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異世界召喚×魔族少女  作者: 古川一樹
すべてのおわりに
34/35

崩壊 後篇

学園に到着するとアークとロジャー指揮の元住民たちが校舎内に避難していた。

校舎の周囲には自警団が警戒にあたりまるで重い雰囲気が辺りを覆っている。


カイルが言うには有事の際に学園都市で一番安全な場所がここらしい。

その理由は学校がある種の要塞になり食料や装備品をたくさん備蓄しているからだそうだ。


俺らは近くにいた自警団の人にアークの場所を聞き出して学長室へと向かった。

部屋の前につくとノックも早々にノルンが部屋に突入する。


「おじぃさま!!!!」


いつもの窓際の机に座すアークにノルンはぱたぱたと走って抱き着いた。

そんな孫娘を軽く受け止めるとアークはノルンの頭を撫でながら俺たちを見て言った。


「みんな無事じゃったか。よかったわい。」


「お爺様。父様と母様もここに避難してるにゃ?」


「ああ。大丈夫じゃよ。」


何が大丈夫なんだとツッコミたくなるような曖昧な返答をするアーク。

一瞬顔を顰めたようなだがどうしたのだろう。

何だか様子のおかしいアークにノルンは言った。


「会いたいにゃ。どこにいるの?」


「皆ここではないが安全な所に避難しておるよ。」


さっきまでとは打って変わっていつものアークに戻って落ち着いて毅然とした対応でノルンに言い聞かせる。

そしてノルンが何でかわからないがお爺様がそう言っているからそうなんだと無理やり納得したようで小さく頷く。

それを見たアークが満足そうに笑うとこの話はおしまいだと次の話題を投げてくる。


俺は頭の片隅に悲惨な状況を想像していた。

もしかしたらノルンの家族はもう―――――


そんな俺の思考を遮るようにアークは言った。


「ところでロジャーとは会わんかったかのう? お前たちに万一にのことがあってはいけないとアヤツ自ら迎えにいったはずなんじゃが。」


アークの問いにカイルの顔が一瞬表情が無くなった。

その表情を見て皆もなんて返したらいいかわからず視線を泳がせる。

返答に迷っているとカイルが静かに絞り出すような声で言った。


「父は魔神から俺たちを守って死にました。」


俺たちの雰囲気から大体の事情は察していたのか。

それとも長く生きているだけあって人の死に慣れているのか。

町の長として動揺する姿を見せないようにしているのか。

アークの表情からは読み取れない。

ただいつもより真剣な顔つきになって何かを考えながら答えた。


「そうじゃったのか……」


「父が魔神を封じているのでしばらくは動けないはずと言っておりました。」


カイルがロジャーの最後を伝えるとアークは意を決したと俺たちを真っすぐに見つめると言った。


「そうか。ロジャーが…… 。

わかった。皆よく聞け。これよりお前たちは孝也。いやルナの世界へ行くんじゃ。」


「でもどうやって行くのにゃ?」


ノルンが首を傾げて言った。

時間がない。

小さく呟いたアークが引き出しから地図を取りだして机に広げて言った。


「エルフたちが残した遺跡がクワナ村の近くにあるのじゃ。」


俺は驚いた。アークが目的地を記すとその場所は―――――

最初に俺とエリルが立ち寄った村。そこから少し東にペンで×印が付いている。

その近くにエルフの遺跡がある?


あの時、エリルと出会ってから俺たちは西へ進み続けた。

つまりクワナから東に向かうってことは最初に俺がいた場所の近くじゃないか!


