最初の村
魔族化(女体化)するようになってから2日経った。
1日1回程度は魔族化してしまうことがあったが。
俺とエリルの2人旅だ。特に問題なく過ぎていった。
「立派な女の子に育てるんだから!」
エリルはなんか意気込んでたけど、女として生きる気ないんですけど?
そもそも見た目幼女っぽいけど中身成人ですからね。
エリルは魔族化した方の姿が気に入ってる様子だ。
この子の事になると、妙に熱意に満ち溢れているように思う。
気のせいだよね?
洋服は彼女のものを借りている。
少し大きかったが何とか着れた。
(エリルが着てた服か。ぐふふ)
最初はちょっと興奮したが、
ジト目でエリルから「変態」と叱られた。
俺、口に出してた?
手間取った事と言えばトイレが少し大変だった。
小便を止める感覚? が女の子の状態だと尿がでる感覚だった。
使う筋肉が違う気がする。
ちょっと漏らしちゃった……
「始めてのことだから仕方ないよ」
エリルは俺の頭を撫でながら慰めてくれた。
この年で漏らすとは…… かなりショックだ。
黒歴史は忘れよう。そうしよう。
そういえば、魔族化している時の名前も決まったんだ。
「少女の姿と元の姿を区別するのに別の名前がいいな」
エリル曰く、少女の姿も男の名前なのは気になるとのこと。
まぁ呼び方なんてどうでもいいかとその時は考えていた。
「月みたいな髪の色だし"ルナ"はどうでしょうか?」
その場の思い付きだったが、
そもそもネーミングセンスはないのでこれ以上案が浮かばない。
でも自分の中で一番名前としてしっくりきた。
「かわいい名前だね。語呂も良い感じだし。ルナちゃんでいいと思うよ」
女性が良い名前と言ってるわけだし、問題なさそうだ。
そんなわけで"ルナ"という名前に決定した。
「そういえばエリル。"ルナちゃん"じゃなくて"ルナ"って呼んでください。」
「なんで?」と首を傾げている。
「は、はずかしいので……」
俺はもじもじしながら答えた。
すると顔を綻ばせてエリルは「かわいいーー」と抱きしめられた。
花の甘い香りと女性らしいやわらかい感触にドキッとする。
彼女の心臓の音。身体の体温が伝わってくる。
(ここは極楽か!?)
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今俺たちはクワナ村へ向かっている。
もうあと1時間もすれば目的地に着くそうだ。
(昼前にはクワナ村に着けそうだ)
木々が一面に生い茂る中、いくら進めど単調な風景。
舗装されていない道を進む。赤褐色の土の凹凸が足に負担をかける。
男の姿だからまだいいがルナになっていたらすぐバテていたかもしれない。
魔族といっても体力がある種族とない種族がいるらしく、
俺は体力がない種族みたいですぐバテる。
そろそろ森には飽き飽きしてきた所だ。
やっと、エリル以外の異世界人に会える。
そう思うと自然と足取りは軽くなる気がした。
今は好奇心が俺の原動力だ。
道中もできる修行をしている。
今は魔力を身体のあらゆる所に集める、魔力操作の練習中だ。
男の状態で魔法の修行はこれくらしかできないからな。
(もう魔力操作は余裕だな。結構暇だー)
もしルナに成れるならちゃんと魔法の練習がしたい所だ。
もうちょっとで魔法が使えるみたいだし。
村への到着が近いので魔族化はできない。
誰がいるかわからにからね。
欠伸をしながら思案に耽る。
気のせいか。
初めて魔族化してから物覚えや魔法の習得スピードが早くなった気がする。
例えば一般的に魔力操作を覚えてから魔法を使うのに1年程度かかるらしい。
だがルナはもうちょっとで魔法を使うことができる。
(結構早く1人前になれるかも?)
ちょっとワクワクする。
でも、成長速度こそ上がっているがまだまだ未熟だ。
赤子に言葉を教えるが如くだ。時間がかかると再認識する。
(浮かれてないでがんばらないと。この世界でも底辺になってしまう!)
いくら身体年齢13歳前後(推定)になっても精神年齢は24歳だ。
この歳で0からのスタートである。
教える側の事を考えると大変なんだろうと思う。
でもエリルはやさしく、俺に手取り足取り教えてくれた。
説明は的確で要領よく教えてくれる。
俺の成長速度の一端は間違いなく彼女のお蔭であると思う。
そして改めて思う。彼女がいなければ、
例えあのイノシシから逃げられてもすぐに死んでいただろう。
最初の魔物との遭遇以来戦闘はなかった。
だが戦闘になっていたら?
考えるだけでもぞっとする。
それに、森の真ん中から人里まで移動できるだろうか。
確実に森で遭難してただろう。地理がわからないし。
エリルには感謝してもしきれない。何か恩返しができれば良いな。
俺にできる事ならなんでもやるぜ!!
