれる。
「ううん、大丈夫だよ。それにエリルには伝えておきたいし」
俺は能力の詳細がわからない事を伝えた。
「そんな事があるんのですかえ。今まで長く生きとるがそんな事例は聞いたこともない」
2人ともわからないようで、アビリティについては追々考える方向で話がまとまった。
せっかく力を得ても使い方がわからず落胆を隠せない。
でも能力が何もないよりましかな?
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おばあさんにお礼を言って外に出る。
何やら広場の方が騒がしい。
「何かあったんですかね?」
「うん。そうだね。行ってみようか」
エリルも気になるようだ。
小走りでエリルの後を追い村の中心部にある広場へ向かう。
住宅街を抜け道が開けると広場に出た。
人だかりができている。何事だろう?
俺の隣で「あ……」小さく呟く声が聞こえた。
一瞬驚き徐々に悲しみと怒りに満ちた表情でエリルは広場中央を仰ぎ見る。
視線の先には、木製の舞台があった。
皆の視線が集まるその場所に甲冑を身に着けた大男たちがいる。
その中でも特に巨体の男が前に出て言った。
「我は青薔薇十字団の団長。ハンスだ。
皆も知る通り。魔族の悪行に困り果てていたと聞き馳せ参じた」
ハンスと呼ばれた男は芯のある太い声で堂々と宣言した。
そんな悪いやつがいたのか。
「此度我ら青薔薇十字団は憎き魔族の捕縛に成功した。
皆にこの吉報とこれより彼奴の処刑を執り行う!」
聴衆から歓声が上がる。
いやいや、処刑ってそんな大罪人なの?
てか公開処刑ってことだろう。そんなグロいもん皆見にきてるの?
俺の疑問を他所に舞台上では処刑の準備が進んでいた。
ハンスは部下に指示を出し、彼の元に1人の少年が連れてこられた。
よく目を凝らしてみると、身体の所々に鱗のようなものがある。
耳は魚のヒレのようなものが付いている。まるで魚のような外見的特徴を持つ魔族だった。
身体は痣だらけで右腕はあらぬ方向に曲がっており足を引きずっている。拷問を受けたのは明らかだ。
「ぼくは何もやっていない!ただおとさんとおかあさんを探していただけだ」
魔族の子供はかすれた声で懸命に叫んだ。
「嘘をつくな」
「そうだそうだ」
「お前たち魔族が人間の村にくるなんてどうせロクでも無いことを考えているんだ」
「そうに違いない」
「でもまだ子供よ?」
「知るか!! 魔族を庇うとはお前も魔族の仲間か。こいつも捕えろ」
「やめください。私は魔族なんかの仲間じゃありません。」
民衆の声が聞こえる。
でも具体的な罪状はどこからも聞こえてこなかった……
「そうね。あの子はたぶん何もしてないわよ……
本当に・・・両親を探していただけ……」
エリルが悲痛な面持ちで声を震えさせて言った。
「我らはこの村に来る前に人魚族の男と女を殺した。
やつら子供のためと虚言を弄して盗みを働いていたのだ」
ハンス団長は不敵な笑みを浮かべ魔族の少年を見る。
経緯はよくわからないが少年の方はその言葉で両親の死を悟ったのだろう。
悲壮に満ちた顔で涙を流し声にならない言葉を叫ぶ。
ハンスは少年の絶望した顔に満足したのか彼の首を刎ねた。
俺は目を背けた。人の頭が切断される光景に吐き気を催したがすぐに収まる。
それに勝る怒りに満ちているからだ。
おそらく魔族の少年は本当に何もしてない。
なのになぜ殺された? 理不尽すぎだろう……
「行こう。村をでましょう……」
エリルの言葉に従い広場を後にしようとする。
「待て! そこの娘と小僧!」
急な言葉に後ろを振り返ってしまう。
すると、黒いローブに身を包む杖を持った男がこちらを凝視している。
顔は深いしわにで覆われ人相なんてわからない風貌だった。
団長が極悪非道のクソ野郎だがこいつは禍々しいオーラを放つ異形のそれだ。
人と呼ぶことすら憚られる存在だった。
「お前。魔族だな」
(お、俺か? バレてしまったか? 嫌でもどうやって俺の魔族化を……)
俺は戦慄した。
だがローブの男はゆっくりと指を指す。
そう、俺の横にいるエリルの方を――――
「いや、違う! この人は」
俺が大声で答えようとすると強引に手を引っ張られた。
誰かと思い手元を見るとエリルの手がそこにあった。
村の外に向かっているようだ。
「なぜ、反論しないの?」
「しても、どうせ信じてもらえない。
あの子を見たでしょう? 論理で通じる相手ではないわ。
それに信じてもらえなくて、あの人数に囲まれたら勝ち目がない」
平和な日本にいたからだろうか。差別なんて話して和解できると信じたい気持ちもあった。
魔族の少年も理由なく殺され、魔族を庇った発言をしていた女性も捕まっていた。
捕まった女性がどうなるのかは知らないけどひどい目に合っているのだろう。
それにエリルの言う事は正しいと背後から聞こえるハンス団長の掛け声で悟る。
「あの女は魔族だ! 村に害をもたらす前に殺すんだ!