アークが地図を俺に手渡す。

俺はボーっとしていて渡されるものを流れ作業のように何も考えずに受け取った。

あの時のエリルの言葉を思い出していたのだ。

「私は古代遺跡を調べている」と。

それが何だったのか。今わかった気がする。


地図を受け取り俺たちはアークが付いて来いと言うので、

その後について学園の地下へと向かった。

まさか禁書の部屋から隠し扉があってそこから地下通路があるなんて誰が想像しただろうか。

俺たちはここは何をする場所なのか。俺たちはなぜここに連れてこられたのか聞こうと立ち止まる。

すると俺たちの言葉を遮るようにアークが言った。


「さぁ。長居は無用じゃ。すぐ町を出なさい。この道を進めば安全に外に出られるはずじゃ。」


アークは付け加えて申し訳なさそうに言った。


「何か旅の役に立つ者をあげられれば良いのじゃが…… 今は渡せるものがない」


その言葉にノルンが心どんな返答をするかわかっているけども納得できないそんな心情が伝わってくるような目でアークを見て言った。


「おじい様は?」


「ノルンや。ワシはこの町の領主じゃ。町の者たちを守る使命がある。

じゃからワシはここに残る。お前たちだけで行くんじゃ。わかったかい?」


「いやだ! いやだよ。おじい様を置いていけないよ。だってだって。」


その先を言おうとするノルンの口に手を当ててアークが言った。


「ノルンわかっておくれ。何。今生の別れではないのだよ。

ワシらも住民と共に後から避難するわい。じゃから安心するのじゃ。」


「うそ。」


小さくそれでも力強く呟いた。


「本当じゃ。ワシが嘘ついたことなど今まであったか?」


アークがノルンを宥めようとまるでいつもの学長室で雑談をしているようなそんな雰囲気でお道化て言った。


「いっぱいある。」


だがこんな状況でお道化たのが気に障ったのかノルンが少し怒りを含んだ語調で言った。

「うっ」と小さく思い当たるフシがありすぎる男が呟く。


「お父様とお母様は別の場所に避難したって言ってた。けどどこに行ったの?

ここ以外に逃げる場所なんてないでしょ。お爺様私だってそのくらいわかるよ。

お父さんとお母さんはどこ?」


そしてノルンは好機と見て畳みかけるように先ほどはぐらかされた事を問いただす。


「そ、それは……。」


口ごもるアークの返答に何を意味しているのかノルンも察したのだろう。

アークに抱き付くとわんわん声を上げて泣きながら言った。


「お父様とお母様も失って、お爺様もいなくなったら、私独り。」


「そんなことはない。ノルンには友達がいるじゃないか。」


アークが俺たちを順々に見て優しい笑みを浮かべてノルンの頭を撫でる。


「友達は家族ない。それに死んじゃう。のに置いていけない。」


ノルンも「うん、わかった」とは言えないだろう。

俺も逆の立場なら絶対に置いては行けない。

だから何も言えない。何か言うにしても何を言えばいいだろう。

それに思考してしまうんだ。この話に答えは1つしかないのだと。


「生き残ってもこんな老いぼれはどの道近いうちに天寿を迎えるわい。」


珍しくニヒルな口調でアークが自嘲する。

そんなアークに泣きじゃくりながら怒りを露わにして強い口調で言った。


「でも今じゃない。」


「ノルンや。わかっておくれ。誰かが残らなければお前たちが逃げる時間が稼げないのじゃ。」


「だったらお爺様が残る必要ない。ロジャーの魔法であいつも動けないはずだよ!」


ノルンはそう言い放つが一方でわかっているはずなんだ。

ロジャーの封印術が徐々に弱まりつつあることに。


「そうじゃな。じゃが、長くは持つまい。ノルンもわかっておるじゃろ。さっきまであんなに強かったあいつの魔力がもうこんなに弱くなっている。いずれ魔神はここに来てしまうだろう。

そうなればロジャーと同等の力を持った奴がいなければ足止めはできん。

それができるのはワシぐらいじゃ。」


「で、でも……」


どう説得されても納得はできない。したくない。

不満げにそう呟いた。そんなノルンに対してアークが怒鳴りつける。


「わからないのか! お前を愛しているから生きてほしいからここに残るんじゃ!!!!」


語調とは裏腹に物わかりのわるい孫娘に怒っているというよりはそんなに思ってくれた事に嬉しそうな雰囲気を感じる。

でもわからせなければならない。そのために叱っているんだと伝わってくる。

だってあんなに強くノルンを抱きしめながら怒っていても説得力ないだろう。


「わかってるにゃ。」


ポロポロと大粒の涙が頬を流れる。


「わかってない。誰も死にたくないに決まってるだろ。

ロジャーだってそうだ。でも大事な人に生きてほしいから自分を犠牲にして魔神を足止めしたんだ。」


「ひっく。でも。いやにゃ。嫌だよぅ。」


途切れ途切れの言葉に嗚咽が混じって声が掠れている。

アークは一転してやさしい語調でゆっくりと目線を合わせて言った。


「なんでそんな事をするのかわかるか? もしそうしなければもっとつらいからじゃよ。

最悪の事態を避けるために最善を尽くした。ロジャーはカイルをお前たちを守ったんじゃ。」


ノルンが泣き崩れて地面にへたり込む。

それを包みこむようにアークが抱擁する。


どれほどの時間が過ぎただろう。

ノルンが少し落ち着きを取り戻した頃アークが立ち上がると言った。


「孝也! ノルンを頼むぞ。」


「ああ。」そう小さくでも力強く頷く。

そして皆がそれぞれアークに最後の言葉を伝えて俺たちはアークに別れを告げた。

俺たはノルンの小さく震える手を力強く握りしめて地下通路を走りだす。



最後までご覧頂きありがとうございました。

よろしければ次回もご覧頂ければと思います。

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