そういえば、この2日間で魔族化についてわかったことがある。
1. 1日の内12時間は魔族化しないといけない。
男のままでいると強制的に変身する……
逆に言えば、12時間は男でいられる。
そして、魔族化はいつでも自由に変身できるみたいだ。
2. 魔族化していないと魔法が使えない。
なお、魔力操作は男の状態でもできる模様。
身体の外に魔力を放出する事はできなかった。
エリルの言葉に従えば、魔族の姿は人目に触れない方がいい。
日に12時間は人にバレないように過ごす必要がある。
しかも魔族化している時以外は魔法が使えない。
結構なハンデだな。
(魔族の姿。隠すの結構難しくね?)
ちょっと先行きが不安になってきた……
これ以上の思案は鬱になりそうなので他の事を考えようと顔を上げると――
目の前。500m先に小さな門のようなものが見えた。
もう数刻とすれば村へ着きそうだ。
どんな人が住んでいるのだろう。
治安は? どんな生活をしているのだろう。
新天地に心を馳せ。気を取り直す。
右腕の機械式時計は11時を示している。
嬉々として右側を歩くエリルに目をやると、
彼女は魔法を使っている所だった。
「なんで魔法使っているのでしょうか?」
「私の外見。魔族みたいでしょ?
だから勘違いされて攻撃されるといけないからね。
町に入る時はこうやって変装するんだよ。」
そう言われて見ると、確かに黒髪の茶色の瞳になっていた。
(おおー、変身術ってあるのか!!)
魔法便利すぎだろ。
「この魔法使えば魔族化しても男に変装できますね!」
「うんうん。そんな魔法はないよ。
この魔法だって身体の一部を幻惑してるだけ。
精々変えられるのは髪の毛と瞳の色くらいだよ」
(できないのか。結構期待したんだけど…… 残念だ)
この魔法は光魔法を応用した彼女のオリジナル魔法らしい。
さすが師匠。オリジナル魔法を作るとか天才だな。
オリジナル魔法を作るのがどのくらい大変かわからないけど……
エリルは照れながら微笑んだ。
彼女はそれからと。
「わかってると思うけどルナちゃんの姿は村の人にバレないようにね」
念を押されてしまった。
エリルが心配性だから魔族化を隠したがるのかと思ってたけど……
誤解みたいだ。
人間と魔族ってそんなに仲悪いのか。
「どうして人間と魔族は仲が悪いのでしょうか?」
「うーん、色々理由はあると思うけど
300年くらい前に人間と魔族で大きな戦争があったからかな」
そうだったのか。
種族間の戦争があれば終戦してもすぐには関係修復は無理だよな。
「戦争はもう終わってますか?」
「うん。勇者達が戦争を止めたんだって」
勇者がいるのかよ。本当にファンタジー世界だな。
しかも勇者は人間と魔族を仲間に連れていたそうだ。
(さすが勇者。人間と魔族で戦ってるのに他種族を仲間にするとか器がでかい!)
勇者は人間と魔族が平等に生きられる社会を作ろうとしたらしい。
その理念に基づき現在は平和な世界になったが、それでも禍根は残ったそうだ。
ここは勇者が世界を救った後の世界なんだな。
ちなみに、この勇者の物語は"4英雄伝"というらしく。
その勇者の故郷がクワナ村とされている。
今度詳しく調べてみよう。
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クワナ村に着いた。
村と言うのでもう少し小さい村を想像していたが、
近くで見ると結構大きな村のようだ。
村の門の近くに行くと門番らしき2人に話しかけられたが、
旅人であることを伝えると通してくれた。
「門番に通行料をとられるかと思いました」
「それは場所によるね」
「どういうこと?」と俺は聞く。
「この世界では東の人の国と西の魔族の国があって。
今は2つの国が協議して法律を決めてるけど、
基本的には法律はないに等しいんだ。
あるとしたら、王に従うって事くらい。大雑把なの。
だから細かな法律は各村や町が決めているってわけ」
「つまり、通行料は町や村によると言うわけですね」
「そういうこと」とエリルは言った。
「こんなバラバラな法律で王様は国を統率できているのですか?」
「人王と魔王は絶対的な"固有スキル"《アビリティ》を持ってるからね。
ちゃんと統率できてるんだよ」
"固有スキル"について聞いてみたが、
「後で教会に着いたら教えてあげる」と言われた。
なんで教会?
「そういえばエリル。この村で何をするのでしょうか?」
「物資の補給とちょっとしたプレゼント」
プレゼント? 疑問に思っていると彼女は口に人差し指を当てて
「ひ・み・つ」
ウィンクされた。
きゃわいい。もう俺イチコロです。
門を潜り少し進むと市場に着いた。
左右に規則的に並んだ店。
祭りの夜店のような外装だった。
もちろん、元の世界とは異なり鉄製ではなく木製だったが。
陳列されている商品をエリルが買っていく。
日持ちする食べ物を選んでいるらしい。
荷物は彼女が持つウエストバッグに全て収納されている。
リアルアイテムボックスだ。
"インベントリバッグ"というらしいぞ。
商品に目をやると基本的には元の世界にあったような物が並んでいる。
緑色の人参とか。青色のダイコンとか。
俺の知っている食べ物とちょっと違うくらいだなと周りを見る。
「ぎゃーーーーー。これ、なに」
人参的なものに顔がついてるぞ!