我らも助太刀いたす。民衆よ。立ち上がるのだ。」
団長の鼓舞に民衆が同調している。
いやいや、冷静に考えてよ!? 俺たち何もしてないぞ?
金属の音や人の足音が徐々に迫り来るのがわかる。
そこに突如風を切る物体の音が飛来する。
俺は振り向こうとすると。
「だめ、走って"エアーシールド"」
エリルに注意され無心になって村の入り口にある門を目指す。
きっと後ろはエリルが守ってくれているのだろう。
何も飛んでくることはなかった。
後方は大丈夫だと安心する。
だが安堵したのも束の間。
前方の民家より武器を持った男たちが現れた。
「孝也。あの人たちを対処できる?
私の見立てならあの市場で倒した男と同じくらいの強さのはず。
もちろん援護はするから安心して」
エリルも前方まで対処しきれないようだ。
俺も守られてばりかではだめだ。
「大丈夫です」
短く答え、刀に手を添える。
敵の数は3人。1人は前方100m。
残り2人は500m先の門の近くにまとまっている。おそらく門番だろう。
どうやって速攻で相手を倒すかを考える。
前のように空手の技はだめだ。投げている間に追っ手に追いつかれる。
ならば居合だろう。
居合とは剣を高速で抜刀する技術だ。
その神髄は抜いた瞬間に倒せなくても2撃目の斬撃が最高速となり速度で相手を圧倒できる。
また、鞘に収まっている刀は相手からすると間合いが取りにくい。
剣道の授業で習った通りにやれば倒せるはずだ。
敵との接触まで3秒。2・・・1・・・0
息を止め。構えた刀を一気に引き抜くと同時に切りかかる。
相手の脇腹を刀が食い込み血が噴き出る。
が、腹の途中で刀が止まり動かなくなってしまう。
血に驚き力を緩めてしまったことにより中途半端な攻撃になってしまった。
引き抜くこともできない。刹那の逡巡が戦闘の明暗を分ける。
敵は俺の隙を見逃さず手に持った剣を振り下ろす。
やばい。死ぬ。
目を閉じる。
だが、来るべき苦痛はなかった。
かわりにまた手を引っ張られる。
「最後まで目を閉じちゃだめ。あと躊躇わない。
剣は命を刈り取る道具なんだから覚悟がないなら持つのはやめなさい」
怒られてしまった。おそらくエリルが助けてくれたのだろう。
前方にさっきまで戦っていた男が伸びている。
今回の敗因は躊躇いだ。
気を取り直し走る。
いつまでも落ち込んでいる場合ではない。
刀を鞘に納め再度居合の構えを取る。
門番2人はこちらに向かって槍を構え迎撃の準備をしている。
通常の戦闘では間合いの長い武器が有利だ。
こちらの間合いに奴をいれないと倒せない。
だが奴の間合いに入るのがまず困難だ。
「孝也。身体能力を強化するよ"シャープネス"」
赤い光が俺の身体を包む。
力が湧き出るような感覚と体感時間が遅くなった気がする。
おそらく"ゾーン"とか走馬灯とか呼ばれる現象を魔法で引き起こしたのだろう。
門番たちとの距離を一気に詰める。
門番の1人が反応して槍を突き刺してくる。
この人素人か? 槍の利点はその長さを生かした範囲攻撃だろう。
もちろん突きも強力だ。魔法の使えず武術の心得がない人間は回避不可能だ。
でも身体能力が向上している今ならば突きのような点の攻撃は避けるのは容易だ。
軽く体を捻り避けると相手の懐に潜り込む。
突きの攻撃によって姿勢が低くなっている男の首を刀で切りつけた。
これで1人目。
2人目に目をやると背後から横薙ぎに槍を振ろうとしている。
このままだと避けれない。
居合の一合目で1人目を倒しているので二合目の最速の攻撃をけしかけたい。
だが間合いが足りない。遠すぎるのだ。
先ほどのようにエリルが助けてくれるとは限らない。
あんな幸運に頼りっぱなしなのはいけない。
なんとかするしかない、考えるんだ。
妙案をひらめいた。
距離はあえて詰めず二合目の攻撃を行うべく刀を頭上から振り下ろす。
普通に振りおろせば攻撃はあたらずおわりだ。
でも振り下ろす力を残したまま刀を投擲したらどうなる?
門番の装備は心臓を強固な鉄製のプレートがあるがそれ以外に目立った防具はない。
腹に刀を投擲すれば刺さる可能性がある。
もちろん避けられる可能性もあるが一瞬隙ができれば槍を押さえて近接戦に持ち込めるはずだ。
刀を全力で門番の腹めがけて投げる。
門番は一瞬ぎょっとして硬直した。おそらく武器を投げるとは思わなかったのだろう。
その一瞬の迷いが刀を避けるという動作を遅らせた。
門番の脇腹には俺の刀が刺さった。
俺は即座に間合いを詰め苦痛を堪える門番の槍を奪い突き刺した。
倒れる門番から刀を回収しエリルと共に森の奥へと逃げ込んだ。
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日が西の空に沈み始めた頃。
あれから1時間程走りやっと追っ手を撒くことができた。
泉のほとりに本日の野宿の準備を終え一息つく。
急な命のやり取りを終えほっと胸を撫で下ろす。
安堵すると今まで考えないようにしていた事が頭をよぎる。
まさか人間に襲われるとは思わず動揺してしまう。
エリルもそれを察してか先ほどから口数は少なくどこかぎこちない。
微妙な空気に一石を投じたのはエリルだった。
彼女は思い出しと話を切り出した。
俺は血のついた刀を手入れしつつ話を聞く。
「あっ、そうだ。孝也もアビリティを教えてくれたから。私も教えてあげるね。
私は"リボンを操る力"《リュバンハントハーベン》と"読心術"《サイコメトリー》が私の能力よ」
律儀なのか。信頼されているのか。エリルは自身の能力を教えてくれた。
信用されているのなら嬉しいな。
"リボンを操る力"《リュバンハントハーベン》はエリルの腕に巻き付いているリボンを操る力らしい。
もう1つの能力はちょっと絶句した。"サイコメトリー"って読心術か!?と考えていると。
「その通りだよ」
ええー。考えている事が読まれている。
「やっぱり怖いよね……」
エリルは落ち込んだ様子で恐る恐るこちらを見る。
だが、俺はそれどころではない。
やばいやばい。紳士を気取るつもりがすべてダダ漏れだと!?
つまり、今まで考えていた変態な妄想もすべて筒抜け・・・だと?
あれ、いや待てよ。妄想がすべて読まれてたみたいだが、嫌われてはいない?
見限られてたらいつでも師弟関係切れるもんな。
あっ、つまりオープンスケベになればいいのか!
「いやいや、隠してね?」
「怖くはないよ。俺が気にしたのはかわいい子にエッチな妄想がダダ漏れなのが気になるくらいだ。
でもそれがバレている以上。もう何も知られて困るものはないよ。
だから気にしなくて大丈夫だよ」
気の利いた言葉なんて出てこない。
でも今思いつくベストな言葉を選んだつもりだ。
言葉使いもあえてありのままで話した。
心を読んでもらえばわかると思うが、
それでも言葉に俺のあるがままの気持ちを伝えたかった。
落ち込まなくていいんだよ? 俺は気にしてないよ?