こんなもん売っていいのかよ。
しかもなんかしゃべってるぞ。これ。
「のののののの」
「ぐああああーーーーー」
「土にかえしてー」
うん。何も聞かなかったことにしよう。
「"マンドレイク"だね。ポーションとか薬の材料になるんだよ」
俺の悲鳴が聞こえたのか。エリルが解説する。
「なんかしゃべってるけど…… 。これも魔物ですか?」
「ああやって人を惑わすんだよ。耳を貸しちゃだめ。
あと"マンドレイク"は植物だね」
"マンドレイク"はかなり知能が高い植物らしい。
知能が高いといっても地面に根を張っているので、
巧みな話術で人をたぶらかすそうな。
引っこ抜かれるとほとんど知能はなくなるとのこと。
魔物。動物。植物。どうやって見分けてるのか疑問に思ったが、
よく見てみたらこのこの植物に魔力反応がなかった。
おそらく、エリルの話から察するに魔力反応があったら魔物なんだろうな。
周囲を観察しようと。道行く人々に目を向ける。
顔は日本人に似た感じで、少なくても西洋風ではなかった。
服装は独特なもので。
男は袴っぽい、幅広いズボン。
女は長いスカートのようなものを履いている。
色は赤・青・黄と様々だった。
ふとご婦人の会話が聞こえる。
「ねぇ。聞きました?」
「何が?」
「"青薔薇十字団"がこの町に来てるんですって」
「また魔族が何かしたの?」
「そうそう。魔族が物を盗んだらしいですわよ」
「"青薔薇十字団"が来てくれてよかったザマスね」
「でもどうしてこんな辺境に高名な騎士団がいらしゃったのかしら」
「どうも近くを調査にきてたらしいわよ」
「それにしてもこわいわね」
「そうね。早く討伐して頂けないかしら」
「私の夫の話だとその魔族。捕まったって話だったわよ?」
「そういえばさっき広場で魔族を処刑するって話を聞いたザマス」
"青薔薇十字団" "魔族" "討伐" "処刑"不穏なワードのお祭りだな。
エリルに詳しく聞いてみようと考えて彼女を見ると、
市場を抜けた先の家の前から呼ばれていた。
急いで駆け寄ると。
「ここで武器を買ってあげる」
腰に手を当てて誇らしげにエリルは言った。
「えっ。いいんですか?」
「弟子の武器を整えるのも師匠の義務だよ」
正直剣とか買ってみたかったんだ。
お金もないし、ここで変な意地張ってもこのまま丸腰では命はないだろう。
お言葉に甘えよう。
店内に入る。
剣・斧・槍・弓・杖 があった。
俺のボキャブラリーで可能な限り分類した。
「どれがオススメでしょうか。エリル。」
「好きなものにした方がいいよ。
アーティファクト持ちじゃない限り人生の相棒になるわけだし。」
「アーティファクトって何ですか?」
「武器を召喚できる人がいてね。召喚された武器のことだよ」
うーん。迷う。
どれがいいかな。元の世界では選択教科で剣道はやったことがある。
剣かな。でも初心者ならリーチのある槍の方が強くないか?
でもな、リーチ分なんて魔法でなんとでもなりそうだし。
よし、決めた。ここは剣にしよう。
(経験が少しでもあったほうが有利だろう)
剣が置いてる棚へ行く。
長さがも色々あるな。二刀流とかかっこいいよな。
中程の長さの剣を1つ買ってあとで買い足すか。
てか、予算とか聞いてないな。あんまり高いのはまずいな。
たしかこの世界のお金の価値をまとめてみよう。
== 金銭価値 ==
フォルトナ 元の世界
金銭価値 金銭価値
大金貨 100万円
金貨 10万円
銀貨 5万円
銅貨 1万円
金銭 1千円
銀銭 500円
銅銭 100円
# エリルの話より推測
# この世界の平均月収は金貨2枚とのこと
以上の事を踏まえて、店内の価格と照らし合わせる。
銅貨1枚以下の値段の物を選べばいいかなと考えていると。
「大丈夫だよ。金貨1枚くらいなら」
と小声で教えてくれた。
(てか、10万も買ってくれるの!?)
本当によいのかと聞いたが、
「選ばないと勝手に選んじゃうよ?」と言われてしまった。
「ありがとうございます!」とビシっと礼をする。
次回。武器の選択とアビリティについて話を進めたいと思います(予定)
最後までご覧頂きありがとうございました。
よろしければ次回もご覧頂ければと思います。