「ありがとう」
エリルの瞳から涙が零れる。
「ごめんね。そんなつもりで話したんじゃないけど」
頬に滴るものを布で拭いながら続ける。
「お父さんから読心術の事は話してはいけないと言われたんだけど。
ある時ね、私の外見を誹謗するような声を聞いちゃって、
なりたくてなった姿じゃないのにって、すごく悔しくて悲しい気持ちになって。
友達にね。打ち明けたの。
その時はすごくすっきりした気分だったわ。
でもその日からその子は私を避けるようになった。
この力はね。私の意思とは関係なく常時発動するから避けている理由も聞こえて……」
かつてを思い出したのだろう。言葉に詰まってしまった。
その友人の行動もわからなくはない。
自分の心を読まれているというのはいい感覚じゃないだろう。
だって、誰しも隠したいことはあるはずだ。
それを勝手に覗き見てしまうのだから。
心を読める能力に特異な外見だ。
彼女は見たくもない相手の本音を見てしまう事もあったのだろう。
「今日もね。人魚族の少年の声も聞こえた。
彼は本当に何もしてないし、彼の悲痛な叫びが聞こえて……
それに、私のせいで孝也も魔族の仲間だと思われてしまった…………」
気が動転しているのだろう。
魔族の少年の心が読んだエリルは俺以上に理不尽な現実を見てしまったのだろう。
この件はなんて言えばいいのかわからない。
だって、俺も理不尽でクソみたいな現実だったと思う。
でも1つ言えることがある
「俺はエリルのせいとかそんな風に思ってないよ」
「でも、これからあいつらにずっと追われるんだよ。
あいつらは魔族狩りを専門で行っているから、逃げた獲物は逃さない。
広場にいた女性を見たでしょ? 魔族に関係してるだけで捕まってしまうのよ?
私がこんな外見じゃなければこんな事にならなかったのに。」
赤い瞳から滴が頬を伝い、身体は震え顔は真っ赤になっていた。
今までエリルは青薔薇十字団のような存在に狙われなかったのだろうか。
ふと考えてしまった。でもすぐに悟る。
おそらく人間と魔族が共存している町もあるって話だから場所によるのだろう。
それに今はそんな事を考えている場合じゃない。
思考を頭の片隅に追いやり、エリルの涙を拭いながら言う。
「エリル。エリルは悪くない。
もっとも悪いのは青薔薇十字団の方だよ。
罪のない命を奪ったのだから」
微笑みながら彼女の肩に手を置いた。
「私と一緒にいない方がいいよ」
「危ないから?」
「うん」
「でももう俺たち狙われてるんでしょう。だったら一緒にいた方が安全だろ。
それに俺1人だったらすぐ魔族に殺される。
エリルがいたからここまで生きていられたんだよ」
「学園都市なら守ってくれるからそこまではちゃんと送る。
でもその後は私がいなくても大丈夫でしょ?」
「エリルも学園都市にいればいいのでは?」
「だめ。迷惑がかかるから……」
「俺に師匠で命の恩人を見捨てて1人安全圏にいろと言うのか!
悪いけどエリルの指図は受けない。
俺はエリルの傍にいたいからいるんだ」
ちょっと声を荒げてしまった。
「ごめん。言い過ぎた。
でもこれからもエリルと一緒に着いて行くよ。
少なくても別れる時はお互いが納得したその時だ。」
「私と一緒にいてくれるの?」
上目使いで見つめられる。
エリルは俺が離れていくと思ったのだろうか。
「もちろん」
そう言うと俺はエリルをおっかなびっくり抱きしめる。
拒絶されだらどうしようと思ったが抵抗はなかった。
身長が同じくらいなので男らしく胸を貸してあげる事はできないけど。
ひとしきり涙を流し落ち着くまでこのままでいよう。
最後までご覧いただきありがとうございます。
よろしければ次回もご覧頂ければと思います。
# 今回の話はもしかしたら修正を入れるかもしれません。(予定は未定)
# 特に終盤のエリルとのやりとり。ちゃんと2人のつながりが強くなったように描けているだろうか……